ほぼ日カルチャん

作品のない展示室

ミュージアム

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そうでなかったらば観られないもの

モギ

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外に出かけようとして、
マスクをしているか確認する。
世界は変わってしまったのだな、と思う。
こんなジメジメした季節に
鼻炎でも風邪をひいたわけでもないのに
マスクをしてでかけるのだから。
毎回「なんだかな」とがっかりしても身が持たないし、
変わってしまったことが簡単にもとに戻らなさそうなので、
だからこそのものを、おもしろいとおもったり、
たのしんだほうがいいなあと思うことにした。
そうでもしないと身が持たない。

例えば、映画かマンガの中でしか
見たことのないゴーストタウンが、
現実に目の前にあったこと。
その非常事態宣言のそのさなかに、
運動不足解消の散歩で、表参道を通りがかったら、
長期休業にはいったお店の店頭から、
すべての商品がひきあげられて、
外から見える店内は、がらんとしていた。
4月の天気のよい休日の昼間にもかかわらず、
通りを歩いているのは、数えるばかりの人間で、
瞬間瞬間には、視界から人間が消える。
なんじゃこら、と思った。

たとえば、無観客ライブをオンラインで観たこと。
わたしがみたものの一つは、
もともとキャパ300人くらいの会場でのイベントを
4000人の人がオンラインチケットを買って観ていた。
たぶん、普通だったらチケットがとれずに
観ることがかなわなかっただろうと思う。
すんごいおもしろかった。
(採算があうならば、今後もリアルとオンラインの
両方のチケットを発売してほしいと強く願っている。)

意味合いも、種類もまったく違うことだけれど、
このふたつは
「そうでなかったらば観られなかったもの」だ。
そして、どちらも心が動いたということでは
同様に“おもしろ”かった。

前置きがだいぶ長くなったけれど、
現在、世田谷美術館で開催している
「作品のない展示室」(〜8月27日)も
「そうでなかったらば観られないもの」だ。
だから、いそいそとでかけた。

緊急事態宣言中も、そのあとも、
いろいろな事情で美術館の展示は無くなったり
延期になったりしてしまった。
世田谷美術館で予定されていた、
「ミュージアム コレクション特別篇」も
その一つのようだった。
この会期と重なるように、
今回の作品のない状態の展示室の展示が行われている。

作品が展示できないから美術館を閉める、
という選択ではなく、
作品がない状態は普段はみることができないから、
あえてそれをみてもらう、ということを決められた
世田谷美術館の力を目の当たりにして、
いや、まじで、「すげー!」と
でっかい声で叫びたいと思った。

作品があれば絶対に開放されることがない窓からみえる
砧公園の緑はとてもうつくしく、
窓の外で活動しているだれかを飽きずに見ていられる。
天井の高さや空間の広さなど、
建物そのものの気分の良さもあわせて味わうことができる。
人が少なければ少ないほど、空間の不思議さが際立つ。

そして、なんと入場無料。
私はとにかくコロナ中や後に、
イベントを主催している人々が、
「コロナだから」「やったことがないことをやるから」
「本来できたこととは違うので」「こんなときだから」
といって入場無料にしすぎだと思っている。
せめて、たのしんだ分だけのお金は払わせてくれと
いろいろな機会で思った。
予め払わせてくれないのならば、
とにかく、おもしろかったら、
いくばくかのお金をはらうことができる
投げ銭の仕組みをすべての無料イベントは
用意しておいてくれたらいいのに。

ちなみに「作品のない展示室」には
1500円は払いたい。

基本情報

作品のない展示室

会期:2020年7月4日(土)~2020年8月27日(木)
時間:10:00~18:00
休館日:毎週月曜日(祝・休日の場合は開館、翌平日休館)
※8月10日(月・祝)は開館、翌8月11日(火)は休館
会場:世田谷美術館 1階展示室