HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第5回 風景は描けなくても、
骨は描ける。

早野

数年前になりますが、
ぼくは先生の書いた記載論文を
読んだことがあるんです。
普段、物理じゃない論文を読むことは、
あんまりないんだけど(笑)。

佐藤

わけがわかりませんよね。

早野

そう、よくわからなかった。
知らない専門用語もいっぱい出てくるし。
でも、わからないなりに、
とても感銘を受けたんです。
特に論文の中に出てくる、スケッチ?
あれ、すごくいいなぁと思いました。

佐藤

わぁ、うれしいです。
ありがとうございます。

早野

これ、わざわざ絵にしなくても、
化石の写真があるんですよね。

佐藤

はい、あります。

早野

ぼくは物理の実験をやってるので、
エビデンスとかデータとかが、
とても大事な分野なんです。
そういう分野のぼくがこれを読むと、
化石という現物データがあるのに、
それをわざわざ絵にしているところが、
ちょっと新鮮でした。

他の方もこういう絵は描くんですか?

佐藤

描く人もいれば、描かない人もいます。
プロに頼む方もいらっしゃいますし。

早野

描くことは義務ではない?

佐藤

義務ではないです。
なのになぜ描くかと言うと、
三次元の化石の凹凸を
二次元で説明するときに、
写真だと細かいディテールが
わかりにくいんです。

早野

あ、なるほど。逆にわかりくい。

佐藤

私が絵を描く目的のひとつは、
凹凸を正確に表現するためで、
点描画にしてるのもそのためです。

早野

絵を描くということは、
古生物への興味と並行して、
子どものころからあったとか?

佐藤

ないです。

乗組員A

即答ですね(笑)。

早野

描き方は誰かに習ったんですか?

佐藤

完全に独学です。
われわれの業界って
標本自体がとても定性的なので、
数字やデータで表現ができないんです。
なので、現物をよく知るために、
まずはスケッチをします。

早野

まずは形を知るために描く。

佐藤

お医者さんになる人は、
医学部で骨のスケッチをしますが、
あれもスケッチをすることで、
形を三次元で覚えられるからです。

目で見てるだけだと、
骨の形って意外と理解できませんが、
スケッチをしていると
「ここは出っ張ってる」とか
「ここはへっこんでる」とか、
描きながら認識できるんです。

早野

かなり練習されたんですか?

佐藤

最初はだいぶん練習しましたが、
苦労とは思わなかったですね。

早野

もしかしたら絵を描くのが
得意だったりするんですか。
例えば、風景画とかも。

佐藤

うーん、どうでしょう。
私、骨しか描いたことがないので。

早野

骨しか(笑)!

佐藤

骨しか描かないので、
風景画とか描いたことがないんです。
だからどうなんでしょう‥‥。
たぶんうまく描けないと思います。

早野

風景は描けなくても骨は描ける。

佐藤

はい。

乗組員A

骨を描くときって、
いつもフリーハンドなんですか?

佐藤

はい。紙とペンだけで。
どうやって描くかというとですね、
例えばこういうのだと‥‥。

早野

それはなんの骨?

佐藤

ウミガメの頭蓋骨の模型です。
すごくざっくり説明すると、
はじめに鉛筆を使って、
骨の形と凹凸がわかるように
正確に描いていきます。

早野

まずは鉛筆で下絵を描く。

佐藤

下絵が完成したら、
その上にトレーシングペーパーをのせて、
ペンでなぞります。
それから輪郭をなぞって、
凹凸にそって点描で影をつけていく。
影といっても、
光をあてたときの影ではなくて、
奥行きを表現するための影です。

早野

通常のデッサンとはちがいますね。

佐藤

ここでは光と影ではなく、
凹凸を表現することが目的なので、
飛び出してるものは白っぽく、
へこんでいるところは黒っぽくなるように、
ひたすら点々を打っていきます。

早野

ほとんど手描きなんですね。

佐藤

これも独学なので、
人によって描き方はちがうと思います。
本番の絵をつくるときは、
写真にトレペを置いて描くこともありますが、
いちばん最初は、
目で実物を見ながら描くようにしています。

早野

写真を見るだけでは、
細かいところがわからないんですね。

佐藤

そうなんです。
実際に目で見て、手でさわって、
「ここは本物の骨。ここは補修部分」
というのを発見しながらスケッチします。

早野

いやぁ、おもしろいなー。

乗組員A

ちなみに早野先生は、
研究のときに絵を描くことはないんですか?

早野

ない。

乗組員A

こちらも即答(笑)。

佐藤

データが測れる人は、
絵を描く必要がないですもんね。

早野

描かないですね。
それこそ学生のころは、
データのグラフを手で描かないと、
指導教官に叱られる時代もありましたが、
もういまはないですよね。

先生の論文は内容もさることながら、
この絵にもすごく感銘を受けました。

佐藤

ありがとうございます。
私も絵の部分に関しては、
かなりこだわって描いていたので、
そこをほめていただけるのは、
とてもうれしいです。

(つづきます)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

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本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
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フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)