李監督×糸井重里対談
第2回 肉体で観客を納得させる、ということ。
糸井 監督、今おいくつですか?
33です。
糸井 そのくらいの人たちは
どうして昔に比べたら大人なんだろう。
いや、そんな言うほど
大人じゃないですよ。
僕、あまり評判よくないですよ(笑)。
 
糸井 トータルにものが考えられる、
っていうところは少なくとも感じますよ。
ただ、全部が全部やりたいように
バーッと散らかしまくって、
それできちっとした結果がついてくる、
ってあまり信用してないんですよ。
ここは結果をある程度残さないと
いけないラウンドってあるじゃないですか。
糸井 勝たなきゃなんない試合ですね。
ええ。場合によっちゃ、
ここはもう結果いいやっていうときは
散らかしまくるかもしれないですけど、
『フラガール』は
ちゃんと勝たなきゃいけないっていう
ステージだったんで、
またちょっと違う戦いになったんです。
糸井 この題材で勝つ試合をやるんだって
いうことですよね。
この題材は勝てる動機のある
材料だったっていうふうに思えたんですね。
思えました。
糸井 あえてわざと聞きますけど、
なんでこれが勝てる材料なんですか。
なんでですかね。
糸井 なんでですか(笑)。
1つは「ギャップ」ですかね。
多分映画が出来上がって、
タイトルがあってチラシとかあって
何か情報が出ていったときに、
その情報でイメージするものと
実際見た映画のギャップが
けっこうこれ大きいんじゃないかなと
思ったんですよね。
糸井 大きい、大きい。
というのは、常磐ハワイアンセンターの
バックストーリーって僕も知らなかったし、
フラダンスがああいうものだっていうのも、
ああいう武器になるってことも
知らなかったんです。
常磐ハワイアンセンターって、
あまりどっちかっていうと
すごく素晴らしいイメージって
ないんですよね。なんかちょっと
チープさが漂うニセモノのハワイみたいな、
どこか多分小バカにしてる人って
けっこういると思うんです。
そういうマイナス要素から映画を見て、
思いっきり逆に反転できるんで、
そのギャップは多分、
うまくいけば口コミって形で
広がるかなと思ったんですよね。
か、下手したら
黙殺されて終わりって(笑)。
糸井 いや、それはありえますよね。
で、黙殺されなかった理由は、
僕はもう役者さんたちが
踊りをちゃんと鍛えたことが、
要するに肉体で見せちゃう部分が
有無を言わせなかったことだと思うんです。
本当に、僕は京都のちっちゃいところで
見たんですけど、
おばさんばっかりがいたんですけど、
全員がせーので泣き出しましたね。
それは俺と同じ気持ちで泣いてるから、
わかるんですよね。
肉体で保証できるっていうのは
原作というか脚本のときには、
どう考えていたんですか。
うまくいけばそれができるなっていうのは?
そうですね。やっぱりフラダンスを見て、
「あ、これはこの映画にとって
 一番武器になるな」ってすぐ思ったんで、
そこさえクリアできれば、
ウソが本物になるって信じてもらうっていう
力強さは出ると思ったんですね。
結局、やっぱり役者の表現のなかで
肉体表現ってすごく大きいじゃないですか。
糸井 うん、大きいですね。
役者も体動かすのが好きなんですよね。
それで今回はけっこう思いっきり
踊りを見せるということが
一番観客にドスンと響くだろうなと思って。
糸井 方言と踊りと、2つ肉体がありますよね。
方言というのも実際には
完全に肉体ですよね。
その響きもとっても‥‥何ていうの、
観た人から
「私、方言しゃべりたくなっちゃった」
ってセリフ聞きましたよ、僕。
もう思う壺っていうか(笑)、
そうだろうみたいな。
あれも踊りの練習と同じように、
役者さんたちが一生懸命に
身につけたものですよね。
松雪泰子さんが1人で練習してるのを見て
蒼井優さんがノックアウトされるシーンで
僕は当然、「あ、これは本物なんだ」って
掴まれてたんだけど、
あの実際の踊りの力がなかったら
成り立ちませんよね。
あれは撮っているときには
どんな感じだったんですか。
‥‥いや、淡々と(笑)。
糸井 淡々となんですか。
できるに決まってることをしてるんですか。
ぼくも踊りの練習の過程を一応見てるんで、
撮影現場でいきなり完成形を
見たわけじゃないんです。
「ああ、だんだん形になってきた」とか、
「あ、ここはいい。
 ここの動きはやっぱりいい。
 松雪さんはここがいいなあ」とか、
みんなの流れも大体はつかめてたので、
あとはだからなるべくそれを、
素材をきちっとたくさん撮ってから、
編集判断だなっていう感じです。
糸井 おそらく映画で表現されてる
踊りっていうのが
一番よく見えるようになってて。
現物というのをリアルに見たら、
もうちょっとアラがあるんでしょうが、
そのマッチングに、
「愛情」っていうと変ですけど、
物を作るときのお互いの思いやりを、
すごく感じましたね。
山崎 現物も素晴らしい踊りでしたよ。
松雪さん、足を180度に開いて座る
シーンがあるんですけど、
以前はできなくて、
この映画のために体を柔らかくして
できるようになったんです。
踊りも相当上手ですよね。
本人たちわかってますからね。
踊りがダメだったら、
ダメなんだってことを(笑)。
糸井 いや、そのとおりですね。
ここがバレちゃったらおしまい、
っていうのはありますよね。
ええ、わかってるんで、
ぼくはあまり言うことがないんです。
だから「やってください」って。
糸井 ほかの子たちもみんなそういうものを
負わされてたけど、
あのシーンの松雪さんは、
もう逃げることもできなければ‥‥
そうなんです。
映画の中でダンスが出る
最初のシーンなので、
そこでこれから踊り手になろうとする
彼女たちを説得するということは、
イコール観客が納得すると
いうことですので。
糸井 そうそうそうそう。
惑星直列みたいなシーンじゃない?(笑)
あれは見事だったですねえ。
ただこっちとしてはもう、
それができるっていう上で、
じゃ、それをどう撮るかっていうふうに
工夫していくということなので、
「できる」って踏んじゃうしか
ないんですよね。
もうそれを前提にして。
糸井 まずはだから、
できるに決まってるってことを
信じ切らなきゃダメですね。
「俺がなんとかしてあげるから」
なんてことは絶対ありえないわけですよね。
できないですからね(笑)。
もうレッスン見に行くことぐらいしか
できないんで。
見てちょっと注文つけるぐらいしか。
糸井 あの撮影現場での
監督の一番やるべきことというのは、
カメラの演出ですか。
セリフがあるわけじゃないから。
そうですね、ただ、カメラも、
あまり細切れに撮ってないんです。
糸井 そうなんです、そうなんです。
大体通しで踊ってもらって、
それを2台、3台のカメラで撮りました。
やっぱり体力的にも、通しで踊るのは
3、4回が限度なんです。
3回として2台で6カットですよね。
で、部分だけほしいところは
そこだけ、クローズアップで
ちょこちょこっとやってもらうとか、
そういう分配をしました。
あとはもうダンスの先生と一緒に、
踊りがきちっと踊れているかっていう判断を
するってことですね。
前半のこの部分はダメだったけど
後半は使えますね、とか。
そういう判断ですよね。
糸井 そうか‥‥、練習の最中にちょっとずつ、
ますますよくなるぞみたいなことを
見ていられたんですね。
そうですね。
練習は比較的時間のあるときは行きました。
まあ、何も言わないですけどね。
糸井 まあ、本人がわかってることが
多いでしょうからね。
ええ。僕が行くって時点で
プレッシャーになってると思うので(笑)。
糸井 先生が「できましたね」って
いうようなことはもうわかってるんですか。
そうですね。先生と話して
「十分素晴らしいです」とかとは
言ってくれるんですけど、
それとは別に、やっぱり素人の自分が見て
どう思うかをけっこう大切にしたいなと
思ったんですよね。やっぱり観客は、
踊りに関しては素人なんで。
糸井 みんな、松雪さんはああいうことを
前々からやってたんだっけって
思ったようですよ。
そうですね。
ぼくも松雪さんをあの役に選んだ理由の
ひとつが、すごくダンサーっぽい
スタイルだということでした。
見た目でダンサーだという説得力が
スッとある人なんで、
踊りをやっていたのかなと思ったら、
まったくやっていなかったんです。
糸井 みたいですね。みんながあれは、
「あ、そういえば松雪さんって
 バレエをやってたからさ」なんて
知ったかぶりして言ってたけど(笑)、
俺もその知ったかぶりの中に入って
「ああ、そうだったよね」
なんつってたけど、
ほんとうのところは、ないんですよね。
ないですね。
「やってないんです」
って言われましたからね。
「あ、そうですか。まあ、じゃ、
 やってください」って(笑)。
糸井 その話はいつですか。始まる前ですか。
ええ、もちろん最初に
こういう台本でっていうことで
お会いしたときに、
「踊りはやってらっしゃるんですか」って、
やっているんだろうな的に聞いたら、
「いや」っていうんで、
アーっと思ったんですけど(笑)、
「まあ、やってもらうしかないな、これは」
と。
糸井 博打になっちゃうじゃないですか(笑)。
体見ればわかるんですか。
いや、わかるわからないじゃないんです。
「この人はダメだろうか? どうだろう?」
ってあまり考えなかったんですよ。
「この人がやる」っていう、
何か自分の中で取り決めがあって(笑)。
本人もやるっていうんで、
じゃ、お願いしましょうって。
糸井 すごい。
いや、そういうことはありますよね。
本当はできなそうな人だったら
顔に表れたかもしれないですしね。
そうですね。多分本当できなさそうな人は、
こっちも「あ、できないだろうな」って
思うと思うんです。
糸井 その駆け引きみたいなのは、
人間同士だからですね。
メールのやり取りじゃダメだもんね。
そうですね。
そこは理屈がない。
会って話して、なんとなく
その空気で行けるかどうかっていう。
糸井 そのへんは、映画を作るっていう
総合芸術のものすごい面白い部分ですね。
不確定要素がすごく多いんです。
もうそんなのばっかり集まって
できてますからね、面白いですよね。
2007-05-22-TUE