忘れないうちに書いておかなくっちゃ。 ほぼ日リニューアル物語

第8回 まだまだ変わりつづけます
2007年6月6日水曜日。
構想から、足かけ4年。
プロジェクト始動から2年。
本格始動から1年。

2回のテストを経て、ようやく迎えた
「ほぼ日」のリニューアル当日は、
新しいページことばかり考えてきた
リニューアルチームにとっては、
まさに元旦のような一日でした。

「いよいよ、ページを更新します」



「『今日のダーリン』のページが降りてくる
 ビヨーンがたのしい!」
「ここ一週間のほぼ日が便利!」
「検索機能いい!」
「テストの時より、だいぶ見やすい!」

9周年のお祝いコメントにのせて
たくさんのメールが届きます。
最後の調整の段階になって、
夜遅くまで仕事する日が増えていた
ベイちゃんをはじめとして
チーム全員が、ほぼ日全員が、
読者から届く暖かいメールで報われた、
そんな一日でした。



‥‥と、ここで、
「めでたしめでたし」とならないところが、
現実のプロジェクトのおもしろいところですね。

リニューアルから1週間が経ち、
9周年のお祭りムードも落ち着いたころ、
予想もしなかった別の問題が発生します。
というよりも、むしろ、
すっかり見落としていたことがあったのです。

それは「時間の経過」でした。

具体的にいうと、問題となったのは、
「ほぼ日」にアクセスすると
ビヨーンと降りてくる
「今日のダーリン」の仕様です。

テストのときも、リニューアル当日も、
「おもしろいですねー!」
「降りてくるのが楽しみです」と
ご好評をいただいていたこの仕様が、
日が経つにつれ、
違ったご意見をいただくようになったのです。

「すいません、いちばん最初に
 『今日のダーリン』が降りてくるのは、
 読めと言われている感じがして
 おしつけがましく感じるんです」
「なんだか、読む順番を
 強制されている感じがして、
 どうにも馴染めません」
 
そんなメールが少しずつ増えてきたのです。
これはいわば、物理的な問題というよりも
精神的な好みともいったほうがいいかもしれません。

リニューアルを終えてホッとしていたのもつかの間、
またしてもチームが招集されます。
っていうか、わたしが招集したんですけどね。

「どう思う?」
「どのくらいの人がそう思ってるんだろう?」
「見られないわけじゃないんだよね?」
「でも、同じ意見がいくつも届くんだから
 それは対処しなきゃいけないでしょ」
「じゃあ、あの仕様をやめる?」
「やめるの?!」
「やめないとすると、なにができる?」

話し合いは続きました。
なにせ、「今日のダーリン」が
降りてくるという仕様は、
チームが長く議論したすえにたどりついた
「自分たちなりの新しい解答」のようなものです。
物理的な不具合が原因であればしょうがないのですが、
「なんとなく、馴染めない」という
曖昧な意見だけを理由に、
すっぱりとそれをあきらめることがためらわれたのです。

いま思えば、これも、
ものをつくっている人が
陥りがちなワナだということが理解できます。
でも、そのときは、どうしても、
わからなかった、というか、
「ほんとうにダメなのかな?」という気持ちを
捨てきれずにいたのです。

うだうだと迷う背中を
ドン! と押してくれたのは、
またしても糸井重里だったのですが、
少々めずらしいことに、
それは、会社のトップの意見というより、
「書き手の糸井重里」の意見だったのです。

2007年6月26日、
「ほぼ日」のトップページが
再度リニューアルされた日、
つまり、「今日のダーリン」が
いまの場所に戻された日、
糸井重里はつぎのように書いています。

ごらんのとおり、ですが、
この『今日のダーリン』の掲載のしくみが、
自働のロールカーテンみたいな方式から、
6月5日までと同じ「そのまま」方式に戻りました。
ぼくの強い要望として、戻してもらったのです。
ご好評だったかもしれませんし、
せっかく馴れかけたのに、という方もいるでしょうし、
画面の使い方として便利な面もあったかもしれませんが、
すいませんけれど、戻させていただきます。

理由は、ですね、何日か続けているうちに、
毎日の文章が書きづらいなと気づいたのです。
「ほぼ日のように毎日更新を続けるコツは?」
なんて質問されたときに、
「なんでもいいから、とにかく書くことです」と、
なかなか芸のないナイスな答え方をしてきたのですが
‥‥それ、ほんとうなんですよ。
「なんでもいいから」という気楽さがないと、
続かないんです。

ところが、自働ロールカーテン方式だと、
自分の文章のためだけのスペースが、
どんと用意されているものだから、
「それなりのことを言わないと‥‥」というふうな、
重い気持ちになりやすいと気づいたんです。
読んでくれる側の人たちも、
「静かにしなさい、ちゃんと読みなさい」と
命令されているような気になった人もいたでしょうし。
朝礼における校長先生と生徒諸君の関係みたいに、
なっちゃったんですよねー。
これじゃ、落語の「まくら」みたいなつもりで、
毎日書いてきたはずの『今日のダーリン』が続けられない。
そう思って、デザインの再調整をしてもらったのでした。



そして、この変更が、
明らかに正しかったということを、
その日のうちにたくさん寄せられた
「変更、歓迎!」のメールから知るのです。

つまり、結果的に、
私たちがよかれと思って工夫をこらした仕様は
間違っていたわけです。

正直いって、少しのあいだ、
チームの全員が脱力したのは事実です。
けれども、その果てに湧き上がってきたのは、
「むっずかしーなーっ!」という
敗北と前向きが、ないまぜになった思いでした。
「むっずかしーなーっ!」
でも、だからこそ、
「おもしろいなーっ!」
というような感じ、でしょうか?

その後、細かい調整はありましたが、
トップページのおおまかなところは変わっていません。
「ほぼ日」のリニューアルプロジェクトは、
いちおう一段落したということができます。
(実際、焼き肉屋で打ち上げをしましたし)

けれども、
「むっずかしーなーっ!」だからこそ、
「おもしろいなーっ!」という気持ちに象徴されるように
ここで終わりではないのだと思います。

わかりやすいことばを選ぶならば、
「ほぼ日」は、まだまだ変わりつづけます。

いちど決めたことも、翻って見つめ直して
また変えたりするかもしれませんし、
いったん、変えてから
また戻ったりすることもあるかもしれません。
(いえ、もちろん、最初から
 「これだ!」という正解を引きたいのですが‥‥)

なにかと不便をおかけすることもあるかと思いますが、
見守っていただれば、幸いです。
よりよい「ほぼ日」を目指して、
試行錯誤を続けていきたいと思います。

最後になりましたが、
このプロジェクトのすべてを見てきました、
わたくし、中林にとって、
このリニューアルプロジェクトは
たいへん長い期間にわたるプロジェクトでした。
というのも、わたしが入社した4年前
すでに社内では
「ホームのデザイン、そろそろなんとかしなきゃ」
という声がちらほらあったんです。
なので、この冒頭での
「構想から4年」というのは
わたしの個人的な記憶と独断で
そう書かせていただきました。
しかも、入社して間もない頃、糸井重里から、
「ホームのデザインさー
 こういうことになったらいいとおもってんだよね〜」
とアイデアを聞いていたこともありました。
(実のところ、最終のデザイン調整で決まった
 メニュー紹介を見やすくするための
 「白黒市松模様」は
 この当時、糸井重里が言っていた
 「チョコレート菓子が
  ショーケースに並んでるような感じ」
 というイメージと非常に近かったりします)

そういったわけでホーム改訂プロジェクトは
わたしにとっては
息の長い、時には息の止まりそうな、
そしてまだまだ、息が続きそうな、
終わることのない仕事であります。

今回のリニューアルプロジェクトを通して、
ほんとうにたくさんのことを学びました。

「ほぼ日」の読者から
「ほぼ日」はどう見られているのか。
「ほぼ日」の読者から
「ほぼ日」はどう見られたいのか。
あるいは、わたしたち「ほぼ日」の乗組員が
「ほぼ日」のことをどう思っているか。

そして、日々届くたくさんのメールから、
じつにさまざまな人たちが、
モニターの向こう側にいることも知りました。

会社でこっそり見てる人、
自宅でゆっくり見てる人、
日本で見てる人、
外国で見てる人‥‥。

いま、わたしが思うのは、
ここを訪れるたくさんの人たちにとって、
「ほぼ日刊イトイ新聞」が
(それこそホームページとして)
いつでも帰りたくなるような場所であったらいいな、
ということです。

さて! 長くなってしまいました!
「ほぼ日リニューアル物語」、
これにて、いったん幕を閉じます!
でもまた、「ほぼ日」が変化するときに
きっと新しいレポートをお届けします!
きっと! たぶん!
また、そのときにお会いしましょう!
それでは。


(おわり)



2007-09-26-WED