ほぼ日カルチャん

イサム・ノグチ 発見の道

ミュージアム

0171-2

地球の彫刻を感じる。

あやこ

0171-2

上野の東京都美術館で開催中の
「イサム・ノグチ 発見の道」に行きました。
彫刻家、インテリアデザイナー、
造園家、舞台芸術家などの
多彩な顔をもった
イサム・ノグチ(1904-1988)の作品が
90件以上展示されている
大規模な展覧会です。

わたしは、これまでに
イサム・ノグチの作品を
意識して鑑賞したことがありませんでした。
この展覧会の趣旨は、
彼が晩年に制作した
石の彫刻に至るまでの「発見の道」を
様々な作品でたどる、というものでしたが
それは、はじめて彼の作品や思いに触れる
わたしのような人にとっても
入りやすい展覧会でした。

会場でまず目に入ってきたのが
「あかり(AKARI)」による
インスタレーションでした。
イサム・ノグチの代表作とも言われる
和紙と竹でつくられた照明で、
「光の彫刻」とも呼ばれているそうです。

たくさんの丸い照明が
広い展示室のまんなかで
ゆっくりとしたペースで
ついたり、消えたり、をくりかえしています。
和紙をとおして広がる光はやわらかで、
人がまわりを歩いたときにうまれる
かすかな空気のうごきが、
あかりのゆらめきをつくっていました。

作品との出合いに興奮する、というより
自然に心拍がおちついてくるような
おだやかな心地よさがありました。

「あかり」インスタレーション

そして、中央の「あかり」を囲むように
点在して会場内に配置されているのが
ブロンズなどの金属や
土をこねてつくられた焼きもの(陶)の
重みのある彫刻です。
ふたつめの部屋には
金属板(溶融亜鉛メッキ銅板)の作品も
並んでいました。

何をあらわしているんだろう?
イサム・ノグチはこのかたちを
なぜ表現したのだろう?

彫刻のまわりを歩いて
さまざまな角度から見つめてみても、
その「?」の答えが
すぐに伝わってくることはありません。
解説もほとんどなく
見ているわたしたちにゆだねられるので、
タイトルと照らしたところで
わからない! となるような作品も正直ありました。

そんなふうに
彫刻や現代美術に
全くあかるくないわたしですが、
かろやかであたたかい印象をもつ「あかり」と
どっしりとつめたさも感じるような彫刻群という
一見、相反する存在の作品が
おなじ空間に共存しているという風景を
とてもおもしろく感じていました。

展示風景

「あかり」インスタレーション

もしかしたら、彫刻を
たのしめているかもしれない、
そう思いながら3部屋めに入ります。
展覧会のクライマックスともいえる
晩年にたどりついたという
「石の彫刻」の展示です。
(※会場では撮影禁止でした。)

イサム・ノグチ 《フロアーロック(床石)》 1984年 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)

この場で、強烈に印象にのこった
イサム・ノグチのことばがあります。

採石場のような場所にいて
巨大な石に彫刻をほどこすところを
撮影した映像で、
彼はこんなことを話していました。

「地球は石だ。」

石はいちばん古い。
土も粉になった石である。
だからわたしは石に興味があるんだ。
と。

そのことばを胸に石の彫刻を眺めると、
おそろしいようなスケールのなかに
作品がたちあがってきます。
イサム・ノグチは、
自分の表現をかたちにするための
たんなる材料として
石を彫刻したのではない、と感じました。
「石」こそ彼の到達点で、
それをじぶんの手によって作品にすることで
エネルギーを享受しているかのようにも思いました。

ここに並ぶほとんどの石の彫刻が帰属する
香川県・牟礼にある
「イサム・ノグチ庭園美術館」の映像も
すばらしかったです。
彼が65歳のときに構えた住居兼アトリエで、
そこで庭にたつ作品は
陽の光をうけたり、雨にうたれたり、
まさに地球の一部でした。
鳥の声や雨音が響くなかで
石の彫刻がただ立っている、といううつくしい姿に、
心が澄んでいくような思いがしました。

イサム・ノグチ≪黒い太陽≫1967-69年国立国際美術館蔵

イサム・ノグチの彫刻に向き合ったとき、
わたしは、自然や地球を感じました。

思えば、
石も、土も、金属も、
人間も、地球です。
そして、「あかり」のすうっと届く光は
わたしたちが日々あびている
太陽や月の光のようでした。

ああ、だから調和していたんだ!
最初にわからないながら感じていた
共存するおもしろさの理由が
わたしのなかで腑に落ちた瞬間でした。
そう気づくと同時に、
「彫刻を感じる」という体験が
はじめてできた気がして
うれしくなりました。

全写真クレジット:
©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

基本情報

イサム・ノグチ 発見の道

会場:東京都美術館 企画展示室
会期:2021年4月24日~8月29日
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日
ただし、7月26日(月)、8月2日(月)、8月9日(月・休)は開室
住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36

入場料:一般 1,900円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 65歳以上 1,100円/高校生以下無料(日時指定予約推奨)
※日時指定予約制
公式サイトチケットページはこちら

展覧会公式サイトはこちら。