糸井 |
松田さんは、
遊びと仕事は別ですか。 |
松田 |
たとえ遊びであっても、
全部がつながっています。
いまぼくは、出版社の経営をやり、
現場の編集者をやり、
テレビ番組で本の紹介をやり、
講演をやり、エッセイ書きなどをやり、
いろんなことをしています。
いろんなことをやっているんだけど、
実は、本に関することしかやってないんですよ。
本を書いて、本を編集して、
本を売って、本を紹介して、
本を読んでいる。 |
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糸井 |
そうか。 |
松田 |
読者であり、紹介者であり、
編集者であり、出版社の経営者である。
全部つながっているんです。 |
糸井 |
確かにそうだ。 |
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松田 |
「王様のブランチ」で、本を紹介すると、
本が売れて、そのニュースが作家にも伝わります。
自分がどんなふうにその本を読んだかが
作家に伝わりますから、喜んでくれて、
一緒に仕事をしようということになったりします。
昨年、天童荒太さんの
『包帯クラブ』という本を出しましたが
これも、テレビで天童さんの
『永遠の仔』を紹介したことが
きっかけになりました。
そして、本が出て1年も経たないのに
映画ができちゃったんです。
この秋に公開するんですよ。 |
糸井 |
テレビに映画、
いろんなところにつながっちゃうんだね。 |
松田 |
今、うちのホームページで
「『包帯クラブ』との長い旅」という連載で
「王様のブランチ」からはじまった
いろんなことを書いています。 |
糸井 |
きっとほんとうは、ほかの仕事でも
そうなんでしょうね。
分類したり、研究したりしていくことで
つなぎを取ってしまうのかもしれない。 |
松田 |
昔から、マーケットリサーチだの仕掛けだの
言ったりしますが、
そういうことじゃないと思います。 |
糸井 |
ぼくも松田さんと、
そうとう似たようなことを
感じてるところですよ。 |
松田 |
だいいち、続かないと思うんです。
仕掛けて外れたらみっともないじゃないですか。 |
糸井 |
そうだよね。
それに、おもしろくないことって
どうやったってばれるんです。
「○○というテーマで何とかできるな」
というように、戦略的に考えても、
自分をわくわくさせるキーワードが出るまでは
そのままにしておけばいいと思うんですよ。
みんなが「○○いいよねー」って言い出すと
理性で「行ける」ゴーサインを出しちゃうけど、
あたたまってないなら
「○○は後にしておいて、いまはこれやろうよ」
と言えばいい。
ただ、そう言うには
ネタがいっぱいないといけないんです。
ネタがないとつい「○○使おうか」
ということになって、失敗する。 |
松田 |
おなじことを逆でも言えて、
「○○はだめだよ」と言われても、
おもしろければいいんです。
さっき話した『ちくま文学の森』だって、
編集会議の時点から
めちゃくちゃおもしろかったんです。
こんなにおもしろいなら、
このおもしろさは伝わるはずだ、と思いました。
それは路上観察でも同じこと。
ぼくらが楽しくやっていれば、
「何だろう?」と思って
覗こうと思う人がいるわけです。
南くんなんかがガハハって
楽しそうに笑っているのを見ていると
「あ、何かあそこには
おもしろいもんがありそうだな」
と思ってくれるじゃないですか。
おもしろいふりをしているんじゃなくて、
ほんとうにおもしろいんだから。 |
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糸井 |
そうだ、ほんとに。 |
松田 |
だから、どんな仕事でも、
おもしろくなくちゃあだめだと思います。 |
糸井 |
ぼくは最近「公私混同」が大事だと
いろんなところで言っているんですよ。
私と仕事を分けろっていうけど、
1本の映画を見たことが
仕事の役に立つか立たないかなんてことは
誰にも決められないわけです。
仕事はそういうことに支えられているから、
私的なところが輝いていない人を
職場に欲しいかと言えば、そうじゃないです。 |
松田 |
うん。 |
糸井 |
「こいつは個人としては
つまらない奴なんですけど、すごいんですよ!」
と言われても、俺はいらない。
儲かるのはくだらないことだよ、って
思い切ったほうがいいんじゃないかな。
松田さんの話を伺って
ますますそう思いました。 |
松田 |
ほんとにそう思います。 |
糸井 |
で、そういうことを言っている松田さんを
松田専務はどういうふうに考えているんです? |
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松田 |
まあ、だから‥‥
みんなもっとぼくみたいにすればいいのにな
と思うんですけどね(笑)。 |
糸井 |
ああ、すごい(笑)。
究極ですね。 |
松田 |
赤瀬川さんとの仕事にしても、テレビにしても、
どんなに遠くに行っても、ぐるぐる回遊していれば
ちゃんと帰ってくるんです。
帰ってこないのは、編集者でも単線で
ものを運ぶだけの人です。
例えば糸井さんに仕事を頼みたい場合、
糸井さんのところだけに行くでしょう。
まあ、それも熱心でいいんだけど。 |
糸井 |
単線はだめだよね。 |
松田 |
糸井さんのバックグランドを
知っていたら、南くんも赤瀬川さんも
もしかすると丸ごと持ってこれることに
なるかもしれない。
だから、本来の仕事を忘れて
一緒に「ほぼ日」の手伝いか何かやって、
「あ、おもしろいや」って言えたら、
それでいいんです。
「ほぼ日」でセンスのいい学生見つけたから、
もらって来ちゃおう、とか
できるわけですよね。 |
糸井 |
環境を海水ごと、まるごとだよね。
松田さんはこれまで、誰とでも
人物まるごとと
つきあってきたんでしょうね、結局。 |
松田 |
そう、これまでに失敗した企画も
たくさんありますが、
「転んでもただでは起きない」って
言われています。
ぶつかると無駄にはしない
なにか掴んでくる、という感じです。 |
糸井 |
単純に自分を磨くのではなく、
他者や場所、時間など、
「自分と何か」という、
「アンド」の関係で結ぶことの重要さを
松田さんの話を伺って、感じました。
それが編集者というものなのかな。
みんな悩むと「ひとりにさせてください」
って言うけど、あれは壊れちゃいますよね。 |
松田 |
「編集とは何か」って
よく訊かれるんですけど、
結局字のとおり、集めて編むんです。
人を集めたり、ものを集めたり、
原稿を集めたりして、何かを編み上げる。
「無」からは絶対にできないんです。
書き手がいないとしょうがない、
作品がなきゃしょうがない。
この筑摩という会社、いまという時代、
文学というジャンル、すべて「アンド」で
つないでいってなにかを編んでいったほうが
おもしろいんじゃないかな。 |
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糸井 |
松田さんは、そのことを
心の底から知っているからでしょうね。
ああ、おもしろかった。
展覧会も含めて、
「おもしろかったある日」みたいな一日でした。
ほんとうにありがとうございました。 |
松田 |
こちらこそ、ありがとうございました。 |
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これで、松田哲夫さんとの対談は
おしまいです。
ご愛読ありがとうございました!
松田さんへのメッセージやご感想などを
どうぞpostman@1101.comまで
お寄せください。 |