── | あ、きた。TOBIさん、こんにちはーっ! |
---|---|
TOBI | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
── | トーーービーーーさーーーん! |
TOBI | (遠くから) ボッ、ボオンジュー‥‥‥‥。 |
── | こーんーにーちーはーーーっ! |
TOBI | (カラスに急襲されながら) ブッ、ブッ、ブオッ、ブオンジューフガッ! ゲホッ! オエエ! |
── | すみません、急かしてしまったみたいで。 なんか大丈夫ですか、具合? |
TOBI | い‥‥や、ぜんぜん平気ですよ。 ちょっとカラスに襲われただけですから。 |
── | あらためまして、お久しぶりです。 |
TOBI | ボンジューフガッ(摩擦音)。 |
── | さっそくで恐縮ですが ぶじに第2回を迎えた「ひどい目」連載、 本日のテーマを発表してください。 |
TOBI | わかりました。 「豪華クルーザーに乗っけてもらって 調子づいてたら いつしか大西洋で遭難していた件」 こんなことで、いかがでしょうか。 |
── | ざっくり言うと「漂流記」って感じ? |
TOBI | ウィ(そうです)。 |
── | ぜひ、聞かせてください。 |
TOBI | フランスにボルドーって町があるんですよ。 |
── | ええ、あの、ワインの。 |
TOBI | そうそう。
ワインのシャトーがあちこちに建っていて |
── | たしか、スペインに近いほうですよね。 地中海側じゃなく、大西洋側の。 |
TOBI | そうそう。
で、今から9年ほど前の6月、 |
── | それは「レ・ロマネスク」として? |
TOBI | もちろんです。
「Japan is not only Sushi !」 |
── | 「ニッポン、スシだけじゃないぜ!」と。 |
TOBI | はい。 |
── | 「こんなピンクなのもいるんだぜ!」と。 |
TOBI | 欧米諸国から 「寿司にも負けてない日本人」という わけのわからない括りで集められた DJやミュージシャンが、 ボルドーの地で一堂に会したんですよ。 |
── | ははあ。 |
TOBI | ライブは、大成功のうちに幕を閉じました。
楽屋ではボルドーワインが飲み放題だし、 |
── | パリへ凱旋というわけですか。 |
TOBI | でも、その翌日‥‥。
出発前にボルドーの市内を散策していたら |
── | ええ。 |
TOBI | なんでも、彼女のお父さんは 歴史あるワイン・シャトーを経営していて、 おばさんは 大きなフォアグラ工場を経営していて、 自分は 有名なアート・ギャラリーに勤めていて‥‥。 |
── | つまり、資産家の令嬢的な。 |
TOBI | 彼女が言うには、 アルカションの港に停めてあるクルーザーで 大西洋の無人島に乗りつけて ピクニックするってのが、 このあたりじゃ わりと週末の定番の過ごしかたなんだけど、 もし、あんたたち明日ヒマで とくに何にもすることないんだったら 呼んでやってもいいわよ‥‥と。 |
── | すごい展開ですね。それ道端ですよね? |
TOBI | そうです。 |
── | で、いやに高慢ちきですね。 |
TOBI | うん、それもわざとではなく、 とってもナチュラルに高慢ちきでした。 でも、豪華なクルーザーで無人島だなんて、 行ってみたいじゃないですか。 |
── | ええ、そりゃあ、まあ。 |
TOBI | ちなみに「アルカション」というのは ボルドーから南西にある港町で ハリウッド・セレブが別荘を持っていたり、 海水浴場なんかもあるリゾート地。 |
── | へえ。 |
TOBI | ちょっと話がズレますけど 地中海の魚ってヌメッとしてるっていうか、 身が締まってないじゃない。 ※個人の感想です。 |
── | はあ、そうなんですか。 |
TOBI | 地中海って「ぬるま湯」なんですよ。 だから、 ずっとぬるま湯にばかり浸かってきた魚は、 プヨプヨしてだらしがないんです。 「生まれたときから中年」っていうか。 ※あくまで個人の感想です。 |
── | いや、くわしくは知りませんけど 緩んでるんですかね、リゾートで。 |
TOBI | その点、アルカションで食べる大西洋の魚は 同じリゾートでも キンキンの寒流で鍛えられてますから 気合が入っているというか キュッと身が締まっていて非常に美味なの。 |
── | なるほど。 そんなグルメも唸らすアルカションの港から 豪華クルーザー船でピクニックとは がぜん、お弁当にも期待が高まりますね。 |
TOBI | でしょ? カリーヌの 「上から目線」どころか「極上から目線」には 怒りを覚えつつも、 でもこれは、めったにない機会だと思いました。 だから「ほんとにいいの? 行く行く!」って もう、ふたつ返事で。 |
── | 道端で。 |
TOBI | レ・ロマネスクの片割れのMIYAさんと ボルドーの農業セレブって最高、 ラッキー過ぎるねとよろこんでたんですが、 よくよく考えたら、 帰りのチケットが変更不可だったし、 ホテルを延泊するお金もあるしなあ‥‥と。 |
── | でも、それが庶民の現実ですよね。 |
TOBI | そんなことをゴニョゴニョ話してたら カリーナが 「え? ホテル? そんなの 親戚がやってる一流ホテルを取ってあげるし TGV(新幹線)なんてキャンセルなさいよ。 翌日の飛行機の席を手配してあげるから」 みたいなことを言ってくるんです。 「お金で解決できる問題なら わたしに、何でも言ってちょうだい。 でも、恋の悩みだけは別。 だって、お金では解決できないもの。 おーほっほっほっ」‥‥みたいな。 |
── | 本物の金持ちですね。高慢ちきな。 |
TOBI | ただ、もうその時点では、 金持ちカリーヌの高慢ちきさ加減なんて どうでもよくなっていて。 |
── | 舞い上がっちゃって。 |
TOBI | そう、あんまり楽しそうだったもんで 「Japan is not only Sushi !」に NYから呼ばれていた DJのナカムラさんもその場にいたので 次の日3人で大西洋の無人島へ 連れて行ってもらうことになったんです。 |
── | 豪華クルーザーで無人島へピクニックとは あらためて、 まさしく「セレブの遊び」そのものです。 |
TOBI | 翌日は、ボルドーの市内で待ち合わせ、 「右ハンドル」の最高級車HONDAに乗せられて 「ここがニコール・キッドマンの別荘」 「ここが『ビバリーヒルズ青春白書』の プロデューサーの家の庭」 「ここがナンチャラっつう 元貴族の屋敷づとめの歴代の羊飼いの畑」とか よくわからないけど、 ひとしきり アルカションの街を観光ガイドされました。 |
── | そんな、「金のはとバス」的な。 |
TOBI | 1時間ほどセレブなドライブに引き回され、 ようやく港に着くと カリーヌの知り合いが集合してたんです。 カリーヌの彼氏で やたらとギラッギラしてるイタリア人の ラファエロや、 カリーヌの勤めているアートギャラリーの 高級な肉まんみたいな ツヤッツヤでモッチリした 初老の男性支配人とか 総勢9人のセレブリティが、そこに。 |
── | セレブって間近で見たことないんですけど そんなにも 見た目からセレブセレブしてるんですか。 |
TOBI | ラファエロなどは チリチリの髪の毛がペチョッと濡れてて ほっぺくらいまで隠れる タレサン(タレ目のサングラス)かけてて、 鼻の奥がヒリヒリするほどに 「俺は野性的な男だ」 という感じの香水をつけてて、 シャツのボタンを常に4つくらい開けてて、 そこから胸毛がモウモウとはみ出してて 真っ白な半ズボン、 灼けた素足にグッチのサンダルみたいな、 典型的な 小金を持ってるイタリアの伊達男でした。 一瞬、松方弘樹かと思ったほどです。 |
── | イタリアの伊達男なのに松方弘樹さんとは ずいぶん込み入った ファースト・インプレッションですね。 でも、そんなにも「いかにも」でしたか。 |
TOBI | そう、いかにも 「俺たち、生まれてこのかた 何度となく 大西洋を気ままにクルージングしたけど 最近、飽き飽きしてたんだ。 だからキミらみたいな ファニーなゲストは大歓迎なんだよね」 みたいな、 いかにもセレブな西洋人が9人、 いかにもクルーザーなんてはじめてです、 みたいな ぼくらいかにもな日本人3人を ニヤニヤしながら、待っていたんですよ。 |
── | ‥‥今や、完全に嫌な予感がします。 |
TOBI | そうなんですよ、思えばね。 実際、その数時間後には 木の葉のように荒波に翻弄される クルーザーの上で 強烈な太陽の光に黒焦げにされながら、 喉はカラカラ、 脱水症状で朦朧とした意識のなか、 大西洋を漂流していたので。 |
<つづきます> |
2014-05-28-WED |