平野 | あの‥‥そもそもの話をしていいですか。 |
---|---|
糸井 | はい。 |
平野 | 糸井さん、 何でぼくと「目が合った」んでしょうか。 |
糸井 | いきいきしてたんでしょうね。 |
平野 | そう見えてたなら、うれしいです。 |
糸井 | やっぱりぼくは、 他人と自分を楽しませようとしてる人を 見たいんだと思います。 |
平野 | 自分の個人的な感覚としては いきいきというか 全体的に「必死」ではありましたけど(笑)。 |
糸井 | うん、そうでしょうねぇ。 これ以上、裸になれないっていうぐらい裸に。 |
平野 | なってましたか? |
糸井 | だって、かっこつけてらんなかったでしょう? |
平野 | そりゃあ、もう。 |
糸井 | でもそれが、すっごく楽しそうだったんで。 |
平野 | はい、ほんとに楽しかったです。 ぼく、もう十何年も前に 「お前、誰?」みたいな状態で 「平野友康のオールナイトニッポン」って やらせてもらってたんですね。 |
糸井 | へぇー‥‥。 |
平野 | 簡単に比較はできないですけれど、 今やってるUstreamは そのときより断然おもしろいです。 |
糸井 | そうですか。 |
平野 | 全国ネットで深夜1時からラジオでしゃべるより、 今、ひとりの部屋で カメラの前でああだこうだ話してるほうが よっぽど多くの反応が来るし‥‥密度が濃いです。 |
糸井 | つまり「目が合ってる」んだね、見てる人と。 |
平野 | そうです、そうです。 ラジオのときは、たぶん70万人とかの数、 聴いてるはずなんです。 でも、人によってちがうでしょうけど、 その70万人のうち ものすごく熱いのは何十人くらい。 実際、いつもハガキを送ってくれるのは 50人くらいだったんですね。 |
糸井 | うん、うん。 |
平野 | いま、ぼくのUstreamを見る人って 当然70万人もいませんけど、 調べてみると だいたい「60%」がアクティブなんです。 |
糸井 | ほー‥‥。 |
平野 | 全国ネットのオールナイトニッポンのときは 「70万分の50人」ですけど、 今は1000人が見てたら 600人くらいが、ガッと動いてくれるんです。 |
糸井 | うん、うん。 |
---|---|
平野 | 勝ち負けじゃないと思いますけど、 あえてそこにこだわるなら、 これって、どっちが「勝ち」なんだろう? あるときなんかは 1万円もする「部活ジャージ」というものを 1500人の視聴者のうち 500人が買ってくれたこともあったんです。 |
糸井 | 新しいテクノロジーをつかったメディアが 無条件に優れてるとは ぼくは、簡単には、言えないと思うんです。 既存の大きなメディア、 とくに 「何百万人が見るテレビのすごみ」って やっぱり、ありますから。 |
平野 | ええ、ええ。 |
糸井 | でも、少なくとも平野さんの場合は Ustreamという 「もうひとつの世界」のほうが 「目と目を合わせられる」という実感を 持ててるんでしょうね。 |
平野 | はい、そうなんだと思います。 |
糸井 | 「目と目を合わせられる」メディアを おもしろがってるというか。 |
平野 | はい。‥‥あ、そうそう、ラジオと言えば。 |
糸井 | ええ。 |
平野 | 半年間、電話サポートの番組を やってたこともあって。パソコン関係の。 |
糸井 | ‥‥めずらしい番組ですね。 |
平野 | 今、考えると信じられない企画でした。 まず、メールと電話で 来た相談を受けつけるんです、ぜんぶ。 |
糸井 | ‥‥ぜんぶ? |
平野 | しかも、番組が終了するまでの半年間、 「サポート率100%」を誇ったんです。 |
糸井 | どういうこと? |
平野 | 突然、スタジオのぼくに電話がつながるんです。 たとえば、 代理店の人からページメーカーについての質問だったり、 おばあちゃんから、 どのパソコンを買ったらいいかの質問だったり、 プログラマーの人から どこどこのライブラリの何々についての質問だったり。 |
糸井 | その質問の内容は、事前には‥‥。 |
平野 | もちろん、わかりません。 でも、それら、パソコンにまつわる ありとあらゆる質問に応えて、 問題を解決しなけれならないんです。 ぼくひとりで。 |
糸井 | はー‥‥。 |
平野 | しかも、電話で解決できなかった場合は 「その人の家に行く」んですよ。 |
糸井 | あはははは。 |
平野 | 自腹で。 |
糸井 | ‥‥はぁ(笑)。 |
平野 | で、かならず解決してこなきゃならなくて。 |
糸井 | でも、放送時間内に解決できなかったりも ありますよね? |
平野 | あります、あります。ぜんぜん、あります。 たとえば 「パソコンが 壊れちゃったみたいなんですけど」 みたいな質問なんかだと 放送終了までに直すの無理なんです。 |
---|---|
糸井 | ですよねぇ‥‥。 |
平野 | その場合は、千葉県のナントカさんの家に 次の日とかに行って直してくるんです。 |
糸井 | ははー‥‥。 |
平野 | ‥‥自腹で。 |
糸井 | さっきから何度も「自腹で、自腹で」って 強調するところに、 ものすごいリアリティを感じるなぁ(笑)。 |
平野 | さらに、それだけじゃなくて 放送終了後に、テレフォンセンターへ行くと 電話をかけてきた人の 名前と電話番号と症状が書いてあるんですよ。 それらの質問に対してもですね、 こっちからかけて、ぜんぶ、解決するんです。 そんなことを、半年間やってました。 |
糸井 | それで、サポート率100%? |
---|---|
平野 | はい。 |
糸井 | それは‥‥すっごい訓練になったでしょう。 |
平野 | 当時、ほんとにつまんない番組だと思って やってたんですけど、 思い返すと、 今の仕事に、ほんとに役に立ってますよね。 |
糸井 | でもそれ、 「ひとりあたりギャラいくら」でやったら すぐ辞めちゃったと思う。 |
平野 | あ、そうかも‥‥割に合わなすぎて。 しかも、ラジオを聴いている人には 最終回まで「サポート率100%」ですって いちども言ってなかったんですね。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
平野 | だから、生放送中につながった5〜6本の電話と、 20通ぐらいのFAXやメールが すべてだと思ってたかもしれないんですが‥‥。 |
糸井 | じつは、見えないところで。 |
平野 | 何百人というサポートをやってました。 |
糸井 | すばらしい。 |
平野 | 人によっては 番組が終わったあとだと時間が遅いから 「あした電話してください」とか(笑)。 |
糸井 | でも、電話ででも実際に会ってでも、 ひとりひとり固有の問題を ケースバイケースに解決していく作業って、 それこそ 「目を合わせる」ことでしか‥‥。 |
平野 | あ‥‥できないです。 |
糸井 | 今の平野さんをつくったのは、それかもね。 |
平野 | ああー‥‥。 |
糸井 | それを栄養にしたんだね、きっと。 |
平野 | そうかも知れません。 ただ、当時は だーれも、褒めてくれませんでしたが(笑)。 |
糸井 | うん(笑)。 |
平野 | コマーシャルの間に 解決法を検索するんですよ、一生懸命。 |
---|---|
糸井 | その姿を想像するだけで、おかしいわ(笑)。 |
平野 | 解決できないと 家まで行かなくちゃならないんで、必死。 |
糸井 | でも、さっきの「タダ」の話で言うと、 その「サポート」に対する 平野さんの 無限のエネルギーが「タダ」じゃないですか。 |
平野 | あ、そうです、そうです。 |
糸井 | その「タダ」のエネルギーから生まれたものって、 やっぱり、ものすごく大きいんですよ。 |
平野 | ええ、身をもってわかります。 |
糸井 | ちなみに、どこの局です? そんなおかしなことをやってたのは。 |
平野 | ニッポン放送です。 |
糸井 | へぇー‥‥。 |
平野 | プロ野球のシーズンオフ、ナイターの枠で。 |
糸井 | え、そんな時間? |
平野 | はい、夜の8時とか9時とか。 |
糸井 | 深夜じゃないんだ。 |
平野 | ゴールデンです。 |
糸井 | 車で食事に向かわんとするカップルが パソコンの修理話を聞かされるわけ? |
平野 | 時間帯としては、そうですね。 |
糸井 | ‥‥最高(笑)。 |
<おわります>