HOLAND
オランダは未来か?

「ホ〜!ラント」第18回目
【トム・ホフマンインタビュー】その3
その1その2を読んでいない方は、そちらからどうぞ。

今回もオランダの名優トム・ホフマンにオランダの
社会について聞いています。
トム・ホフマンもイアン・ケルコフも
同じところがあります。
それはまったくもってまわらないところです。
私が質問すると彼らは私に向かって答えてくれる。
当たり前のようだけど、その感じはゾクっとする
新鮮な感じだったんです。
私はあなたより地位がある、あなたより有名だ、
あなたより才能がある、それはそ
うでございましょうけれどもさ、っていうような
凄み方が全然ないんですよ。
では第3回目をお送りします。

アムステルダムは麻薬も自由に吸えるし、
非常に自由な町だというイメージがあります。
国家からの押しつけも少なくて差別もない。
ある意味では理想的な都会だというイメージです。
それをイアン・ケルコフさんは、
ただのイメージにすぎないと
おっしゃられたんですけど、
そういう表側のイメージの裏に
問題がたくさんあるということになるんでしょうね。
Hoffman アムステルダムは80万人しか住んでいないので、
東京に比べると小さな都市なんですね。
10分くらい歩けば誰にでも会うことができます。
東京だったら3時間電車に乗っていても
誰も知っている人に会わないでしょう。

若い世代については、問題もあるけれど
やはり悲観的なことだけではないんです。
インターネットなんかを若い世代の人たちが
使いこなして、違う社会のことをどんどん
知っていくのは素晴らしいことだと思います。
例えば親が子供がいつもコンピュータにばかり
向かっていると嘆いても、子供たちはそこから
多くの新しい情報を吸収していきますし、
視覚的に把握する能力も発達します。
つまり新しいタイプの人間たちが
誕生しているわけでしょう。
イアン・ケルコフがデジタルカメラで
撮影してるのも新しい技術です。
私もデジタルカメラの映像のもつ現代性に
興味がとてもあります。
私は写真家でもあるんですが、
自分の写真をインターネットで公開しています。
私もインターネットでホフマンさんのことを
検索した時に、あなたの写真を拝見しました。
素晴らしい作品だと思いました。
ちょっと面倒な質問なんですけど
お聞きしてみたいことがあります。
日本から見ると、オランダの人の国家に対する感覚は
日本とずいぶん違うという気がするんです。
オランダ出身のジャーナリストの
カレル・ヴァン・ウォルフレンという人が
日本を分析した本を書いているんですが、
日本の国家は一応近代国家の格好をしてるけれど、
本当は真の責任を誰がとるのかが
あいまいなシステムになっていて、
こんなのはまだ近代国家とは言えないんだと
指摘しているんです。
オランダの場合は日本よりも遥かに社会も国家も
論理的にできあがってるんだろうと思います。
それからオランダはフランスやドイツなどとも違った
開放性を国家がもっているように見えるんです。
オランダの人は自分達の国家というものを
どんなふうに考えているんでしょうか?
Hoffman 日本とオランダの一番の違いは、
日本は島国でオランダは他の国々に
囲まれていることでしょう。
それからオランダの方がずっと小さな国だと
いうことがあります。
従ってオランダは周囲の国々からの影響を
常に受け続けてきました。
スペインに百年以上支配されていましたし、
ドイツにも侵略されたし、ナポレオンも来た。
オランダはスラロームをするスキーヤーのように
生き抜いてきたのです。
一番重要なことは(そう言ってホフマンさんは
紙にヨーロッパの地形を書いて説明してくれた)、
オランダというのはヨーロッパのここにあります。
ここには交通上重要な川が他の国々を
横断して流れてきて、ここが河口になっています。
港があって船があって外へ出ていける。
つまりヨーロッパの地理にとって
非常に重要な地域であるわけです。
だからオランダ人はモラル的にも
自由で柔軟な考え方を持つことが
できるようになったのだと思います。
例えば東インド会社がインドネシアや日本と
貿易ができたのは、
そういう柔軟性のためでしょう。
私はインドやスリランカに行って感じたんですが、
オランダのそれらの国との貿易っていうのは、
その国の文化に支配的な影響を与えようとは
していないんです。それに比べてスペインとか
ポルトガルというのは、宗教を変えようとしたり、
その国の文化を植民地化しようとしています。
オランダに歴史博物館がありますが、
そこに行くとオランダには大昔からアラブとか
実に様々な地域から人々入ってきていますし、
貿易を行ってきたことが分ります。
その歴史がオランダ人に外の世界を見る目を
与えているのだと思います。
それはオランダの人から学ぶべき
優れたところだと思いますね。
日本は江戸時代はずっと鎖国していて、
オランダが唯一の世界への窓だったそうですからね。
50数年前の戦争の時には、日本だけが
神様のいる特別な国だというアイデンティティを
持っていたんです。日本はずっと世界に対して
閉じてきた部分がありますから。
Hoffman しかしある意味では、弱さというのは
強い芽にもなるし、
その逆もあるんじゃないでしょうか。
日本人の強いところというのは、
日本人が欠点だと思うところかもしれませんよ。
はあ〜。
Hoffman 日本に来てみると、とても強さというものを感じます。
私達がコンプレックスを抱いているところが、
逆に強さでもあるかもしれないと。
Hoffman ただ、今は世界的にどこに行っても
アメリカがリードしているので、
アメリカの考え方に毒されているところは
日本にもあるとは思いますが。
アメリカの文化には表面的な魅力が満ち溢れています。
野球とかハンバーガーとか、すぐにそういう
アメリカの影響にどんな国も染まっていきます。
これからは、それぞれの国が自分たちのバランスを
作っていく必要があるのではないでしょうか。

(つづく)

トム・ホフマンが日本人が欠点だと思うところは
日本人の強さなのかもしれないよと言った時に、
私はまぬけな(はぁ〜)という返事をしてしまいました。
それは意外な言葉だったからです。
私達は「日本の常識は世界の非常識」といった
言葉におどかされているけれど、その「非常識」を
愛着のある田舎の風習のように、
愛着としてガイジンにぶつけてみたことはあまりない。
そんなことを考えました。
次回も読んでくれますよね?ハイゆびきりげんまん。

1999-09-21-TUE

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