細野晴臣を褒めたりない。
音楽家の細野晴臣さんは、
’80年代の音楽のおおもとをつくってきました。
それなのに、なぜか、いつもスポットライトから
外れたところへ行ってしまうのです。
糸井重里は気づきました。
「細野さんを、俺たちは褒めたりていない!」
そこで、こうしちゃおれないと
しりあがり寿さん主催のイベント
「さるハゲロックフェスティバル’23」のステージに
細野さんをお招きし、3人で’80年代を振り返りました。
この鼎談の動画バージョンは、後日

「ほぼ日の學校」で公開いたします。
第4回 無意識で伝説になった。
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しりあがり
「ナマ」でしかできないことはあるとはいえ、最近は、
音楽もほとんど打ち込みでできてしまいますよね。
細野さんは、それでもやっぱり、バンドのように
人と一緒にやったほうがいいと
考えていらっしゃいますか?
細野
時と場合によるんですよね。
この10年くらいは「ナマ」が大好きだったかな。
一切、打ち込みはやらなかった。
糸井
10年も。
細野
うん。10年間、何をやってたかっていうと、
アメリカ人でもよく知らないようなブギウギとかね。
大丈夫かなと思いながら、
ブギウギでアメリカツアーもやったんだけど、
けっこうみんな楽しんでくれて(笑)。
糸井
今、細野さんを褒めるタイミングに入りますけど。
細野
ついに来たのか(笑)。
糸井
今の話もね、
ブギウギが「下手」じゃどうしようもないんだよ。
「オレは今、ナマに凝ってるんだよ」って言っても、
ナマが下手だったら、誰も聴いてくれないわけで。
実は、アメリカのお客が楽しんでくれるほどの技術を
細野さんはちゃんと持ってるんだよね。
しりあがり
本場の彼らは厳しいですもんね。
糸井
「こんなナマケモノ風にしてる人が、
そんなに上手いのか」
と思っちゃうでしょう。
細野さんと楽器の関係について、
ある人に聞いたことがありましてね。
その人が言うには、
新しい楽器をすぐ弾けるようになるのが
細野さんなんだって。
細野さんは、シタールもマリンバも、
適当にいじってるうちに弾けちゃったんだ、と。
これはいろんなところで
伝説のように語られています。
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しりあがり
何か、すぐ弾ける秘訣があるんですか?
細野
いやいやいや、音が出るでしょ?
そうするとなんとかなる。
しりあがり
えー? 僕も、音を出すだけならできますよ。
細野
それが秘訣ですよ。音が好きなの。
しりあがり
「好きになる」ということですか。
細野
そう、好きなの。
そうすると、ちょっと練習したくなるんだよ。
それで、その場で一曲できるの。
糸井
これなんだよ。
はじめから、その域までいっちゃうんだ。
細野
うん。でも、そのあと忘れちゃって、
弾けなくなっちゃう。
あとはもうわかんない。
糸井
星野源くんが、「細野さんから習った」と言って
マリンバを弾いている
ドキュメンタリーを見たんだけど、
細野さんは、別にマリンバの先生ではないですよね。
細野
違うよ、全然教えたことないし。
糸井
でも、星野さんは、
細野さんの演奏に憧れてマリンバを買ったそうです。
細野さんはなぜかすぐに
人に影響を与えるくらい
弾けるようになっちゃうらしい。
細野
だけど、星野くん、今は僕よりうまいからね。
すごいですよ。ちゃんと真面目に練習して。
糸井
細野さんは‥‥その「真面目に練習して」が、
実はできないんですよね。
細野
できない(笑)。何においてもできない、ホントに。
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しりあがり
最初からうまくできちゃうけど、
そのあとなだらかに飽きてしまうのでしょうか。
細野
いや、なだらかはない。すぐ飽きちゃう。
糸井
確かに、なんのためにうまくなるのかの、
理由がないもんね。
偶然の出会いと思いつきでやってみて、
「おもしろかった~」って言って、もう飽きてる。
実は、僕もちょっとそういうところがあるんです。
細野
あるでしょう。
しりあがり
でもですよ、
そういう感じでこんなに成功するんだったら、
「じゃオレだってちょっと鳴らしてピュッといって
ストンといったろか」
とみんなが思っちゃうじゃないですか。
細野
いや、真似しちゃダメですよ。
糸井
「好き」で楽しんでいるうちに
すごいことができちゃうんだとすると、
細野さんが「無意識のうちに、一番努力してること」
は何かってことが気になってきますよね。
細野
何だろう?
糸井
それは、やっぱり「趣味」だと思う。
細野
そうか(笑)。
確かに、よく音楽を聴くね。
いっぱい聴く。深く深く聴く。
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糸井
それで言えば、僕は町で広告を見て、
「惜しい使い方してるな」と思うことが
いまもあるんだ。
しりあがり
それはすごいですね。
糸井
どんな広告もチャンスだと思うからです。
若き日の細野さんも
「やったー、これはチャンスだ」と
ひっきりなしに思って
仕事してたんじゃないでしょうか。
細野
ああ、そうか。そうかもしれない。
糸井
僕自身、
中吊り広告ひとつ受けるのが
めっちゃくちゃ嬉しかった。
いまも仕事をもらうのは基本的に嬉しい。
それは、純粋に「趣味」の嬉しさでもあるんですよね。
今、クラウドファンディングの返礼として
コピーを書くということもやっているんです。
しりあがり
すごい。たしかに趣味ですね、それは。
糸井
趣味以上に真剣にやっていますね。
しりあがり
おもしろいなあ。
それなら僕は、細野さんを褒めるコピーを
糸井さんに考えてほしい。
糸井
それはもう、いくらでもやりますよ。
というか、細野さんのことは、
「細野晴臣を褒めたりない」という言葉で、
もう褒めてるんです(笑)。
褒め方が決まっちゃったら、細野さんのすごさが
そのサイズに収まっちゃう。
「褒めたりない」は僕にとっても憧れなんですよね。
「こういうふうにすごいね」って言われちゃったら
そこでおしまいじゃんって。
しりあがり
「褒めたりない」ってことは、
褒める言葉の外側に
大きな「すごさ」があるってことですもんね。
糸井
そうそう。
(明日につづきます。明日は最終回です)
2023-05-12-FRI