糸井 松田さんが編集者としていちばん
うまくいった仕事は何ですか。
松田 うーん、自分でやったなかで
わりと印象に残っているのは、
『ちくま文学の森』かな。
糸井 全集ですね。
松田 そう。
文庫は現役のエンターテインメントが中心だし、
「古典や文学全集ってもうだめだよ」って
まわりに言われました。
「じゃあ、やってやろうじゃないか」
という気持ちになって、やりましたね。

そこで安野光雅さんと話してて、
「今読んでおもしろい」という以外の、
文学史的な価値などは考えないでやろう、
ということになりました。

糸井 それも実務の考え方ですね。
そこでもし研究者的になったら
「これが入ったらこれが入らないのはまずい」
とか、そういうことになっちゃいますもんね。
松田 でも、文学全集って大変なんですよ。
生きている作家の場合だと
「あいつのが方がたくさん入ってるのは」
「あいつと一緒の巻はいやだ」
「初期の作品より最近の作品を入れろ」
「弟子の作品も、これとこれを入れろ」
とか言い出しちゃうこともある。
糸井 いやぁ、やっかいなことがたくさん出てくるね。
松田 そうすると、編集がぐしゃぐしゃになっちゃう。
糸井 じゃあ、その大変さを味わったんですか。
松田 それがね、
生きている人は面倒くさいから、
亡くなっている作家だけにしようってことに
なりました。
糸井 (笑)それはすごい!
そしたら大丈夫ですね。
おもしろい編集が貫けるんだ。
 
松田 面倒がなくなっていくんです。
そのおかげで、厳密な体系性より
「おもしろい」で編集できるから、
戯曲でもいいし、エッセイでもいいし、
落語でもいいじゃないか、ということになる。
どんどん楽しくなっていくわけです。
糸井 つまり、できないことに見えた
「文学全集を作る」ということを、
「自分ができること」に
変換する方法を考えたんですね。
松田 そうそう!
糸井 松田さんがそういう
「方法を編み出す」なんてことを
思いつくのは、どういうときなんですか。
松田 どうなんだろう?
ひとりで考えるときもあるし‥‥
でもたぶん、話しているうちに思いつくのかな。
糸井 しゃべりですか。
松田 やっぱり誰か、パートナーがいないとだめですね。
路上観察なんかでもそうだけど
はっきり一緒にやってくれる人がいるわけだし、
『文学の森』のときは安野さんがいてくれた。
糸井 縦糸、横糸で編む
織物のような感じですね。
1本の横糸だけじゃできないもんね。
チームプレーで、松田さんの仕事は
ずっとここまで来たんでしょう。
松田 とはいっても、会社の中では必ずしも
チームづくりが、
いつもうまくいっていたわけではありませんね。
糸井 会社という仕組みに
問題点があるのかもしれないですね。
松田 いや、ぼくは会社経営は好きなんです。
人事って編集だから。
編集者あがりの経営者って、
人事をするのは嫌だという人が多いでしょう。
だけど、おもしろいですよ。
 
糸井 ‥‥ああ、そうだ。
人事は編集です、確かに。
松田 人事って、普通は
ベストの配置を考えるでしょ?
すると絶対に無理なんですよ。
こっちで必要な人はあっちでも欲しがっている、
こっちの仕事が終わるまでは
あっちに行かせないということになると、
そこで構想がガラガラ崩れていっちゃう。

いっそのこと、時間軸を
取り入れればいいじゃないかと思うんです。
こっちのチームはこの人がほしいんだったら
ちょっと大変だけど
もうひとつのチームがOKと言うまで
待てばいいじゃない。
だけど、人事ってだいたい
「何月何日付」で揃えたがるから
だめなんじゃないかな。
「大変だけど、そうしたほうがおもしろいだろう」
って、みんなを説得しちゃえばいいわけです。
筑摩ぐらいの100人以内の会社だから
できるということもあるんでしょうけれども。

糸井 世の中のほとんどの会社って
100人以内ですよ。
大企業で人を取り放題だったら別ですが、
100人以内だと
スーパースターを入れるわけにもいかないし
仕事もしなきゃならないわけです。
編集としての人事、という考え方は
みんなを救うと思うな。
人事って組織図がおおもとですからね、
時間軸は書き込めないようになってる。
松田 実際には産休で休む人もいたり、
最近は男性でも
育休を取る人もいるから、
すごく優秀な人間でも
スコンと抜ける時期があるんです。
そういうマトリックスで
組織のことを考えないとまずいです。
  (続きます!)
2007-06-28-THU
前へ   次へ