挿絵の 地図の 絵本の雑誌の ロゴの 写真の宣伝の 先輩の お家のパリの 東京の 旅人の   堀内さん。──デザインを旅したひと。──
地図の堀内さん。

▲堀内誠一さんが描いた、パリの名所絵地図。

旅する人、堀内誠一さんは、
絵で、文章で、写真で、旅を表現しました。
そして地図でも。


▲こちらはシチリア全図。

▲ギリシャ・ローマ地図。

こんな地図を見たら、
もしそこが「いつか行きたいところ」だったら、
そのあこがれがますます大きくふくらむよう。
「もうすぐ行く街」や「行ったことのある街」なら、
まるでそこを歩いているような気持ちになりそうです。

それが、堀内さんの地図です。

『an・an』などに掲載された旅のおはなしには、
たのしい、うつくしい絵や文章とともに、
ひきこまれてしまいそうに緻密な
地図のページがありました。


▲『an・an』26号「インド/ネパール」特集のロケーション地図。

堀内さんがみずから歩いた街の地図には、
細い路地までていねいに描かれ、
通りの名前や建物などが書き込まれています。



▲パリの日本語ミニコミ『いりふね・でふね』に掲載したパリの街の詳細地図。
のちに『いりふねパリガイド』という本になりました。

そえられたイラストは簡略化されているのに
きちんと意味がわかります。
ひとりごとのような短い文章は、
的確な道案内であり、
堀内さんがナイショでおしえてくれる
旅のヒントです。


▲『いりふね・でふね』掲載の、パリ・セーヌ川ぞいの古本屋の案内図。

▲おなじく『いりふね・でふね』の、パリ・サンジェルマン通り界隈の地図。

広い範囲の地図も、小さな通りの地図も、
彩色された地図も、モノトーンの地図も、
その場所の雰囲気がつたわる色彩とタッチで、
名所や歴史、たべものや観光のエピソードまでが
イラストや、短い手書きの文章で書き込まれて、
これだけでひとつの「ガイドブック」のようです。
おなじパリの街でも、ちょっとずつタッチが違ったり、
タイトルのレタリングで遊んだり。
地図を描くのが楽しくて仕方がない!
机に向かう堀内さんは、
もしかしたらそんな気持ちだったのかなぁ、
と思います。
堀内さんの地図には、
表面だけの形容詞や過剰な情報はありません。
「網羅しよう」ということもない。
地図はかくあるべしだというような常識とらわれず、
堀内さんにとっておもしろいもの、うつくしいものが、
惜しみなく、さりげなく、まるで旅の仲間に語るように、
たっぷりと、地図の上にひろがっています。
堀内さんがこの地図を描いたときから、
ずいぶん時間が経っていますけれど、
いまだに夢中になって顔を近づけたくなるんです。
むさぼるように絵を、線を、文字を追いかけたくなる。

堀内さんは、旅するときには
旅程とともに行き先の地図を描きました。


地名と、列車や車など移動手段をあらわす線。
単純だけれど、すごくわかりやすい!


▲『パリからの旅』掲載の、ベルギー・オランダ・ドイツの路線図。

こんなふうに、絵を見ることを目的とした旅では、
列車でたどる線と所要時間、
そこで行きたい美術館と見たいものが、
★つきで書き込まれています。

堀内さんの地図で、おどろくことがもうひとつ。
ぼく(武井)は、堀内さんのマネをして地図を描くとき、
手元に「正確な地図帳」が必要です。
彫像をデッサンするのと同じで、
もとの地図を見ながらじゃないと、
「縮尺」というか、距離感がおかしなことになるのです。
けれども堀内さんには、どうやら絶対音感ならぬ
「絶対距離感」みたいなものがあったらしい。
記憶だけで、かなり正確な地図が
再現できちゃうみたいなんです。
そういえば堀内さんはカメラマンの隣で撮影を見ていると
その写真が(現像する前に)頭に入ってしまうので、
すぐにレイアウトにとりかかることができる、
というエピソードがありました。
地図や路線図も、きっと、そうだったんだろうなあ。


▲『堀内誠一の空とぶ絨緞』収載のメキシコの地図。初出はan・anです。

そして、冒頭でも紹介したような、
カラフルに彩色された地図ですが、
ほとんどが、一発描きです。あんまり下絵の跡も見えません。
そもそも、ふつう、印刷するために描く地図は、
(旅行ガイドブックをつくったことがある経験から言いますと)
「道版」「その道の色版」「標識・マーク版」「文字版」など、
要素を別々に書いて(描いて)、組み合わせます。
いちばん下に道版をつくって、
トレーシングペーパーを重ねて、
ずれないように書き込んでいきます。
印刷する工程でそれを重ねてもらうんですね。
(いまは、コンピュータでしょうけれど。)
もちろん堀内さんにもそうした地図はあります。
ありますが、それもまた「ぜんぶ自分で描いちゃう」。


▲道版(彩色)と文字版(黒)が別版になっている地図。

しかも修正液の跡がない‥‥。
(描き直したほうが速い、とおっしゃっていたとか‥‥?)
つくづくおそろしい人だと思います。

さて次回は地図の続きで「挿し絵」の話です。
おたのしみに!

協力 堀内路子 堀内花子 堀内紅子
取材 ほぼ日刊イトイ新聞+武田景
2016-12-21-WED
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN