ほぼ日カルチャん

演芸資料館 榎本健一没後50年記念「エノケン」

ミュージアム

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エノケンを、知らなくても。

山下

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エノケンこと、榎本健一。
戦前、戦中、戦後の日本を
笑いの渦に包み込んだ喜劇王です。
‥‥と、いかにも知っているように書いていますが、
ごめんなさい。
エノケンに関する知識と体験が
ぼくにはほとんどありません。

「エノケン」という名前は知っていました。
ただ、作品に触れたことがないのです。
かろうじて体験しているのは「歌」です。
エノケンが歌った歌。
『私の青空』や『洒落男』などは、
きっとみなさんも聞いたことがあるとおもいますよ。
たしか、コマーシャルソングに使われていたと
記憶しています。

さて、そんな知識のない人物のことを
どうしてここでご紹介することになったのか。

「ほぼ日カルチャん」に
こんな内容のメールが届きました。
国立劇場 調査資料課の方からのメールでした。

───────────────────
ご担当者様

国立演芸場 演芸資料展示室では、
2020年の没後50年を記念して、
日本の喜劇王 榎本健一の軌跡をたどる
資料展示を開催中です。
ほぼ日の読者の方々には、ひょっとしたら
ご興味をもっていただけるのではと思い、
ご案内をお送りさせていただきました。───────────────────

いただいたメールには、
この展示の紹介動画が案内されていました。
よろしければ、みなさんもご覧ください。
榎本健一という喜劇俳優が、
どれだけ偉大ですばらしい人物だったかが
わかりやすくまとめられています。

この動画を見て、
にわかに興味がわきました。
「浅草や有楽町で大人気だった俳優」です。
当時はエノケンの舞台を観るために、
多くの人々がワクワクしながら
劇場に足を運んだのでしょう‥‥。
「東京の文化案内所」を名乗るぼくらとしては、
昭和の時代にきらめく文化を提供していた
エノケンのことを、すこしでも知りたいと思いました。

あわせて、
「国立演芸場」という場所にも興味がありました。
糸井重里はむかし、
立川談志さんの落語を聞くために
何度も「国立演芸場」を訪ねていたとか。
もちろん現在も様々な落語の会が開かれています。
となりには、
日本の伝統芸能が上演される
「国立劇場」があります。
すこしばかり敷居を高く感じていましたが、
そんな臆病なきもちで
すばらしい文化に出会えないのはもったいない!

というわけで、行ってまいりました。
東京都千代田区隼町、
こちらが
「国立演芸場 演芸資料展示室」です。

同行したのは、ほぼ日の元嶋です。
彼女は世代的に、
ぼくよりさらにエノケンを知りません。
「記憶の中ではじめてみたお笑い番組は?」
とたずねてみたら、
「えーと‥‥めちゃイケだと思います」
という返答。
はあー、ここでも世代の差を感じます。
ぼくは「全員集合」でした、ドリフでした。

エノケン世代からはるかに離れたわれわれですが、
この場所では、
吸い込まれるように展示資料を読みました。
まず、年表や解説を、しっかり。

資料展示室はそんなに広いスペースではありません。
でも、読むべきものがびっしりです。

遺族の方から寄贈されたという
エノケンに関するパンフレットやポスターなどが並び、
それを見ていくだけでも時間が過ぎていきます。

▲このポスターには、八千草薫さん、森光子さんの名前も。

 ▲舞台で使われた帽子や眼鏡。

 ▲晩年、病により左足を切断。それでも義足で舞台に立ち続けたそうです。

 ▲1970年1月7日(65歳没)。石膏でとったデスマスクです。

おもしろかったです。
エノケンのことをそんなに知らなくても、
好奇心を十分に刺激されました。
ここで知って、もっと知りたくなりました。

戦前、戦中、戦後。
それはぼくらが想像する以上に、
不要不急なことを続けるのが困難な時代だったはずです。
その状況下で、
「お客さんにたのしんでもらう」ことを、
「人々を笑わせる」ことを、
考え続け、挑み続けた人物の軌跡を、
にわかではありますが、たどれた気がしました。

「はじめて見たお笑いはドリフだった」と
上で述べましたが、
この展示でひとつ
「なるほどなぁ」と思ったことがありました。
ドリフターズは、バンドでした。
クレイジーキャッツは、ジャズバンドでした。
子どものころ、
「このおもしろいギャグで笑わせてくれる人たちは
どうしてバンドもやってるんだろう?」
と疑問に思ってましたが、
これはもしかしたら
エノケンからの流れがあるのかもしれない‥‥。
と勝手な分析で思ったのでした。
エノケン喜劇の真骨頂は、
「笑いと音楽を融合させた舞台」にあったそうです。
当時の日本では画期的な試みだったのでしょう。
老若男女を魅了したお芝居は、
いつも音楽といっしょだったのです。
なるほどぉー、と思いました。

この展示をおとずれたあと、
まだエノケンのお芝居を観ていません。
いま体験するにはDVDしか方法はないのかな。いつか観る日がたのしみです。

そして、
「国立演芸場」と「国立劇場」に
あらためて演目を観に来るのがたのしみです。

敷居が高いと勝手に思い込んでいた場所は、
担当者の方々もやさしくてあかるくて、
居心地のいい場所でした。
人々をたのしませる「芸能」を
蓄積した施設ですから、
よく考えれば、それはあたり前のことなのでしょう。

資料展「エノケン」は、入場無料です。
まずはこの場所を訪れてみることから、
あなたもいかがですか?

基本情報

演芸資料館 榎本健一没後50年記念「エノケン」

会期:2020年6月5日(金)〜11月23日(月・祝)
会場:国立演芸場1階・演芸資料展示室
開室時間:10:00〜17:00
※国立演芸場で公演がない日は休館です。
10月以降の休館日は下記のとおりです。
10月21、22、26、28、29、30日

※ご来場時の注意など、
詳細は公式ページをご覧ください。