第4回 信じられないラジオ番組。
平野 あの‥‥そもそもの話をしていいですか。
糸井 はい。
平野 糸井さん、
何でぼくと「目が合った」んでしょうか。
糸井 いきいきしてたんでしょうね。
平野 そう見えてたなら、うれしいです。
糸井 やっぱりぼくは、
他人と自分を楽しませようとしてる人を
見たいんだと思います。
平野 自分の個人的な感覚としては
いきいきというか
全体的に「必死」ではありましたけど(笑)。
糸井 うん、そうでしょうねぇ。
これ以上、裸になれないっていうぐらい裸に。
平野 なってましたか?
糸井 だって、かっこつけてらんなかったでしょう?
平野 そりゃあ、もう。
糸井 でもそれが、すっごく楽しそうだったんで。
平野 はい、ほんとに楽しかったです。

ぼく、もう十何年も前に
「お前、誰?」みたいな状態で
「平野友康のオールナイトニッポン」って
やらせてもらってたんですね。
糸井 へぇー‥‥。
平野 簡単に比較はできないですけれど、
今やってるUstreamは
そのときより断然おもしろいです。
糸井 そうですか。
平野 全国ネットで深夜1時からラジオでしゃべるより、
今、ひとりの部屋で
カメラの前でああだこうだ話してるほうが
よっぽど多くの反応が来るし‥‥密度が濃いです。
糸井 つまり「目が合ってる」んだね、見てる人と。
平野 そうです、そうです。

ラジオのときは、たぶん70万人とかの数、
聴いてるはずなんです。

でも、人によってちがうでしょうけど、
その70万人のうち
ものすごく熱いのは何十人くらい。

実際、いつもハガキを送ってくれるのは
50人くらいだったんですね。
糸井 うん、うん。
平野 いま、ぼくのUstreamを見る人って
当然70万人もいませんけど、
調べてみると
だいたい「60%」がアクティブなんです。
糸井 ほー‥‥。
平野 全国ネットのオールナイトニッポンのときは
「70万分の50人」ですけど、
今は1000人が見てたら
600人くらいが、ガッと動いてくれるんです。
糸井 うん、うん。
平野 勝ち負けじゃないと思いますけど、
あえてそこにこだわるなら、
これって、どっちが「勝ち」なんだろう?

あるときなんかは
1万円もする「部活ジャージ」というものを
1500人の視聴者のうち
500人が買ってくれたこともあったんです。
糸井 新しいテクノロジーをつかったメディアが
無条件に優れてるとは
ぼくは、簡単には、言えないと思うんです。

既存の大きなメディア、
とくに
「何百万人が見るテレビのすごみ」って
やっぱり、ありますから。
平野 ええ、ええ。
糸井 でも、少なくとも平野さんの場合は
Ustreamという
「もうひとつの世界」のほうが
「目と目を合わせられる」という実感を
持ててるんでしょうね。
平野 はい、そうなんだと思います。
糸井 「目と目を合わせられる」メディアを
おもしろがってるというか。
平野 はい。‥‥あ、そうそう、ラジオと言えば。
糸井 ええ。
平野 半年間、電話サポートの番組を
やってたこともあって。パソコン関係の。
糸井 ‥‥めずらしい番組ですね。
平野 今、考えると信じられない企画でした。

まず、メールと電話で
来た相談を受けつけるんです、ぜんぶ。
糸井 ‥‥ぜんぶ?
平野 しかも、番組が終了するまでの半年間、
「サポート率100%」を誇ったんです。
糸井 どういうこと?
平野 突然、スタジオのぼくに電話がつながるんです。

たとえば、
代理店の人からページメーカーについての質問だったり、
おばあちゃんから、
どのパソコンを買ったらいいかの質問だったり、
プログラマーの人から
どこどこのライブラリの何々についての質問だったり。
糸井 その質問の内容は、事前には‥‥。
平野 もちろん、わかりません。

でも、それら、パソコンにまつわる
ありとあらゆる質問に応えて、
問題を解決しなけれならないんです。

ぼくひとりで。
糸井 はー‥‥。
平野 しかも、電話で解決できなかった場合は
「その人の家に行く」んですよ。
糸井 あはははは。
平野 自腹で。
糸井 ‥‥はぁ(笑)。
平野 で、かならず解決してこなきゃならなくて。
糸井 でも、放送時間内に解決できなかったりも
ありますよね?
平野 あります、あります。ぜんぜん、あります。

たとえば
「パソコンが
 壊れちゃったみたいなんですけど」
みたいな質問なんかだと
放送終了までに直すの無理なんです。
糸井 ですよねぇ‥‥。
平野 その場合は、千葉県のナントカさんの家に
次の日とかに行って直してくるんです。
糸井 ははー‥‥。
平野 ‥‥自腹で。
糸井 さっきから何度も「自腹で、自腹で」って
強調するところに、
ものすごいリアリティを感じるなぁ(笑)。
平野 さらに、それだけじゃなくて
放送終了後に、テレフォンセンターへ行くと
電話をかけてきた人の
名前と電話番号と症状が書いてあるんですよ。

それらの質問に対してもですね、
こっちからかけて、ぜんぶ、解決するんです。

そんなことを、半年間やってました。
糸井 それで、サポート率100%?
平野 はい。
糸井 それは‥‥すっごい訓練になったでしょう。
平野 当時、ほんとにつまんない番組だと思って
やってたんですけど、
思い返すと、
今の仕事に、ほんとに役に立ってますよね。
糸井 でもそれ、
「ひとりあたりギャラいくら」でやったら
すぐ辞めちゃったと思う。
平野 あ、そうかも‥‥割に合わなすぎて。

しかも、ラジオを聴いている人には
最終回まで「サポート率100%」ですって
いちども言ってなかったんですね。
糸井 ええ、ええ。
平野 だから、生放送中につながった5〜6本の電話と、
20通ぐらいのFAXやメールが
すべてだと思ってたかもしれないんですが‥‥。
糸井 じつは、見えないところで。
平野 何百人というサポートをやってました。
糸井 すばらしい。
平野 人によっては
番組が終わったあとだと時間が遅いから
「あした電話してください」とか(笑)。
糸井 でも、電話ででも実際に会ってでも、
ひとりひとり固有の問題を
ケースバイケースに解決していく作業って、
それこそ
「目を合わせる」ことでしか‥‥。
平野 あ‥‥できないです。
糸井 今の平野さんをつくったのは、それかもね。
平野 ああー‥‥。
糸井 それを栄養にしたんだね、きっと。
平野 そうかも知れません。

ただ、当時は
だーれも、褒めてくれませんでしたが(笑)。
糸井 うん(笑)。
平野 コマーシャルの間に
解決法を検索するんですよ、一生懸命。
糸井 その姿を想像するだけで、おかしいわ(笑)。
平野 解決できないと
家まで行かなくちゃならないんで、必死。
糸井 でも、さっきの「タダ」の話で言うと、
その「サポート」に対する
平野さんの
無限のエネルギーが「タダ」じゃないですか。
平野 あ、そうです、そうです。
糸井 その「タダ」のエネルギーから生まれたものって、
やっぱり、ものすごく大きいんですよ。
平野 ええ、身をもってわかります。
糸井 ちなみに、どこの局です?
そんなおかしなことをやってたのは。
平野 ニッポン放送です。
糸井 へぇー‥‥。
平野 プロ野球のシーズンオフ、ナイターの枠で。
糸井 え、そんな時間?
平野 はい、夜の8時とか9時とか。
糸井 深夜じゃないんだ。
平野 ゴールデンです。
糸井 車で食事に向かわんとするカップルが
パソコンの修理話を聞かされるわけ?
平野 時間帯としては、そうですね。
糸井 ‥‥最高(笑)。

<おわります>

2011-08-03-WED