元ヤクザの男が
どのように足を洗って生きていくのか、
という更生物語だと思って
劇場に向かいました。
わたしはピースフルな作風が好きで
「ヤクザもの」はまず見ませんし、
入れ墨のはいった左肩の
役所広司さんのまなざしに、
すこし緊張もしていました。
見はじめるとすぐに、
見る前に抱いていた貧相なイメージは
追い抜かされていきました。
ひとりの男が中心にはいるものの、
むしろそんな男を受け入れる側の
社会と人間の話でした。
社会にいる、わたしの話でもありました。
人生のほとんどが
ヤクザと刑務所だった男・三上には
「ふつう」こそなかなかむずかしい。
なにをしようとするにも障害があって、
もどかしさに何度ものどがつかえるような気持ちになります。
でも、西川美和監督が描くのは
生きづらい世界だけじゃありません。
血のかよった人と人とのやりとりや
なくならない善意がちゃんとあって、
三上のまわりにゆっくりと輪ができていきます。
そのなかで三上の顔がほころぶ瞬間が
もう、たまらないです。
そんな、息苦しさとあたたかい光が
かわるがわるおとずれるのが
この「すばらしき世界」でした。
いわゆる”更生物語”のように
階段をのぼっていくのではなく、
展開はかるく転がります。
そのかるさが絶妙で
何度もうわーっとやられ、
感情をかきまわされました。
光がさすから影が濃くなり、
影があるから光がより美しくみえる。
月並みな表現ですが、
まさにそんな作品だと思います。
すてきな場面がたくさんあります。
くりかえし思い返すようなことばもあります。
うまく言えないかもしれないけど、
この胸でぐるぐるとうごめく気持ちを
だれかと分かち合いたい!
そう思いながらひとりで劇場を出ました。
役所広司さんはもちろん、
まわりの役者さんにも
ぐんぐん惹きつけられます。
みなさんすばらしかったです。
この演技が見られるというだけでも
おすすめの理由のひとつになるくらいです。
まだ公開されたばかりの映画です。
いずれ自宅でもお手軽に
見られるようになるのかもしれませんが、
ぜひ映画館でこの作品だけを前にして
向かいあってください。