挿絵の 地図の 絵本の雑誌の ロゴの 写真の宣伝の 先輩の お家のパリの 東京の 旅人の   堀内さん。──デザインを旅したひと。──
挿絵の堀内さん。

雑誌『BRUTUS』の、1981年〜1982年のバックナンバー。
デザインが堀内誠一さんなのは、以前、紹介しましたけれど、
このイラストレーションもまた、堀内さんの手によるものです。
キャラクターのブルートは同じタッチですが、
東京ガイドの線画、スパゲッティの絵画的な世界、
それぞれタッチがちがいます。


▲こちらはスパゲッティの原画。あれ? ブルートがいます。
デザインの段階で外したらしいです。

堀内さんの絵のタッチがいろいろなのは、
絵本もそうでした。


こうして見ると、堀内さんの挿絵、
イラストレーションは、
じつに多彩な画風で描かれていることがわかります。
「同じひとが描いたの?」と思うくらいに。



フェルトペンで、いきおいよく。


筆でさらりと。


黒い紙に彩色して、うかびあがらせるように。


逆にこちらは、周りを塗って白を浮かび上がらせて。


正確無比だけれど、味わいのあるデッサン。


見たものをそのままメモするようなスケッチ‥‥。

色鉛筆やパステル、水彩の、
やわらかなグラデーションや、
丹念に描き込まれた繊細な線。
愉快にデフォルメされた旅の一場面、
みごとに写実的なギリシャ彫刻の横顔。
正確な円や直線でできた電車や自動車。

こんなにもちがうのですけれど、
その奥には共通して
同じあたたかさのようなもの、
そしてなんともいえない、
粋なスマートさが感じられます。


▲『ザ・インタビュー・ジャーナル』という、平凡出版が出していた雑誌のページ。

▲雑誌『鳩よ!』に表紙イラストを描いたことも。
左上の青年は、どうやら都築響一さんらしいです。

堀内さんがみずから
「速くて、上手くて、安い」と言った、
イラストレーションの仕事。
編集部にふらりとあらわれ、
空いている机にむかったかと思うと、
神業のようなスピードで、
さらりとカットやデザイン画を描いてしまう。
それを目の当たりにした編集者や
若いデザイナーに言わせれば、
「速くて、上手くて、洒脱」な仕事でした。


堀内さんは1978年の終わりごろ、こんなことを言っています。
「自分がイラストレーターとして向いているのかどうか
本当によく分りません」と。

そしてイラストの仕事について、
「無いものねだりの子どものように、
足りないところを補おうとして
何かを自分に課していたんじゃないか」
(『パリからの手紙』p119)
とも、書いています。

こんなにも多彩なスタイルがうまれ、
それを私たちが目にすることができたのは、
その「無いものねだり」のおかげかもしれません。

 


▲『BRUTUS』創刊予告の広告イラストレーション。

次回は、最終回。
「お家の堀内さん」のことを、お伝えします。

 

協力 堀内路子 堀内花子 堀内紅子
取材 ほぼ日刊イトイ新聞+武田景
2016-12-28-WED
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN