石原プロヂューサー×ほぼ日
石原プロデューサーのおはなし 第2回【役者の凄さ、スタッフの素晴らしさ。】
石原 『フラガール』は実話がベースになっていて、
その時代に生きた人の魂があるでしょう?
そして演じる人たち、スタッフの魂が、
わーって込められている。
そういう映画という芸術には、
ものすごいものが宿ることがあるんだな、
ということを、今回、感じました。
『フラガール』は、
みんなが愛情を持ってつくった映画だったんです。
ほぼ日 はい、それをとっても感じます。
石原 だれも愛情かけてない映画って、
つまらないですものね。
みなさん、この実話を映画にするという企画に
ものすごく賛同してくださったんですよ。
スタッフも、キャストの方々も。
富司純子さんのような大先輩が
インディペンデントの映画に出てくださるなんて、
考えられないことですしね。
 
ほぼ日 そうなんですか。
石原 係わる人全員が、何かこの企画自体に
予感があったんでしょうね。
ダンサーで、台詞のない役者さんにいたるまで、
みんなが絶対いい映画にするぞっていう
思いが、強くあったんです。
ほぼ日 踊りのシーン、端から端まですごかったです。
石原 ダンサーの役は
普通にフラダンスのできる人に
やってもらってもよかったんです。
でも、あえてダンス経験もあまりない
女の子たちにやっていただきました。
全員、一からやっていただこう、と。
松雪さんにも蒼井さんにも
やっていただくわけですから。
3ヶ月練習して、
2ヶ月撮影して。
あの当時の炭鉱娘が舞台に立った
ドキュメンタリー、そのままなんです。
ほぼ日 すばらしいですよね。
石原 プロデューサーの先輩たちに言われました。
『フラガール』は、
ダンス経験のない女の子たちに
やってもらったのがよかったね、と。
台詞もないのに、
何ヶ月も、がんばるわけですから。
あの女の子たちの中には
オーディションに初めて受かりました
という子も多かったんです。
等身大の女の子ががんばってるっていう
リアリティーがありましたよね。
ほぼ日 DVDのドキュメンタリーを見ると、
もう「仲間」ですもんね、完全に。
練習がちょっと遅れてしまった
しずちゃんのために
みんなまた集まってきたり。
石原 ええ。
与えられた役割で精一杯がんばろう
という子たちばかりなんですよ。
こういう俳優さんたちに恵まれないと、
いい映画撮れないですからね。
たとえば松雪泰子さんにしてもそうです。
蒼井さんは3歳からバレエをやっているけれど、
松雪さんは、一切、踊りの経験がないんですよ。
画面に映るのは
タヒチアンダンスの
ソロの踊りだけですけれど、
フラガールたちが踊るダンスナンバーを
すべて練習したんですよ。
先生役なんだからできて当然だから、
ということで。
午前中クラシックバレエをやって
午後から、タヒチアンとフラをやってと。
松雪さんは、何もかも全部踊れるんです。
そういう努力をしている。
 
ほぼ日 ‥‥。
石原 松雪さんの役のように、
ちょっと、とうが立って、
中央から追い出された、
やさくれた感じの等身大の普通の女性を
演じるって、意外と難しいことですよね。
丁寧に観ていただくとわかるんですけれど、
松雪さん劇中で、表情が、
ものすごく変わっていくんですよ。
ほぼ日 あっ、そうですよね。
最初の登場シーンから、
どんどんどんどん変わっていきますよね。
石原 あれは、いかに彼女が
役に憑依されていったかだと思うんですよね。
それを撮影監督の
山本英夫さんはわかっていて、
「松雪泰子さんの表情を
 今回は丁寧に撮る」って、
最初からカメラを回していたんです。
それは松雪さんには言わずにね。
スタッフがほんとにすばらしいんですよ。
ほぼ日 美術の種田さんも、
すごいですよね。
石原 ほんとうはあの美術を、
種田さんにお願いするのは
申し訳ないなと思っていたんです。
『THE有頂天ホテル』のような
作り込まれたセット撮影とかはないのですが、
いいでしょうか、みたいな(笑)。
それに予算もあまりなかったので……。
あの炭鉱住宅、実は
ものすごく玄人うけしたそうです。
あのリアル感と言うか‥‥。
今、炭鉱住宅って残っていないんですよね、
どこにも。
わずかに残っている、
よその炭住の部品を
トラックで運んできて、
種田さんが工夫してくださったんです。
それを山本さんが上手に撮って、
CGも作ってくださって。
撮影監督と、美術監督の
コラボレーションがうまくいってるんですね。
最高のスタッフが集まりました。
ほぼ日 そうでしたか‥‥。
石原 山本さんで思い出しました。
彼はね、三谷幸喜さんが
放さないくらいのかたなんです。
『THE有頂天ホテル』の撮影監督も
山本さんなんですが、
日本アカデミー賞のときに、
『フラガール』の席に山本さんが座っていたら、
三谷さんが何回もこちらの席に来て言うんです。
「山本さんがなんで
 『フラガール』の席に座ってるんですか!」
 
ほぼ日 ははははは!
石原 「三谷さんごめんなさい。
 三谷さんは、
 きっと何回もこの席に来られるけれど、
 わたしたち、今回が最後かもしれないから、
 許してください」って言って。
そういう会話があるくらい、
みんなが山本さんに信頼を寄せているんです。
『フラガール』は
そういうかたたちに支えられた映画なんです。

誰ひとり、あきらめてる人が
いなかったんですよ。
  (つづきます!)
2007-05-23-WED