ほぼ日 |
きょうはよろしくおねがいします。
『フラガール』のDVDをあらためて拝見して、
この映画はプロデューサーの石原さんが
企画をなさったということで、
いろいろお聞かせいただきたいと
思ってまいりました。
映画の公開からは、
だいぶ時間が経ってしまったんですけれど。 |
石原 |
ありがとうございます。
じつはまだ、地方によっては、
上映してるんですよ。
日本アカデミー賞を頂いた影響で、
もう一回再上映したいと
言ってくださる映画館があったり、
まだ上映してないから、
うちもやらせて欲しいとか。
アカデミー賞の後、50館で上映されたんですが、
うち(シネカノン)主導とは違うところで、
地方の方から手があがって、
DVDが発売されてからも、
いまだにスクリーンでかけてくれるという、
珍しいことが起こっているんです。 |
ほぼ日 |
スクリーンで観たいという人が
いるからなんですね。
何度でも観たくなってしまう
映画かもしれません。 |
石原 |
もう20回見たという
サラリーマンの男性のかたが、
東京での上映の最後の日に、
下高井戸の映画館にタクシーを飛ばして
行ってくれた、ということを
ブログに書いてくださっていたんです。
それを読んで、すごく感動してしまって。
長年映画を作ってきましたけれど、
こういうファンがいる映画って、
はじめてですね。 |
ほぼ日 |
見た人が
必ず誰かにしゃべりたくなる映画ですね。 |
石原 |
わたしとしては、そういう反応が、
アカデミー賞よりうれしいくらいなんです。
がんばってよかったなと。
映画ってこういうお客さんがいてくださるから
苦労が消化できるんですよね。
‥‥もちろん、よく言わないかたもいますよ。
でも、ひとりでもこういうかたがいてくれたら、
ああー、作ってよかったなぁ、ってね。
どこのかたかわかりませんが、
こちらこそ、ありがとう、
20回も観てくださって。
──そう思います。 |
ほぼ日 |
まわりでも、男性で号泣したという話を
すごく聞きますよ。 |
石原 |
じつは女性が観る映画かなと思ってたんです。
もちろん頭の片隅で、鹿児島とか、山形とかの、
おばあちゃんまで観てもらえる映画にしよう、
国民的映画になればいいなという
思いはありましたけれど、
こんなに男性が観てくださるとは
思っていませんでした。
わたしの行ってる美容室が
若い男の子の店員さんばかりなんですが、
「石原さん、DVDで観ましたよ」って
その週からそこのサロンの液晶モニターに
ずーっと、
『フラガール』をかけてくれたりして。
そんなふうに
東京のヘアーアーティストの若者までが
見てくれるようになるなんて、
いまだに、びっくりしています。 |
ほぼ日 |
『フラガール』は
構想が4年くらいあったとお聞きしました。 |
石原 |
テレビ番組を見ていて、
炭鉱娘がフラガールになったという
「常磐ハワイアンセンター」の
創業の物語を知り、
これ映画になるかな、と思った日から、
公開になるまでが3年ですね。
その間に井筒和幸監督と
『パッチギ!』という映画をつくりました。
実は『フラガール』は、社内でなかなか
企画が通らなかった作品なんです。 |
ほぼ日 |
そうなんですか。企画を通すというのは、
具体的には、どういう作業なんですか。 |
石原 |
企画書を書いたり、脚本を作って、
シネカノンの社長から
ゴーサインをもらう、ということですね。
社長が見ておもしろい! となれば、
製作のお金が出るということです。 |
ほぼ日 |
結構、ねばったんですね。 |
石原 |
ねばったんですねぇ。
何回も何回も
シナリオをリライトして‥‥。
『フラガール』の脚本は、
8稿くらい書いているんです。
原作がなく、何もないところから生むので、
ものすごくリライトしないと
完成しないんです。 |
ほぼ日 |
8稿も! |
石原 |
でも8稿といっても少ない方ですよ、
10稿以上書くという映画もありますから。
10稿書いたからいい、
ということになるかどうかは、
わからないですけれどね。
どこかで、プロデューサーが
「これで行こう」という
判断をしなければならないんですが。 |
ほぼ日 |
『フラガール』の脚本は
どんなふうにつくっていったんですか。 |
石原 |
わたしの企画なので、ある程度、
こういうキャラクターで、こういう構成で、
起承転結はこうで、みたいなことは考えて、
作家に材料として渡しました。
その中で作家が書くんです。
けれど、なかなかウチの社長から、
「これは!」というOKをもらえなかった。
とても時間がかかったんですが、
それが結果としてはよかったんですよね。
どうしようかって何回もトライしてる間に
ああいう本になってきたんですから。
いま思えば、はじめの頃に
「どこがおもしろいか、
わからないないんだよな」
と社長に言われてきたことが、
逆にありがたかったなと思います。 |
ほぼ日 |
なるほど。 |
石原 |
原作がない
『フラガール』のような映画の場合、
脚本が設計図であり、
それで役者を口説くわけですから、
まずは設計図を
ちゃんと作らなければいけないわけです。
そこに、時間がかかるんですね。
ですから何度もリライトが必要だし、
長いものは1年、2年かかります。
映画の脚本家は、
打たれ強くないとできない仕事ですね。
「ぼくは作家だから」
というようなタイプは
あまり向かないのかもしれません。
職人のような作業に耐えられる人じゃないと。
そういう意味で羽原さんは、
つかこうへいさんのお弟子さんで、
運転手さんからやっているかたなので、
鍛えられているんですね。
それでも、よく何年も、
わたしに付き合ってくれたなあと、
感謝しています。 |
|
(つづく) |