雑誌『BRUTUS』の、1981年〜1982年のバックナンバー。
デザインが堀内誠一さんなのは、以前、紹介しましたけれど、
このイラストレーションもまた、堀内さんの手によるものです。
キャラクターのブルートは同じタッチですが、
東京ガイドの線画、スパゲッティの絵画的な世界、
それぞれタッチがちがいます。
堀内さんの絵のタッチがいろいろなのは、
絵本もそうでした。
こうして見ると、堀内さんの挿絵、
イラストレーションは、
じつに多彩な画風で描かれていることがわかります。
「同じひとが描いたの?」と思うくらいに。
フェルトペンで、いきおいよく。
筆でさらりと。
黒い紙に彩色して、うかびあがらせるように。
逆にこちらは、周りを塗って白を浮かび上がらせて。
正確無比だけれど、味わいのあるデッサン。
見たものをそのままメモするようなスケッチ‥‥。
色鉛筆やパステル、水彩の、
やわらかなグラデーションや、
丹念に描き込まれた繊細な線。
愉快にデフォルメされた旅の一場面、
みごとに写実的なギリシャ彫刻の横顔。
正確な円や直線でできた電車や自動車。
こんなにもちがうのですけれど、
その奥には共通して
同じあたたかさのようなもの、
そしてなんともいえない、
粋なスマートさが感じられます。
堀内さんがみずから
「速くて、上手くて、安い」と言った、
イラストレーションの仕事。
編集部にふらりとあらわれ、
空いている机にむかったかと思うと、
神業のようなスピードで、
さらりとカットやデザイン画を描いてしまう。
それを目の当たりにした編集者や
若いデザイナーに言わせれば、
「速くて、上手くて、洒脱」な仕事でした。
堀内さんは1978年の終わりごろ、こんなことを言っています。
「自分がイラストレーターとして向いているのかどうか
本当によく分りません」と。
そしてイラストの仕事について、
「無いものねだりの子どものように、
足りないところを補おうとして
何かを自分に課していたんじゃないか」
(『パリからの手紙』p119)
とも、書いています。
こんなにも多彩なスタイルがうまれ、
それを私たちが目にすることができたのは、
その「無いものねだり」のおかげかもしれません。
次回は、最終回。
「お家の堀内さん」のことを、お伝えします。
協力 堀内路子 堀内花子 堀内紅子