石原プロヂューサー×ほぼ日
第1回 構想4年、ねばりました。
ほぼ日 きょうはよろしくおねがいします。
『フラガール』のDVDをあらためて拝見して、
この映画はプロデューサーの石原さんが
企画をなさったということで、
いろいろお聞かせいただきたいと
思ってまいりました。
映画の公開からは、
だいぶ時間が経ってしまったんですけれど。
石原 ありがとうございます。
じつはまだ、地方によっては、
上映してるんですよ。
日本アカデミー賞を頂いた影響で、
もう一回再上映したいと
言ってくださる映画館があったり、
まだ上映してないから、
うちもやらせて欲しいとか。
アカデミー賞の後、50館で上映されたんですが、
うち(シネカノン)主導とは違うところで、
地方の方から手があがって、
DVDが発売されてからも、
いまだにスクリーンでかけてくれるという、
珍しいことが起こっているんです。
ほぼ日 スクリーンで観たいという人が
いるからなんですね。
何度でも観たくなってしまう
映画かもしれません。
石原 もう20回見たという
サラリーマンの男性のかたが、
東京での上映の最後の日に、
下高井戸の映画館にタクシーを飛ばして
行ってくれた、ということを
ブログに書いてくださっていたんです。
それを読んで、すごく感動してしまって。
長年映画を作ってきましたけれど、
こういうファンがいる映画って、
はじめてですね。
ほぼ日 見た人が
必ず誰かにしゃべりたくなる映画ですね。
石原 わたしとしては、そういう反応が、
アカデミー賞よりうれしいくらいなんです。
がんばってよかったなと。
映画ってこういうお客さんがいてくださるから
苦労が消化できるんですよね。
‥‥もちろん、よく言わないかたもいますよ。
でも、ひとりでもこういうかたがいてくれたら、
ああー、作ってよかったなぁ、ってね。
どこのかたかわかりませんが、
こちらこそ、ありがとう、
20回も観てくださって。
──そう思います。
ほぼ日 まわりでも、男性で号泣したという話を
すごく聞きますよ。
石原 じつは女性が観る映画かなと思ってたんです。
もちろん頭の片隅で、鹿児島とか、山形とかの、
おばあちゃんまで観てもらえる映画にしよう、
国民的映画になればいいなという
思いはありましたけれど、
こんなに男性が観てくださるとは
思っていませんでした。
わたしの行ってる美容室が
若い男の子の店員さんばかりなんですが、
「石原さん、DVDで観ましたよ」って
その週からそこのサロンの液晶モニターに
ずーっと、
『フラガール』をかけてくれたりして。
そんなふうに
東京のヘアーアーティストの若者までが
見てくれるようになるなんて、
いまだに、びっくりしています。
ほぼ日 『フラガール』は
構想が4年くらいあったとお聞きしました。
石原 テレビ番組を見ていて、
炭鉱娘がフラガールになったという
「常磐ハワイアンセンター」の
創業の物語を知り、
これ映画になるかな、と思った日から、
公開になるまでが3年ですね。
その間に井筒和幸監督と
『パッチギ!』という映画をつくりました。
実は『フラガール』は、社内でなかなか
企画が通らなかった作品なんです。
ほぼ日 そうなんですか。企画を通すというのは、
具体的には、どういう作業なんですか。
石原 企画書を書いたり、脚本を作って、
シネカノンの社長から
ゴーサインをもらう、ということですね。
社長が見ておもしろい! となれば、
製作のお金が出るということです。
ほぼ日 結構、ねばったんですね。
石原 ねばったんですねぇ。
何回も何回も
シナリオをリライトして‥‥。
『フラガール』の脚本は、
8稿くらい書いているんです。
原作がなく、何もないところから生むので、
ものすごくリライトしないと
完成しないんです。
ほぼ日 8稿も!
石原 でも8稿といっても少ない方ですよ、
10稿以上書くという映画もありますから。
10稿書いたからいい、
ということになるかどうかは、
わからないですけれどね。
どこかで、プロデューサーが
「これで行こう」という
判断をしなければならないんですが。
ほぼ日 『フラガール』の脚本は
どんなふうにつくっていったんですか。
石原 わたしの企画なので、ある程度、
こういうキャラクターで、こういう構成で、
起承転結はこうで、みたいなことは考えて、
作家に材料として渡しました。
その中で作家が書くんです。
けれど、なかなかウチの社長から、
「これは!」というOKをもらえなかった。
とても時間がかかったんですが、
それが結果としてはよかったんですよね。
どうしようかって何回もトライしてる間に
ああいう本になってきたんですから。
いま思えば、はじめの頃に
「どこがおもしろいか、
わからないないんだよな」
と社長に言われてきたことが、
逆にありがたかったなと思います。
ほぼ日 なるほど。
石原 原作がない
『フラガール』のような映画の場合、
脚本が設計図であり、
それで役者を口説くわけですから、
まずは設計図を
ちゃんと作らなければいけないわけです。
そこに、時間がかかるんですね。
ですから何度もリライトが必要だし、
長いものは1年、2年かかります。
映画の脚本家は、
打たれ強くないとできない仕事ですね。
「ぼくは作家だから」
というようなタイプは
あまり向かないのかもしれません。
職人のような作業に耐えられる人じゃないと。
そういう意味で羽原さんは、
つかこうへいさんのお弟子さんで、
運転手さんからやっているかたなので、
鍛えられているんですね。
それでも、よく何年も、
わたしに付き合ってくれたなあと、
感謝しています。
 
(つづく)
2007-05-21-MON