実際のリニューアルから
さかのぼること1年前の2006年の6月6日。
「ほぼ日刊イトイ新聞8周年を迎えて。」
というコラムの中で、糸井重里は、
「新しい『ほぼ日』をスタートさせます!」
と高らかに宣言しました。
新しいページのデザインはおろか、
ラフもコンセプトも決まってないのに、です。
「いったい、なにをどこからはじめれば?」
進行役のナカバヤシは慌てました。
すでに二度も頓挫してしまったプロジェクトを
どうやって再スタートすればいいのかわからず、
もどかしい時期が続きます。
しかも、当時(2006年夏ごろ)は、
「ほぼ日から6冊の本を同時に出す!」という一大事業で
乗組員全員がてんてこ舞いしていたころ。
加えて「ほぼ日手帳2007」の販売も控えてます。
リニューアルを大きな宿題に感じながらも、
どうしても目先の締切が優先されてしまう。
まさに、「多忙は怠惰の隠れ蓑」です。
ばたばたしているうちに月日は流れ、
ふたたび、プロジェクトが動き始めたのは、
「ほぼ日手帳2007」の販売がはじまり、
「11月の6冊の本」の製作の見通しもたった
2006年10月11日のことでした。
進行役のナカバヤシは進行役として
えいやっ、とメンバーを招集します。
集ったメンバーは、永田、ぐっさん、
社内唯一のシステムエンジニアであるベイちゃん、
そして、システムまわりのアシスタントとして
当時入社したばかりのリンリン。
多すぎて混乱した前々回の会議の反省と、
少なすぎて行き詰まってしまった前回の反省を踏まえ、
「多すぎず、少なすぎず」という
手探りの人選で再スタートを試みたのです。
社内でいちばん大きな会議室に5人が集まり、
真っ白なホワイトボードを前にして、
心意気も新たに会議をはじめます。
環境がよかったのか、人数が手頃だったのか、
タイミングがよかったのか、
なにが幸いしたのかはよくわかりません。
けれども、結果的に、このときのミーティングで、
のちのリニューアルの根本的な指針となる
大きなコンセプトを発見できたのです。
会議というのは、ほんとうに不思議なものです。
いたずらに時間を費やす
実のないミーティングになることもあれば、
いろんなことがつぎつぎに解決される
密度の濃い打ち合わせになることもある。
「よい会議」を生み出す条件がわかれば、
どんな企画もすいすい進められるのでしょうけど、
はっきりとした条件なんて、きっとないのでしょうね。
しいて挙げれば、このときの会議では、
出席した全員にほどよい緊張感があり、
各自が等しい量の切迫感を抱えていて、
しかも、過去2回の失敗という材料がありました。
同じように進めては、同じように行き詰まる。
アイデアの断片を寄せ集めて
性急にラフをつくっても、意味がない。
再スタートに際して、全員の考えは、
自然と根本的なことへ向かいました。
「ほぼ日」はどうなりたいんだろう?
「ほぼ日」はどう見られたいんだろう?
「わかりづらい」って、なんだろう?
「わかりやすい」って、なんだろう?
たとえば、トップページを構成する要素について、
あらためて大きな分析をすることができました。
「ほぼ日」のトップページの面積は
おもに以下の3つで占められているのです。
・今日のダーリンのエリア
・コンテンツのもくじのエリア
・ほぼ日ストアのエリア
この3つをバランスよく配置し、
読む側が違和感なく
行き来することができれば、
トップページはずいぶんわかりやすくなる。
逆にいうと、その3つ以外に使われている
ムダなエリアを排除するだけでも、
ずいぶん読みやすくなる。
こうして書いてみると、
あたりまえのようなことばかりなんですが、
「ページのデザインを変えよう!
便利な機能を追加しよう!」と
表面的なことばかりを考えているときには
そのあたりまえのことに目が向かなかったのです。
さらに話し合いは続きます。
「これまで、デザインや機能を、
変えたくても変えられなかったのはなぜだろう?」
「『こうなったらいいねー』を思いつくと同時に、
『じゃあ、こうしなきゃ無理だ』
という問題が思い浮かぶからじゃないかな」
「じゃあ、『こうしなきゃ無理だ』を
先に話し合うべきなんじゃないの?」
「うん、デザインやラフの設計はそのあとだ」
この会議での、もっとも大きな発見は、それでした。
「ほぼ日」のリニューアルを実現させるためには、
根本的なテーマが3つあったのです。
まず、1つめは
「ほぼ日刊イトイ新聞」という
WEBサイトを運営するにあたっての
基本的なルールのようなことです。
1日に更新するコンテンツの量やバランスは?
メニュー紹介はだれが書く?
並びの順番はどうやって決める?、
というようなことが、実のところ
これまでは担当者のその場の判断に委ねられていて、
基本的な約束事が「ほぼなかった!」のでした。
ですから、なにかを変えようとすると、
「それ、誰がどこでいつやるの?」
という問題がすぐに生じてしまったのです。
つまり、トップページを変えることは、
「人」や「組織」の役割や動きを変えることである。
このことをチームでは
「人にまつわる問題」と呼ぶことにしました。
そして2つめは、
「ほぼ日刊イトイ新聞」を毎日更新するときの
システムについての問題です。
リニューアルに際して、ぜひとも実現させたいのが
「検索機能をつける」ということでした。
これまでにも「検索機能をつけてほしい」という声は
読者の方からたびたびいただいていました。
検索機能があれば、「読みたいものを探しづらい」という
大きな問題を解決することができる。
また、「過去のコンテンツの一覧」や、
「数日前の更新コンテンツを振り返る」という機能も
「わかりやすいページ」にするために、ぜひ欲しい。
これまで、「ほぼ日」のシステムを
ほぼひとりで担ってきたベイちゃんが言います。
「だとすると、やっぱり、おおもとに
全部を統括するデータベースが必要です。
創刊当時までさかのぼって、
すべてのコンテンツを
そこに登録し直す必要があります」
そ、そりゃたいへんだ‥‥けど、
それをやるからこそ、リニューアルなんだ。
具体的な解決の方法はあとで考えるとして、
いまは問題を洗い直すことのほうが先決。
とりあえず、私たちは
このデータベースにまつわる問題のことを
「裏の問題」と呼ぶことにしました。
新しいページという「表」をつくるためには、
まず、新しい「裏」が必要だということです。
そして、3つめ。
ここで、いよいよ、表面そのもの、
つまり、ホームの「デザイン」を
どうするかという問題にたどりつきます。
思えば、これまで、私たちは、
1の「人の問題」も
2の「裏の問題」もすっ飛ばして、
3の「デザイン」ばかりを追っていたのですね。
そりゃあ、頓挫するわけだ。
「デザイン」については、
先に挙げた「3つのエリア」を
バランスよく見せるということがポイントとなります。
問題が整理されて、ぐっさんの顔も
ようやく明るくなってきました。
「人」と「裏」と「デザイン」。
この3つのテーマに取り組むことが
「ほぼ日」のリニューアルプロジェクトなのだ。
具体的な解決策まではたどりつけなくても、
問題がはっきり見えたのは大きな収穫でした。
問題がわかれば、あとは解決すればいい!
とはいうものの、前途はまだまだ多難。
ですが、ひとまず5人は
前向きに会議を終えたのでした。
(つづく) |