歩き疲れた足と、満ち足りた気持ち。
ひと旅終えたような、ここちよい疲労感を感じています。
新宿・SOMPO美術館で開催されている
「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり」
に行ってきました。
ランス美術館は、フランスのシャンパーニュ地方、
歴代国王の戴冠式が行われてきた
古い歴史をもつ街の中心にあります。
19世紀の風景画が数多く所蔵されていることで
知られている美術館です。
今回の展覧会は、ランス美術館のコレクションを中心とした
約80点を通して、フランスの近代風景画史を
見て、感じて、知ることのできる構成になっています。
次々にちがう風景をながめるという意味でも、
近代風景画の歩みをたどるという意味でも、
旅に行って帰ってきたような満足感がありました。
第1章・第2章は、19世紀に描かれた作品が並んでいます。
なかでも作品数の多い
ジャン=バティスト・カミーユ・コローの作品は、
正面に立ったとたん、さーっとその風景が目の前に広がり、
一瞬その景色の中に立っていたのではないか、
と思わされるほどの臨場感がありました。
じっくりと見つめていると
木漏れ日やすんだ空気、風のうごきが感じられて、
気づけば深呼吸をしていました。
第3章に進むと、すこし展示の景色がかわり、
版画の作品が並びます。
黒くてほそい線をこまかく重ねて描かれた風景画は、
繊細かつ壮大で、みる者をグッと惹きつける力がありました。
第4章は、コローが「空の王者」と呼んでいたという
ウジェーヌ・ブーダンの作品です。
晴れた空だけでなく、どんよりくもった空や
嵐を予感するような空など、
いろんな空もようがモチーフになっていることに
新鮮さを感じました。
わたしがもし空を描くとしたら、
迷わず青や水色を選ぶだろうと思います。
でも、ブータンが描く空をよくみると、
白い雲が浮かぶ青い空の奥に、ピンク、紫、きみどり、と
数え切れない数の色が重ねられているのです。
この日をさかいに、毎日なにげなく見る空の色が
一段、深まったような気がしています。
さいごの第5章は、ルノワールやモネなど
印象派の画家たちの風景画です。
幻想的な色づかいで描かれた作品がずらりとならんだ空間に、
心のまんなかからむくむくと熱い気持ちが湧いてきて、
自分の気持ちがわかりやすく高揚していくのを感じました。
とくに、モネの《べリールの岩礁》の前に立ったときには
「息をのむ」とはこういうことか、と思いました。
無数の色の重なりで描き出された岩の影や海の深さを見ていると、
画家自身が体感していた自然のエネルギーまで伝わってくるようです。
筆跡まで見てとれる原画だからこそ感じられる
迫力ある美しさに、圧倒され続けた最終章でした。
第1章から第5章まで、ひととおり風景画を眺め終えたあと、
出口でふと立ち止まり、「まだ帰りたくない」と思いました。
旅行の終わりに感じる、あの気持ちです。
自分のなかに湧いた感情にまかせて、
もう一周、しっかりと目に焼きつけて、
空気を吸って、帰ってきました。
夏ときくと、無性に旅に出たくなるのは
わたしだけでしょうか。
東京のまんなかで、ちょっと小旅行へ。
数時間の旅に出る気持ちで、ぜひ訪れてみてください。