糸井 松田さんは、実務が好きなんですか?
松田 実務はおもしろいですね。
例えば、こういうことです。
編集をはじめて
本をたくさん作っていると、
本文組みに興味が湧いてくるんです。
糸井 本文組みに。
松田 そう。本を作りはじめるときに
どういう本文にしたらいいのか、先輩に訊くと、
適当な本を持ってきて適当に教えてくれるわけ。
だけど、本文のスタイルには
なんだかいろいろあるんですよ。
ですから、過去4〜5年に出た
筑摩書房の単行本を片っ端から調べました。
文字の級数は何で、何行何字で、行間はどうか、
版面というものが
どのぐらいバリエーションがあるか。
これはおもしろかったですね。
そのリストを、
まだワープロもエクセルもない時代ですから、
手書きで書いて、持ってた。
糸井 すごい。自分のための資料ですね。
松田 それを持っていると
たくさんおもしろいことがわかるし、
いかにいいかげんな編集者がいるかも
わかるんです。
原稿枚数が多いのに、パラっと組んで、
ページ数がやたら出て定価が高くなっちゃって、
売りづらくなってる本だとかね。
奥付のスタイルや目次のスタイルも
コレクションして、
この本だったらこの目次のスタイルがいいとか、
そういうことをやってました。
おもしろかったですよ。
 
糸井 それはバイトの頃の話ですか。
松田 いや、社員になってから。
20代半ばぐらいです。
糸井 そんな20代半ばがいたら
おもしろいだろうね、きっと。
松田 嫌な奴ですよね。
糸井 あきれたりはするものの
ちょっとそいつの話を聞きたいと思いますよ。
松田 オタクっぽいところがあるんだろうけど、
自分では、すごく実務的なつもりなんです。
例えば、編集者は、印刷のことを
ある程度は知っているんだけど、
ほんとうに最低限の知識しかないんですよ。
製本のことも知らない、紙のことも知らない、
インキのことなんか全然知らない。
オフセット印刷のシステムが
ざっくりどうなっているのかすら、わかってない。
糸井 どんなにしょうもない編集者でも
はじめの一歩ぐらいは知りたいでしょう。
そこで、どこまで行って帰って来るかが
その人の個性だと思います。
松田さんという人は、そうとう深いところまで
「これはどこにも書いてない!」と思って
行っちゃうんでしょうね。
松田 でもね、そうすると
全部仕事になっていくんです。
ぼくがやってるのは、あくまで実務ですから。
糸井 そうだよね、そこがポイントだ。
 
松田 研究じゃないんです。
印刷の色がちゃんと出るための
化学的メカニズムとか、
そんなところまではいかない。

糸井 「実務」は重要なラインですね。
松田 ぼくは、ちくまプリマー新書をはじめるときに
原稿用紙100枚ぐらいの内容があればいい、
と考えました。
ほんとうに大事なことは100枚でいいんです。
それでちゃんとした本を
作れないだろうかと思ったんです。

ある日、王子製紙に取材に行きました。
そこで、ページ数が112ページでも
普通の新書並みの厚みが出て、
きれいに印刷できるし、しなやかだという
嵩高紙というものがありました。
読みやすくて、ハンディな本になればいいと、
それを採用することにして、
本文紙が少ないぶん、
1冊1冊おしゃれな装丁にしようと
クラフト・エヴィング商會に
デザインを依頼しました。

糸井 読者はうれしいばかりですよね。
松田 量が少ないおかげで、
「自分は一冊の本を一気に読めた」
という達成感も味わえる。
王子製紙でいろんな紙の話を聞いていて、
その紙に興味をそそられたんですね。

糸井 もとは、「ただ見に行く」んですね。
おもしろいことがあったぞ、
次の資料は俺が探してこよう、というふうに
どんどん動きになっていく。
もしかしたら、編集者とは
「偉大な手伝い」のことを
いうのかもしれませんよ。
松田 まさにそうかもしれない。
自分から何かをやるわけじゃないですからね。
  (続きます!)
2007-06-27-WED
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