昨年9月に日本橋高島屋で開催された
「美と、美と、美。-資生堂のスタイル-」展。
資生堂が創業から現在までに創ってきた
「美」の歴史を9つの切り口で見せる展覧会です。
東京では12日間だけの開催だったので、
巡回展が中止になってしまったのは、とても残念です。
2019年度トップ10にはいるすばらしい展覧会でした。
(私の個人の感想です)
「赤、赤、赤」
なんといってもこの展覧会で印象的なのは、
会場ぜんたいを彩る赤。
かなりの面積の壁、床までもが赤なんです。
すごい!
赤はとても強い色なので、
展覧会の会場で赤を多くつかうのは、
なかなか高度な技だと思います。
なぜこんなに思い切ったディレクションにしたんだろう。
と考えているひまもなく、
その答えは会場を入ってすぐわかりました。
このあたりの構成も小粋です!
はじめに展示されていたのは、
資生堂が初めて発売した化粧品
「オイデルミン」でした。
発売当時から、現代までの歴代の瓶が展示されています。
「オイデルミン」は、
あざやかな色をしていたので、
「赤い水」として広まり、
改良をくわえながら今も販売されている
資生堂の代表的な商品になりました。
なるほど、
それで、赤。
この商品がスタートであり、
資生堂のスターだということを
すっと理解できました。
この「オイデルミン」の部屋の展示台が、すごかった。
側面にミラーをはった展示台になっているのです。
よく見てほしいので、同じ写真をもう一度。
わかりますでしょうか?
直接的には赤の素材を使わずに、
周りの赤をミラーに映すことで、
赤を表現しているんです。
各部屋の入り口はアーチになっていて、
アーチを越えると新たなテーマの展示を見ることができます。
ひとつ目のアーチをぬけた先は
資生堂発行の雑誌『花椿』の部屋です。
1937年の創刊から現代に至る『花椿』が、
両サイドにずらーっと並んだ圧巻の空間でした。
どの時代の『花椿』をみても、
この雑誌が映し出す女性たちは
美しさと強さがまざって、とてもかっこよく、
ながめているだけで
清々しい気持ちになりました。
展示会場の至るところに
「オイデルミン」に生けられた椿が
ちょこん、と置いてあります。
茶室の床の間にあるような佇まいを感じるのに、
花を生けているのは、化粧品の空き瓶!
日本古来の美意識と
肩の力の抜けた現代的な感覚が相まって、
すてきだなぁと思いました。
この先もいくかのテーマに分かれて展示は続きます。
資生堂の代表的な商品のパッケージも、
歴代の広告ポスターも、
資生堂のイラストを多く手掛けた山中文夫の原画も、
すべてが、そう、赤い部屋に並んでいました。
私がいちばん好きだった
『「美」が香る』と名付けられた
香水瓶が並んだ部屋もみごとな赤でした。
(写真が暗くて申し訳ありません‥‥)
化粧品も、香水も
本来は機能や香りがたいせつで
自分にあっていればどんな容器に入っていても
関係ないのかもしれません。
でも、そうじゃないんだよ。
と100個の香水瓶が教えてくれます。
素敵な小瓶を目にして、手にすることで、
毎朝の私がすこしご機嫌になる。
すこしご機嫌な私が続いていけば、
ほんの数ミリ素敵な人に近づけるかもしれない。
この会場で、
ひとつひとつ丁寧に作られた小瓶を見て、
そんなことを考えました。
最後の展示室が、またすごかった!
口紅がひとりで動いて、絵を描いているんです!
一枚書き上げるのに10分弱でしょうか。
音も立てずに、すーすー。
と口紅が動いていくんです。
言葉で説明すると、ただそれだけなのですが、
見ているこちらも自然に呼吸が整う、
凛とした静けさがそこにはありました。
口紅が短くなり、絵がかすれてくると、
真っ赤なユニフォームのスタッフさんが
くるくると口紅を回しに登場します。
そのアナログ感がまた愛らしくて、
小さな口紅を応援したくなりました。
「美と、美と、美。-資生堂のスタイル-」展には、
おばあちゃんがずっと使っていた
化粧水の瓶が展示されていたりする。
むかし町で見かけたポスターが並んでいたりする。
有名な絵画ばかりが展示されているわけではないのに、
こんなに心をつかまれたのは、
展示空間の佇まいがすばらしかったからだと思います。
とても気持ちがいい場所でした。
あの場所のことを思い出していたら、
きれいな小瓶に入った化粧品を買って、
キレイな紙袋をかかえて家に帰るときの
心が喜ぶ感覚をひさしぶりに味わいたくなりました。
百貨店の化粧品コーナーで、
素敵な小瓶を買える日が待ち遠しいです。