HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第6回 役に立たないけど、
意味はある。

早野

古生物学者というのは、
どういうことを目標に、
日々研究をつづけているんですか。

佐藤

過去にどういう生物がいたかは、
見つかった化石を地道に
調べるしかないんですよね。
なので、私の研究する
「分類・記載」という分野でいえば、
どんなに科学が進歩しても、
これから未来永劫続くと思っています。

それに過去にどんな生物が
いたかを知るというのは、
生物の進化の道筋を
明らかにすることでもあります。
例えば、首長竜といっても
いろんな種類の首長竜がいて、
首の短い首長竜もいるんですね。

早野

首の短い首長竜(笑)。

乗組員A・B

首の短い首長竜(笑)。

佐藤

進化する過程で、
首が長く進化するものもいれば、
短く進化するものもいる。
化石を調べていくことで、
どこから枝分かれしていったか、
そういうこともわかったりします。

© 2018 かわさきしゅんいち

早野

先生個人としては、
古生物学のどういうところに、
おもしろさを感じますか。

佐藤

例えば、壊れた化石とか、
なにかよくわからない化石を見て、
「これはたぶん、首長竜の頸椎の一部だ」
みたいなことが分かると、
「ヤッター!」ってなります(笑)。

早野

謎解きのような快感がある。

佐藤

そうですね。

早野

ぼくは大学にいたときに、
「先生の研究はなんの役に立ちますか?」と、
よく聞かれてうんざりしてたんです。

佐藤

わかります。私もすごくよく聞かれます。

早野

聞かれますよね。
先生はなんとお答えになるんですか。

佐藤

私が本心で思っていることは、
なにかを「知りたい」という気持ちって、
たぶん人間を人間たらしめる
欲求だと思うんです。

「生活の役に立たなきゃダメ」
みたいな考えもありますが、
ごはんを食べることや、
子孫をふやすことって、
他の動物やバクテリアでもできることです。
でも、いまを生きることに、
ちっとも関係ないことを考えるというのは、
たぶん人間だけに与えられた
特別な能力のように思うんです。

だから「知りたい」という
ストレートな人間の欲求に答える仕事は、
けっして意味がないとは思いません。

早野

ちょっといじわるな人だと、
「そういう基礎研究に
税金が使われることの意義は?」
なんて批判したりしますよね。

佐藤

こういう基礎科学の分野が、
生活に直結する研究より
優先度が低いのは、十分に理解できます。
なので、税収が少ないときに
予算が削られてしまうのは、
仕方がないことだと思っています。

そもそも古生物学などの
予算がない基礎科学の分野は、
自腹を切って研究する
学生や研究者に支えられて
ようやくまわっているのが現状ですから。

早野

やっぱり研究費は苦労されてますか。

佐藤

それはもう苦労してますね。
医薬系とかバイオとか、
マテリアルサイエンスの分野であれば、
企業の助成金みたいものもあるのですが、
私たちの古生物という分野は、
ほとんど企業からの助成金がないので。

早野

言ってみれば、
本当の「役に立たない系」だからね(笑)。

佐藤

おっしゃるとおりです(笑)。
研究費のつかい道なんて、
ほとんどは野外調査のときの旅費と、
調査補助員の人件費なんです。
野外調査などは、
やっぱり1人じゃ危険なので、
地元の詳しい人に来てもらうしかなくて。

早野

研究装置や機材とかは?

佐藤

パソコンなんかは
学生が使ってるものと
ほとんど変わらないものです。
ソフトウェアもそれこそ
フリーのものを利用するので、
そういうものにはお金はかかりません。

早野

あと、もうひとつ、
ちょっと聞きにくいことを、
あえて聞いてみようと思うのですが‥‥。

佐藤

ええ、どうぞ。

早野

佐藤先生が「女性」の研究者だったことで、
これまでに損をしたことはありますか。

佐藤

損、ですか‥‥。
うーん、どうなんでしょう。
もしかしたら就職のときは、
そういうのがあったかもしれないですが。
というのも、
先輩やまわりの同年代を見ても、
就職してる研究者が男性ばかりというのは、
わりと露骨にわかりますからね。

早野

あぁ、なるほど。

佐藤

ただ、誤解してほしくないのは、
私が「あなたは女だからダメ」とか、
そういうことを
直接いわれたことはないので、
はっきりとはわかりません。

ただ、得でも損でもないことで言えば、
この業界では「女性」というだけで、
非常によく目立ちます。

早野

あぁ、まわりは男性ばかりだもんね。

佐藤

特に学会なんかに出席すると、
本当に男性の研究者ばかりなんです。
どこに出席しても
「あ、あの女の人」という感じで、
ちょっと有名人のような気分になれます(笑)。

でも、それでちょっと困るのが、
私、人の顔を覚えるのがすごく苦手なんです。
もう全然覚えられない。
向こうは知ってるつもりで
話しかけてくれるのですが、
心の中では「だれだっけ?」って。
なぜか人の顔が覚えられない。

早野

骨はあんなに覚えられるのに?

佐藤

そうですよね(笑)。
まあ、そういう悩みはありますが、
それはそれでいろんな方が、
気にかけてくださっているからで、
本当はありがたいことなんですけどね。

(つづきます)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

さらに、もうひとつ。
本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
ちょっと愛嬌のあるかわさき先生のイラストにも、
ぜひ注目してみてくださいね。

公式ページはコチラから。
Amazonでの購入はコチラをどうぞ。
フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)