監督のジュリアン・シュナーベルは、
1980年代から90年代に大好きだった画家です。
そのシュナーベルが、
1996年に「バスキア」で映画監督デビューすると、
2007年の「潜水服は蝶の夢を見る」で
映画監督としても世界的な成功を収めます。
この「永遠の門」は、
画家シュナーベルが、
画家ゴッホを描いた映画ということで、
特に興味をそそられました。
ゴッホの人生はこれまで数多くの本になり、
映画になり、演劇となって、
残された作品とセットで語り継がれ、
死後とてもポピュラーな画家となりましたが、
この映画はその人生をなぞるような内容にはなっていません。
ゴッホという画家の目に映っていた、
描かずにいられなかった美しい風景を、色彩を、光を、
画家でもあるシュナーベルの解釈によって
実に美しく描いています。
ウィレム・デフォー演じるゴッホが、
南仏の自然の中に嬉々として身を委ねるシーンは、
まるで自分自身がその場の温度や匂いや風を感じながら、
その場に立っているような気さえして、
うっとりしてしまいます。
この美しい映像を観られるというだけでも、
この映画を観る価値はあると思います。
一方、一向に理解してもらえない自分の美や、
周囲の人間から受ける様々なかたちの暴力や、
理不尽な扱いなどによって心が不安定になり、
ゴッホが狂人と化していく過程も、
ゴッホの目線で描かれていますが、
これは実に恐ろしくて不快です。
この、観客を恐ろしく不快な感覚に陥らせる理由は、
それがファンタジーではなく、
フィンセント・ファン・ゴッホという実在した人物が、
実際に体験した「リアル」を描けているからかもしれません。
「潜水服は蝶の夢を見る」を観ているときに感じた、
息がしづらいような苦しさは、
これに比べればエンターテインメントとして描かれているとさえ思えるほどです。
また、手持ちの揺れるカメラワークや、
画面の下半分が滲んでいるフィルターを多用するなどして、
ゴッホの目に見えていた世界を再現しようとしたシーンは
苦手(酔う?)な人もいるかと思いますが、
でも、とにかく切なくて美しい映画なのです。