松田哲夫さんのプロフィールはこちら

  第1回 所番地をつけていく役、すなわちそれは編集者。
  第2回 筑摩書房に裏口入社。
  第3回 「何でもなくて巨大」な人物。
  第4回 筑摩倒産。みんなが辞めていく。
  第5回 研究や仕掛けばかりが編集じゃない。
  第6回 実務だからおもしろい。実務だから帰って来る。
  第7回 できないことはできることに変換すればいい。
最終回 まるごとのおもしろさを心の底から知っている。
糸井 松田さんは、
遊びと仕事は別ですか。
松田 たとえ遊びであっても、
全部がつながっています。
いまぼくは、出版社の経営をやり、
現場の編集者をやり、
テレビ番組で本の紹介をやり、
講演をやり、エッセイ書きなどをやり、
いろんなことをしています。
いろんなことをやっているんだけど、
実は、本に関することしかやってないんですよ。
本を書いて、本を編集して、
本を売って、本を紹介して、
本を読んでいる。
 
糸井 そうか。
松田 読者であり、紹介者であり、
編集者であり、出版社の経営者である。
全部つながっているんです。
糸井 確かにそうだ。
 
松田 「王様のブランチ」で、本を紹介すると、
本が売れて、そのニュースが作家にも伝わります。
自分がどんなふうにその本を読んだかが
作家に伝わりますから、喜んでくれて、
一緒に仕事をしようということになったりします。
昨年、天童荒太さんの
『包帯クラブ』という本を出しましたが
これも、テレビで天童さんの
『永遠の仔』を紹介したことが
きっかけになりました。
そして、本が出て1年も経たないのに
映画ができちゃったんです。
この秋に公開するんですよ。
糸井 テレビに映画、
いろんなところにつながっちゃうんだね。
松田 今、うちのホームページで
「『包帯クラブ』との長い旅」という連載で
「王様のブランチ」からはじまった
いろんなことを書いています。
糸井 きっとほんとうは、ほかの仕事でも
そうなんでしょうね。
分類したり、研究したりしていくことで
つなぎを取ってしまうのかもしれない。
松田 昔から、マーケットリサーチだの仕掛けだの
言ったりしますが、
そういうことじゃないと思います。
糸井 ぼくも松田さんと、
そうとう似たようなことを
感じてるところですよ。
松田 だいいち、続かないと思うんです。
仕掛けて外れたらみっともないじゃないですか。
糸井 そうだよね。
それに、おもしろくないことって
どうやったってばれるんです。
「○○というテーマで何とかできるな」
というように、戦略的に考えても、
自分をわくわくさせるキーワードが出るまでは
そのままにしておけばいいと思うんですよ。
みんなが「○○いいよねー」って言い出すと
理性で「行ける」ゴーサインを出しちゃうけど、
あたたまってないなら
「○○は後にしておいて、いまはこれやろうよ」
と言えばいい。
ただ、そう言うには
ネタがいっぱいないといけないんです。
ネタがないとつい「○○使おうか」
ということになって、失敗する。
松田 おなじことを逆でも言えて、
「○○はだめだよ」と言われても、
おもしろければいいんです。
さっき話した『ちくま文学の森』だって、
編集会議の時点から
めちゃくちゃおもしろかったんです。
こんなにおもしろいなら、
このおもしろさは伝わるはずだ、と思いました。
それは路上観察でも同じこと。
ぼくらが楽しくやっていれば、
「何だろう?」と思って
覗こうと思う人がいるわけです。
南くんなんかがガハハって
楽しそうに笑っているのを見ていると
「あ、何かあそこには
 おもしろいもんがありそうだな」
と思ってくれるじゃないですか。
おもしろいふりをしているんじゃなくて、
ほんとうにおもしろいんだから。
 
糸井 そうだ、ほんとに。
松田 だから、どんな仕事でも、
おもしろくなくちゃあだめだと思います。
糸井 ぼくは最近「公私混同」が大事だと
いろんなところで言っているんですよ。
私と仕事を分けろっていうけど、
1本の映画を見たことが
仕事の役に立つか立たないかなんてことは
誰にも決められないわけです。
仕事はそういうことに支えられているから、
私的なところが輝いていない人を
職場に欲しいかと言えば、そうじゃないです。
松田 うん。
糸井 「こいつは個人としては
 つまらない奴なんですけど、すごいんですよ!」
と言われても、俺はいらない。
儲かるのはくだらないことだよ、って
思い切ったほうがいいんじゃないかな。
松田さんの話を伺って
ますますそう思いました。
松田 ほんとにそう思います。
糸井 で、そういうことを言っている松田さんを
松田専務はどういうふうに考えているんです?
 
松田 まあ、だから‥‥
みんなもっとぼくみたいにすればいいのにな
と思うんですけどね(笑)。
糸井 ああ、すごい(笑)。
究極ですね。
松田 赤瀬川さんとの仕事にしても、テレビにしても、
どんなに遠くに行っても、ぐるぐる回遊していれば
ちゃんと帰ってくるんです。
帰ってこないのは、編集者でも単線で
ものを運ぶだけの人です。
例えば糸井さんに仕事を頼みたい場合、
糸井さんのところだけに行くでしょう。
まあ、それも熱心でいいんだけど。
糸井 単線はだめだよね。
松田 糸井さんのバックグランドを
知っていたら、南くんも赤瀬川さんも
もしかすると丸ごと持ってこれることに
なるかもしれない。
だから、本来の仕事を忘れて
一緒に「ほぼ日」の手伝いか何かやって、
「あ、おもしろいや」って言えたら、
それでいいんです。
「ほぼ日」でセンスのいい学生見つけたから、
もらって来ちゃおう、とか
できるわけですよね。
糸井 環境を海水ごと、まるごとだよね。
松田さんはこれまで、誰とでも
人物まるごとと
つきあってきたんでしょうね、結局。
松田 そう、これまでに失敗した企画も
たくさんありますが、
「転んでもただでは起きない」って
言われています。
ぶつかると無駄にはしない
なにか掴んでくる、という感じです。
糸井 単純に自分を磨くのではなく、
他者や場所、時間など、
「自分と何か」という、
「アンド」の関係で結ぶことの重要さを
松田さんの話を伺って、感じました。
それが編集者というものなのかな。
みんな悩むと「ひとりにさせてください」
って言うけど、あれは壊れちゃいますよね。
松田 「編集とは何か」って
よく訊かれるんですけど、
結局字のとおり、集めて編むんです。
人を集めたり、ものを集めたり、
原稿を集めたりして、何かを編み上げる。
「無」からは絶対にできないんです。
書き手がいないとしょうがない、
作品がなきゃしょうがない。
この筑摩という会社、いまという時代、
文学というジャンル、すべて「アンド」で
つないでいってなにかを編んでいったほうが
おもしろいんじゃないかな。
 
糸井 松田さんは、そのことを
心の底から知っているからでしょうね。
ああ、おもしろかった。
展覧会も含めて、
「おもしろかったある日」みたいな一日でした。
ほんとうにありがとうございました。
松田 こちらこそ、ありがとうございました。
 
これで、松田哲夫さんとの対談は
おしまいです。
ご愛読ありがとうございました!
松田さんへのメッセージやご感想などを
どうぞpostman@1101.comまで
お寄せください。
 

この対談は「藤森建築と路上観察」の展覧会
(東京オペラシティアートギャラリーで
 2007年7月1日まで開催です)
を、ふたりで見たあとに行ないました。

日本近代建築史研究の第一人者であり、
建築界に衝撃を与え続けている
藤森照信さんの独創的な建築物と建築法、
そして、その発想と活動のもととなった
路上観察学会(松田さんはメンバーのひとり)の
これまでの足跡をいちどに見られる展示会です。
糸井重里はじめ、我々「ほぼ日」乗組員も
ひじょうにたのしく拝見しました。
ぜひお出かけくださいね。

藤森照信さんの建築手法のかずかずを展示。
驚きの連続でした。
縄で編まれた、篭のようなドーム型の部屋に
小さくなって入ると、
路上観察学会の写真作品をスライドで
見ることができます。
(松田さんや赤瀬川さんの声の解説が
 とてもおもしろいです)
松田さんの、はじめての編集制作物も
展示されています。
 
2007-06-29-FRI
前へ    
メールを送る ほぼ日ホームへ 友達に知らせる