ほぼ日刊イトイ新聞
アイヌを撮り続けて発見したのは、「自分」と「写真」だった。
撮影:池田宏

写真家・池田宏さんに聞く、アイヌのこと。

10年以上にわたって、
アイヌの人たちのところへ通っては、
写真を撮り続けている、池田宏さん。
縁もゆかりもない土地、
見ず知らずの人たちのあいだに、
なんにも知らないままに飛び込んで、
いろいろ失敗し、ときに拒まれながら、
やがて、受け容れられていった、池田さん。
アイヌの人たちと仲良くなるうちに、
「アイヌってなんだろう?」という疑問は
じょじょに薄れゆき、
アイヌの人たちを撮影していく過程で、
自分自身を「発見」する。
その営みに生まれた写真を見ながら、
これまでのことを、話してもらいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

第4回
そのときそこで、写ったもの。

──
写真家のかたにお話をうかがう機会も
けっこうあるんですけど、
動機もスタイルも、
写真家の数だけ、あるような気がして。
池田
ええ。
──
たとえば、
まだ見ぬ人との出会いや風景を求めて、
世界を旅されていたりとか。
池田
はい。
──
だから、写真を撮るという行為にとって、
「新しさ」というのは、
ひとつの大きな要素かなあと思うんです。
池田
まあ、そうでしょうね。
──
その点、池田さんは、
もう何年も、
ずっとアイヌの人たちのところへ通って、
写真を撮り続けているわけで、
そのへんのことについては、どうですか。
池田
一期一会の出会い方で生まれる写真も
当然あれば、
ある関係性を続けていくことによって
生まれる写真も、あると思ってます。
──
その場合も、「なれあい」にならずに?
池田
ええ、もう何度も会っている人でも、
場合によっては、
緊張感を孕んだ撮影になります。

それに、
仮に、なれあいになったからといって、
ダメとも限らない、というか。
──
通い続けたからこその、写真になる。
池田
あの、60代の男性で、
いろいろ知り合いを紹介してくれたり、
いつもいつも、
すっごくお世話してくださる人がいて、
その人が、よく
「俺はあんたのことが好きだ」
とかって、言ってくれるんですけどね。
──
ええ。なんでですかね?
池田
そう、まさしくその質問を‥‥つまり、
あるときに、
「え、なんでですか?」って聞いたら、
「また来ますって言って、
 おまえは、ちゃんと来るから」って。
──
だから、好きだと。社交辞令じゃないから。
池田
たしかに、飛行機で北海道まで飛んでって、
さらに、クルマで
空港から2時間くらい走った町まで行って、
「また来ます」って、
ほとんど「挨拶」みたいなもんでしょうし。

撮影:池田宏

──
でも、池田さんはちゃんと「また行く」。
池田
つながり続ける、続いていくことによって、
いろんなことが起きるんです。

そういうことが、いちいちおもしろいです。
──
だから、通い続けられるんですね。
池田
たとえば、あるときなんかは、
その人が、いきなり誰かに自分を紹介して、
「ナントカさん、
 これ東京から来たカメラマンなんだけど、
 撮らしてけろ」って言って、
いきなり、ブチ切れられたりとかね(笑)。
──
え(笑)。
池田
その人もアイヌなんですけど、
「俺はアイヌのこと嫌いなんだ!」って、
「なして俺が、
 おまえに撮られなきゃいけねえ!」って、
僕は撮りたいとも言ってないんだけど。
──
ですよね、今の流れだと(笑)。
池田
でも、ほんと、すごく怒ってるから、
「すいません、すいません」って、
とにかく謝ってたら、
「あんた名刺置いていけ!」って言われて。

そしたら、後日、その人から電話があって
「どこそこで、ナントカって人が
 アイヌのイベントやってて、
 その人、すごくがんばってるから、
 今度あんた来たときに、一緒に行くべ」
とか、そんなことも起きたりします。
──
わあ。最終的には、仲良くなっちゃったり?
池田
でもきっと「写真撮らせて」って言ったら、
「ダメだ」って言われると思う(笑)。

だから、その人について言えば、
写真は、もういいかなあって思ってますね。
──
もともと池田さんは、
写真のほうが「先」だったわけですけど、
お話を聞いてると、もう、
どっちがどうとかじゃないみたいです。
池田
そうですね。きっかけは、もちろん写真で、
自分だけの写真を撮らなきゃとか、
作品集にまとめなきゃとか、
そういう気持ちが強かったんですけど、
結果として、すっかり、
アイヌの人たちに魅了されちゃってるので。
──
ま、写真を撮らなくてもよくなった‥‥は、
言い過ぎでしょうけど。
池田
はい、関係性を続けていきたいから、
当然、知らなきゃいけないことはあって、
できるだけ勉強したり、
本を読んだり、映画を観たり、
講演を聴きに行ったりとかもしてますが、
アイヌの人といっしょにいると、
つらい悲しいより、
ぜんぜん楽しいことのほうが多いんです。

結果的に、撮らないこともあります。
──
人に怒られて、いろいろと気付かされて、
でも、同じ人のおかげで、
楽しいってところまで変わったんですね。

人って、何だか、すごいですね。
池田
はい。最初のうちは、
「自分は写真家だ、撮らなきゃいけない」
という焦りもあったんですけど、
どうしても、撮ることが、できなかった。

やっぱり「人を撮る」って怖いですから。
──
それは、アイヌかどうか、関係なく?
池田
そうですね。怖いですよ、未だに。誰でも。
──
これは、人それぞれだと思うんですけれど、
写真家として、池田さんは、
何が写ったらいいと思って撮っていますか?
池田
それは‥‥何なんですかね。難しいけど、
よく言われるのは、
「関係性」ってことだと思うんですけど。
──
撮る人と、撮られる人との関係性。
池田
もちろんそれは、
何らかのかたちで写るんだろうと思います。

自分も、そのことを気にしていた時期も、
たしかに、あったんですけど、
今は、関係性がどうこうとか、
自分の写真に何が写るのかっていうことは、
あんまり考えなくなりました。
──
そうなんですか。
池田
はい。
──
それは、こんなにも長く、
アイヌの人たちのところに通ったことも、
理由として、ありますか。
池田
ああ、あるかもしれないです。

「写真を撮っていいですか」「ダメだ」
「写真を撮っていいですか」「いいよ」
みたいなことを話して、
オッケーをもらったら、
どこで撮ろうかをいろいろ話して考えて、
「これから何するの?」
「山、行くんだわ」
「じゃあ、俺もいっしょに行っていい?」
みたいなやりとりの先に、
自分の写真というのは成り立っています。
──
ええ。
池田
だから、そこに何が写るのかについても、
頭で先にゴチャゴチャ考えるより、
そのとき、その瞬間、
そこで写ったものでしかない、というか。
──
池田さんは、
アイヌの人たちのところへ通って撮って、
自分自身と、
自分の写真を見つけたのかなって感じが、
何となく、聞いていて、しました。
池田
そうですね‥‥ひとつ何かあるとすれば、
「アイヌかっこいい」で撮ってるんで、
だから自分は、自分の写真を通じて、
その気持ちが伝わったら、いいのかなあ。

撮影:池田宏

協力:スタジオ35分

<おわります>

2018-04-20-FRI

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN