ほぼ日カルチャん

エル プラネタ

映画

0205

とことん「自ら」の。

ちゆう

0205

アメリカの『フォーブス』という経済誌で
「世界を変える30歳未満」の30人に選ばれるなど、
時代を象徴するアーティストとして注目を集めている
アマリア・ウルマンの映画、
『エル プラネタ』を観てきました。

アマリア・ウルマンにとっては、
初の長編映画の監督なのだそうです。
はじめての今回、彼女が担当したのは
監督だけではありませんでした。
プロデュースも、脚本も、主演も、
さらには衣装デザインまで、
すべて「自ら」が手がけたのだとか。
はじめての作品なのにすごい‥‥
と驚くのはまだ早かったです。
彼女がこの映画に取り入れた「自ら」には、
まだ続きがありました。
作品の舞台は「自らの故郷」。
そこで経験した「自らの貧困体験」が
ストーリーに織り交ぜられています。
そして、「自ら」が演じる主役の母役には、
なんと「自らの母親」を起用しているのです。
当然ですが、主人公・レオ(アマリア・ウルマン)と
その母親(アレ・ウルマン)の距離感には、
とてもお芝居では出せない空気を感じました。

とことん「自ら」です‥‥。

ここまで「自ら」を重ねているからでしょう。
観ながらずっと、
この映画のテーマでもある
「リアル」と「虚構」の境界線を
じんわりと行き来するような、
ふしぎな感覚がありました。

物語の舞台であるヒホンという街で、
レオの母親は自身をセレブということにして、
いわゆる「ツケ」で贅沢な買い物をしていきます。
レストランでごちそうを食べたり
高価なスーツやドレスを身にまとったりしながら、
万引きを繰り返していく‥‥。
貧しくてギリギリの状況なのに
SNS上にはスタイリッシュな暮らしをアップする‥‥。
鑑賞者(わたし)は、
「これも実話?」という心配をしてしまいます。
でも、今観ているのは映像作品なわけで‥‥。

こうして「リアル」と「虚構」の間で揺れているうちに、
ふと、観ている自分に考えが及びます。
「SNSの自分」と「実際の私の生活」はどうだろう?
もっと大きなことまで考えました。
「表のニュースで伝えられること」と
「実際に起きている問題」の差って、どうなんだろう??

ストーリーは、虚しくも愛おしい、
ブラックユーモアあふれる母娘の逃避行物語です。

家の電気を止められても、
たくさんのキャンドルの中で楽しんでいる
親子のシーンがありました。
それは、決して強がっているわけでなく、
虚構の中で現実の自分たちを笑い飛ばしているようで、
切なくて、とても愛おしい場面でした。
(私も止められたことがあるのでわかります。
精神的なダメージが強くて、たのしむしかないのです)

映画が描く「リアル」と「虚構」、
観ている私が感じる「リアル」と「虚構」。
これらが混ざりあったまま映画の時間は進み、
やがてスクリーンに「FIN」の文字が。
そこで一気に現実に引き戻されます。

アマリア・ウルマンが、
インタビューでこんな発言をしていました。

「自分のアートがそれ自体の人生を持っていることが好き」

映画が終わった後も、わたしは、
あの親子の行く末を想像したり心配したりしています。
まさに、作品自体が人生を歩んでいるのだなと思いました。

全編モノクロだったのもよかったです。
人物の表情や、ストーリー全体に
どこか虚しい印象を滲み出しているようで。
モノクロでも伝わる、衣裳のすてきさも印象的でした。

ハッピーエンドではないけれど、
心のどこかであたたかい気持ちを思い出す。
そんな映画だったと思います。

基本情報

エル プラネタ

公開時期:2022年1月14日(金)より全国ロードショー
監督・脚本・主演:アマリア・ウルマン
出演:アマリア・ウルマン、アレ・ウルマン、チェン・ジョウほか
詳細:2021年製作/82分/アメリカ・スペイン
配給:シンカ
原題:EL PLANETA
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