糸井 | おもしろそうなこと、やってましたね。 |
---|---|
平野 | あはははは、はい(笑)。 |
糸井 | ああいうのって、やってる本人たちが いちばん楽しいんですよね。 |
平野 | はい、そうです(笑)。 |
糸井 | ‥‥パブリックビューイングの 呼びかけ先のひとつが ミグノンってペットサロンのお店で、 彼女たちの紹介のしかたが すごーく、上手だったこともあったんです。 坂本さんに招待されちゃったーみたいに かるーく、ユーモラスに書いていて。 |
---|---|
平野 | あ、そうでしたか。 |
糸井 | その人たちって、捨てられた犬の保護をしたり 犬のシャンプーをしたり、 カットしたり、 服を売ったりしてるんですけど、 仕事のしかたが、すごくかっこいいんです。 そんな人たちが パブリックビューイングをやるって聞いたら 親しみが湧いてきたんですよね。 |
平野 | じゃあ、けっこう長いこと‥‥。 |
糸井 | はい、追っかけるようにして見てました。 でも、こりゃあいいぞって思えるまでには やっぱり、なかなか時間がかかって。 |
平野 | そうですか。 |
糸井 | 坂本龍一のファンならね、 ドキドキしながら見てたと思うんだけど。 |
平野 | ええ。 |
糸井 | ぼくの場合は、それとはまたちがうんで。 |
平野 | はい。 |
糸井 | あのときの坂本くんって、 自分の音楽が届かないかもしれない人にまで 「開いてる」感じがした。 で、僕にそう感じさせてくれたのが ミグノンさんだったり、 平野さんの、あの‥‥ドタバタだったり。 |
平野 | あはははは、はい(笑)。 |
糸井 | 本来は「舞台裏」のできごとまでふくめた、 一連のUstream中継だったんですよ。 |
平野 | なるほど。 |
糸井 | はじめは 平野さんという「ドタバタした人」をつうじて 坂本龍一を見てたんですよね。 で、そうしているうちに 逆に、平野さんのことが見えてきたり、 古川さんが見えたり‥‥ いろいろ、乱反射しはじめたんです。 |
---|---|
平野 | うん、うん。 |
糸井 | 「手伝いたいんで、 今からアメリカ行きますから!」って、 そんなのありますか?(笑) |
平野 | なかなかないかと(笑)。 |
糸井 | あの平野さんの姿を見てたら もう、こっちがワクワクしてきちゃってね、 ずーっと見てやれと思って。 |
平野 | ありがとうございます。 |
糸井 | ただ、あのできごとを、 「テクノロジーが世界を変える」みたいに 言っちゃうのは、ちがうと思ってるんです。 |
平野 | あ、ぼくはたまーに そんなふうに 鼻息荒くなっちゃうときがあります(笑)。 |
糸井 | 何が言いたいかというと 「人間がやってることのおもしろさ」 みたいなことのほうに 重心を置きたいんですよね、ぼくは。 実際ぼくは、 平野さんがくんずほぐれつしてる場面を おもしろがってたわけだし。 |
平野 | ええ、ええ。 |
糸井 | 逆に言うと、あの縄跳びの輪の中に入るのは なかなか難しいんだけど、 結局、中継の最後に販売していた ボックスセットを「買う」ということが あのときのぼくにできた、 いちばんディープな「参加」だったんですよ。 |
平野 | なるほど‥‥。 |
糸井 | いや、ぼくらも、モノを売っていますから、 苦しい気持ちとか、わかるんですよね。 ですから 何とかうまくいくといいなあと思って 見てたんですけど‥‥ どうです、何とかはなりましたかね? |
平野 | ‥‥なりました。 |
糸井 | なりましたか。 |
---|---|
平野 | なりましたです。 |
糸井 | よかった。 |
平野 | ありがとうございます。 |
糸井 | 「もうけ」は出‥‥た? |
平野 | ま、現金的な赤字はゼロになったと。 |
糸井 | 自分たちのコストが払えなかった? |
平野 | 中継のための費用は出ませんでした。 |
糸井 | そうですか。 |
平野 | ただ、あのボックスセットのことを 「おひねりグッズ」と呼んでるんですが あれは、 どうしても、 ぼくが作りたかったものだったんです。 で、実際に作ってみてわかったのは、 ぼくらのやったことに対して みなさんが、純粋に「おひねり」といいますか、 「投げ銭」をしてくれたんだなって。 |
糸井 | うん、うん、うん。 |
平野 | そして、そういう人の数が すごくたくさんいたんだってことです。 |
---|---|
糸井 | その、平野さんの作りたい気持ちもわかるし、 できることならば その向こうに可能性を見たい気持ちもあるし、 やっぱり 続けるために絶対必要な「燃料」ですからね、 お金って。 |
平野 | はい。それと教授のアルバムが iTunesで1週間、1位をキープできたんです。 個人的には、それが「ヨッシャ!」と。 |
糸井 | なるほど。 |
平野 | アメリカに続いて 韓国でもUstream中継をやろうと決めたとき、 教授はじめ いろいろお偉いかたが集まって 秘密会議みたいなのをやったんですね。 で、そのときにぼくが鼻息荒く、 「iTunesで1週間、1位をキープすることが 今回のゴールです!」 と言ったら、その場がシーンとしちゃって。 |
糸井 | その「1週間」は「デタラメ」ですよね。 |
平野 | はい? |
糸井 | つまり、根拠ないですよね? |
平野 | あ、はい、ないです。デタラメです。 |
糸井 | でも、それがやりたかったんだ。 |
平野 | たとえば、教授のことを名前しか知らない人も 今回のUstream中継を見て なんとか、お金を払ってもらえないかなぁと。 |
糸井 | ええ。 |
平野 | そこで、iTunes で1500円のライブ盤を 買ってくださいませんか、と言って。 |
糸井 | うん。 |
平野 | それでも思いがあまっちゃった人がいたら、 もっと立派に作りますんで、 こっちの「おひねりグッズ」を買ってくださいと。 |
---|---|
糸井 | はい、はい。 |
平野 | もし、教授のファンだけではなく、 中継を見た、ファンではない人たちに支えられて 1週間、1位をキープできたら、 今の音楽ビジネスの考えかたや常識が ちょっと変わるんじゃないかと思ったんです。 だから、リクープするかどうかよりも 音楽業界の人やミュージシャンのかたがたに 「あ、なんか、もう違うんだ」って 思ってもらえることが いちばんのゴールだと思ってやってました。 |
糸井 | なるほどね。 |
平野 | だから、視聴者数も16万人くらいになって、 iTunesも1位になったところで もう、すっかりいい気分になっちゃって、 最後、グッズを売るの、 あんまりがんばらなかったんですよね(笑)。 |
糸井 | がんばっても、がんばらなくても‥‥ たぶん、それは そんなに大きく変わらないと思いますよ。 |
平野 | あの‥‥ぜんぶ終わったあとに 教授に直筆で メッセージカードを書いてもらって 「ご注文ください!」 って 頭を下げたら、 もっと売れたんじゃないかと。 |
糸井 | あー‥‥。 そのくらいのことでは、動かないでほしい。 |
平野 | ‥‥。 |
糸井 | 結果的には、その数字が「答え」なんですよ。 選挙と同じで、 頭を下げたら確かに票は伸びるかもしれない。 でも、そこで伸ばしちゃうと 「わかんなくなっちゃう」んじゃないかな。 |
平野 | ‥‥ああ。 |
糸井 | その意味では「きれいな数字」として 知ることができたわけだから、 やらなくて よかったんじゃないかなと思いますね。 |
---|---|
平野 | そうか‥‥そうですね。 |
糸井 | たぶん。 |
平野 | Ustream中継をやってると 心配してくださる声が聞こえてくるんです。 |
糸井 | ほう。 |
平野 | あれだけ音質のよいものを ナマでぜんぶ聴かせちゃって、大丈夫かと。 |
糸井 | うん、うん。 |
平野 | ようするに、見に来る人はいるだろうけど、 そのためにCDが売れたり ライブに人が集まったりするわけない、と。 |
糸井 | ええ。 |
平野 | でも、結果的には、 iTunesでも1週間1位をとることができたし、 当日券で会場に来てくれる人たちが 回を重ねるごとに、増えていったんです。 |
糸井 | つまりUstreamで観てたら ライブにも行きたくなっちゃった人がいたんだ。 |
平野 | そういう動きを見てたら、 「パッケージされたCDを売る」という これまでのビジネスが 逆に、 ものすごく難しいものに見えてきたんです。 |
糸井 | あー、なるほどね。 |
平野 | だって、聴いたこともないアルバムを 手に取らせて、 3000円くらいのお金を払わせて、 封を切って 中の音楽を聞きたいと思わせてはじめて、 CDが1枚、売れるわけですから。 |
糸井 | そうですね。 |
平野 | だから、ぜんぶフリーで見せちゃって どうやって儲けるんですかって 聞いてくる人たちに対しては 今まで、中身を聴かせないいままに お金払わせてきたのに比べたら むしろ、 こっちのほうがぜんぜん勝ち目ありますよって、 言いたいんですよ。 |
糸井 | なるほどね。 |
平野 | 今までのみなさんがやってきた方法のほうが 難しくないですかって、言いたいんです。 |
糸井 | ‥‥なるほど。 |
<つづきます>