平野 | あとから思ったことなんですけど‥‥。 |
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糸井 | はい。 |
平野 | Ustream中継のあとに アルバムやグッズを買ってもらうことって 「課金ポイント」を 後ろにずらしただけなんですよね。 |
糸井 | ああ、そうですね。 |
平野 | もし、あれが 「この中継は1500円の有料配信です。 ただし、特典として iTunesのフルアルバムが付いてきます!」 という企画だったら‥‥。 |
糸井 | 見る人、ものすごく減ったでしょうね。 |
平野 | しかも 「デジタルなんちゃらの平野」とかいう わけわかんないのが出てきて しゃべったりするんですよ? はじめにお金をもらっていたら、 クレームの嵐ですよね。 なんなんだ、この有料番組はと。 |
糸井 | 「お前の荷造り風景なんかに 金払いたくない!」(笑) |
平野 | そうそう(笑)。 現場でのトラブルなんて見せてたら それこそ「金返せ」ですよね。 |
糸井 | そうだねぇ。 |
平野 | でも、今回の場合は 「みなさん、どうぞ無料でごらんください。 で、もし気に入っていただけたら 1500円ですけど アルバムを買ってくださいね」と。 |
糸井 | やる前には意識してませんでしたよね、それ。 |
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平野 | ええ。 |
糸井 | 当たり前だと思ってたわけでしょ? |
平野 | はい。 |
糸井 | もともと「オレ、手伝いに行きます!」 というところから この話はスタートしてるわけだから。 |
平野 | そうそう、そうなんです。 Ustream中継で関わっていくうちに、 あれこれ考えて、 だんだん、見えてきた感じです。 |
糸井 | 過剰に「タダ同然のもの」が混ざると 商品って「安く」なるんですよ。 |
平野 | ‥‥と、言いますと? |
糸井 | たとえば、牛が鋤を引いて田んぼを耕すとき、 必要なのは、基本的にエサ代くらい。 あるいは、風車を回して粉をひいてる場合に、 「風」はタダじゃないですか。 |
平野 | はい、風は‥‥タダです。 |
糸井 | そういう「タダ」の要素が たくさん入ってる商品って「お買い得」なんです。 |
平野 | あー‥‥。 |
糸井 | 長いこと化石燃料の時代が続いてますけど ぼくたち 石油にお金を払っているとはいうものの、 それが生み出すエネルギーや仕事量に比べたら、 石油代って、ほとんどタダ同然。 そういう「効率のよい時代」が 物質文明の繁栄を支えてきたわけですけど、 いま現在は‥‥。 |
平野 | ええ、ええ。 |
糸井 | 「みんなが好きでやってること」を 「タダ」と考えたら いいんじゃないかなって思うんです。 |
平野 | ‥‥おおー。 |
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糸井 | 以前、「ほぼ日」をはじめた直後くらいかな、 野田秀樹さんの芝居を 観に行ったんです、ものすごい雨の日に。 |
平野 | はい。 |
糸井 | もう、雨の強さがハンパじゃなくて、 傘を差してもびしょ濡れになったんですね。 で、ようやく劇場にたどり着いて バサバサと傘の水を切り、 洋服をぱんぱん叩きながら入っていく 自分および他の観客を見て 「おれたち、 何でこんなに一生懸命になって 集まるんだろう。 これこそ労働そのものじゃないか」 と思ったんです。 |
平野 | なるほど。 |
糸井 | しかも、お金を払ってですよ。 |
平野 | そうですよね。 |
糸井 | つまり「お客が観に来てくれる」ということも 「労働」であって、 その労働が「芝居をする側の労働」と 出会ったとき、 「演劇」という商売は成り立つんだとわかった。 |
平野 | ‥‥はい。 |
糸井 | お客さんが劇場で消費する「演劇」は 演出家や役者によって作られますけれど、 反対に お客さんが電車に乗ってやってくるのも、 その日のために ご飯を食べてエネルギーを貯めこむのも、 ぜんぶ「仕事」なんです。 |
平野 | たしかに。 |
糸井 | で、その「仕事」を お客さん自ら「タダ」でやってしまうところに 「野田秀樹の舞台」という 「コンテンツの魅力」があるわけです。 |
平野 | うん、うん、うん。 |
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糸井 | 10万人動員のコンサートを開いたら、 10万人が 「お客さん」というタイヘンな仕事をしに 集まってくれてる。 |
平野 | それも無料で、というか、 むしろ‥‥お金を払って。 |
糸井 | そう。 |
平野 | 1万人のお客さんを 1万円の日当を払って集めたと思ったら 1億円‥‥ですものね。 |
糸井 | チケット代が1万円だったとしたら、 そのコンサートでは トータルで2億円分のエネルギーが動いてる。 |
平野 | そう考えると、すごいですね。 |
糸井 | しかも、集まった人、よろこんでるわけじゃない? |
平野 | 大よろこびしてますよね。 |
糸井 | やってるほうも、 よろこんでくれる人を見て、嬉しいじゃない? そこで創出されたエネルギーの総量って お金だけじゃなく、 「タダ」が生み出した仕事量もプラスして 考える時代になってきてますよね。 |
平野 | うん、うん、うん。なるほど。 みんなが好きでやってる「タダ」が交じるほど、 そのもの以上のエネルギーになるんだ‥‥。 |
糸井 | そして、何かガラっと一変するときって、 「タダ」の力が変化したときなんです。 |
平野 | ぼくが、参加費タダのツイッター上で 古川さんのツイートを見て 「手伝いに行きます!」っていうのも 誰からも、日当もらってないし。 |
糸井 | そうでしょ。 |
平野 | そうか‥‥でも「タダ」って聞くと、 一般的に、ちょっと怪しい感じがしません? |
糸井 | しますね(笑)。 |
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平野 | だから、ドッキドキしてたんですよ。 自分でやってても。 |
糸井 | でも、今は「タダ」だらけですよ。 |
平野 | んー、何といいますか‥‥。 「タダ」が、 これまで「タダじゃないもの」で 成り立っていた構造を 壊しちゃうような気がしたんです。 |
糸井 | それってようするに 「お金」と 「タダが生み出したもの」との両方を足して 「エネルギーの総和」と考えることが なかったからだと思うんです、今までは。 |
平野 | うん、うん‥‥なるほど。 |
糸井 | ちょっと前に『FREE』という本が売れたけど、 あれは「タダ」と言っても 「ちゃんとお金が集まりますよ」って話でした。 だけど、何て言うんだろう‥‥。 恋をする、子どもを育てる、 友だちから頼まれごとをされて 「うん、いいよ」って言う。 その場合の「タダ」は ものすごいエネルギーを生み出しますよね。 |
平野 | そうですね。 |
糸井 | 「仕事量」と言ってもいい。 |
平野 | ああ、なるほど。 その表現は、ピンときます。 |
糸井 | だから、平野さんたちの中継も お金だけを媒介にして人を集めた場合より 「タダ」という要素を入れることで 結果として 全体の仕事量が大きくなったと思いますね。 |
平野 | ああ! そうです、そのとおりです。 |
糸井 | ただ、ぼくは、仕事量という説明でも まだ機能主義的すぎるかなぁと思ってるので 「信用」って言葉を代入してますが。 |
平野 | あの‥‥Ustream中継を「続けよう」と 決心した瞬間というのがあるんです。 |
糸井 | ほう。 |
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平野 | タイムライン上に ツイートが流れてくるんですね‥‥つまり、 交通事故とか病気とか、 さまざまな理由で ご自宅から出られない人からのツイートが。 |
糸井 | ええ‥‥なるほど。 |
平野 | ぼくらのやってることに感謝してくれてる。 で、その数を見ていたら、 今、ぼくらが想像しているよりも たぶんずっと多くの人が ご自分の家の外に出られないんだってことが なんとなく、わかったんです。 |
糸井 | はい。 |
平野 | そのときに、教授が言ったんですよ。 「こんなにたくさんの人たちが コンサートに来れないだなんて知らなかった。 今まで自分は コンサートに来てくれている人たちしか、 見えてなかったけど、 こうやって来れない人たちのことを 初めて知ることができた」‥‥って。 |
糸井 | なるほどね。 |
平野 | それを聞いて、もっとやりたいって思った。 つまり、中継を続けていくための原動力は 「Ustream」で「手弁当」という 「タダ」から生まれたもの、だったんです。 |
糸井 | なるほど。 |
平野 | だから、さきほど糸井さんがおっしゃった 「信用」という言葉が なんだか、すごくシックリ来たんです。 |
糸井 | うん、うん。 |
平野 | これ、はじめに 「在宅者のためにUstream中継をしなさい」って 言われてやったことなら、 きっと、もっと「仕事」になってたと思う。 |
糸井 | その場合は「ペイすること」が絶対条件になるね。 で、ペイできなかったら、続けられない。 |
平野 | はい、「タダ」から始まったことだからこそ、 続けられたという気がします。 |
<つづきます>