糸井 |
わざと不確定要素を増やすようなことを
またやったりも?
南海キャンディーズのしずちゃんなんかは、
不確定要素ですよね。 |
李 |
ええ、ダンスの小刻みな動きは
厳しいだろうな、
と思ってたんですけどね。 |
糸井 |
けれども、うまいとか下手とかの加減が
どこで軸取っていいかわからないみたいな
揺れが、ものすごく面白かったんです。
つまり、ああいう、ほかで、もう、
すごく印象の強い子が
芝居の中に出てくると‥‥ねえ?
それが見事に『フラガール』では
マッチしてたんで。
だから監督は全部を計算して
やってらっしゃるんだと思ったんです。 |
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李 |
もうそれはできるもんだと思って、
これをどう見せるかって
切り替わっちゃうんですね。 |
糸井 |
あて書きじゃないですよね、台本。
(註=あて書きとは、先にその役を演じる
役者が決まっていて、
その人のキャラクターにあわせて、
脚本を書いていくこと) |
李 |
あて書きじゃないです、全然。 |
糸井 |
台本のときにはその姿はないけども、
そんなやつがいればいいなというイメージ? |
李 |
そうですね。実際、今営業している
ハワイアンのダンスチームを
シナハンとかで見に行ったときに、
やっぱり1人大きい子がいて。
(註=シナハンとは、
シナリオ・ハンティングの略。
脚本を書くためにロケ地を取材したり
いろいろな人に会うこと。
そのあとにロケーション・ハンティング
[ロケハン]が行われる)
レッスン見てたら
先生に注意されたり
怒られたりしてたんです。
「なんか愛嬌があってでっかくて面白いな、
この子」とか思って。
それをもうちょっとデフォルメして
キャラにしようかなと思ったんです。 |
糸井 |
そうやって考えていくと、
ひとりひとりの子たちがみんな‥‥
みんな、なんかいいんですよねえ。
それはやっぱり
一緒に暮らしてたっていうか、
ロケ地のせいもありますね。
「通い」じゃ出ないよさですね。 |
李 |
「通い」は‥‥僕は、
あまり好きじゃないんですよ。
なるべく、したくないなあって。
結局、やっぱり四六時中、
同じ釜の飯じゃないですけど、
そういう中で生まれるものって
あると思うんですよね。 |
糸井 |
予算も安く上がるでしょ、逆に。 |
李 |
ふつうは、通いのほうが安いですよ。
今回は、スパリゾートハワイアンズ、
つまり舞台になる常磐ハワイアンセンターの
現在の姿ですね、が、
全面的に協力してくださったんです。
1月、2月の、
一番すいてる期間を選んで撮影して。 |
糸井 |
え、そんな寒い季節だったんですか? |
山崎 |
はい。零下の日もありました。 |
糸井 |
あ、そうですか。
そんな印象なかったわ(笑)。
たしかにストーブの話とかあったのに、
冬の印象、全然、忘れてた(笑)。 |
李 |
雪が映っちゃってたり、するんですよ。 |
糸井 |
でも、降っていないと思うと
見えないんですよね。
人って、だから、
見たいように見てるってことだね、
映画って。それを当て込まなきゃ
できないんですよね。 |
李 |
あの土地は、東北にあるのに、
唯一雪が少なくて、
日照時間は長いところなんです。 |
糸井 |
だからハワイなんだ。
でも、ハワイじゃないもんねえ(笑)。 |
李 |
(笑)ぼた山を
ダイヤモンドヘッドに見立てて──。 |
糸井 |
漫画みたいな話ですよね。 |
李 |
最初聞いたとき、漫画かと思いました。
そのちょっと加減が
すごくいいなと思ったんですよ。 |
糸井 |
本当ですよね。シャレですよね。
でも真剣ですよね。 |
|
|
李 |
ええ。それを真剣にやって、
みんな生活かかっててマジっていうのが、
今、そういうのないなと思ったんです。 |
糸井 |
どっちにハンドル切るんだって瞬間が
あの映画の中いっぱいあるじゃないですか。
踊り子募集で集まった娘たちが、
「恥んずかしぃ」っていうなか、
「それどころじゃない。私やりまス!」
とか。ずーっと同じような生活してると、
急ハンドル切るシーンってないですよね。
で、あの中であの普通の子たちが
キーッとハンドルを切ってるのを見ると、
勇気が湧くんですよね。 |
李 |
選択を迫られるって、あまりないですね。
本当はあるのかもしれないですけど、
選択するのをよけても
何とかスーッと流れていけちゃうんで。 |
糸井 |
監督自身が『フラガール』これをやろうと
思ったモチベーションというのは、
何か個人的な思いとかあるんですか。 |
李 |
いわきに関しては
そんなに個人的な思いはないですけど、
やっぱり、今話したようなことですよね。
人がもう「バカだ、バカだ」って言うことを
やろうとする人たちが
やっぱり不可能を可能にできるんだなと。
僕も映画監督になるって言って
親戚中に大笑いされましたからね。 |
糸井 |
新潟でしたっけ。 |
李 |
生まれは新潟なんですけど、
子どもの頃に横浜に移ってるんです。 |
糸井 |
横浜でも大笑いですか。 |
李 |
やっぱり大笑いですよ。
19、はたちとかそこらへんのが
映画監督になるつったら
「アホか、おまえは」って(笑)。
「映画、何、何、何をやるの?」
「いや、監督とかなんか作るほう」
「プッ」みたいな感じですよね。
まあ、僕も、映画監督とか脚本家って
何をやるのかもよくわかんないし、
どうすればなれるのか、
どういう才能が必要なのか
まったくわからないですけど、
とにかくそいうのがいいなって、
あるじゃないですか。 |
糸井 |
わかる。それはすごくよくわかる。
で、なっちゃったよね。
なっちゃうまでのあいだには、
覚えてったプロセスがあるんですよね。 |
李 |
ありますよね、それはね。 |
糸井 |
何だったですか、それは。
道はどこかで分かれてたんでしょう、
きっと。 |
李 |
本当にすごくちっちゃい話ですけど、
大学の卒業を控えると
就職活動をするじゃないですか。
高校卒業する前は進学するか働くかって
あるし、大学行ったら、
働く以外普通はないじゃないですか。 |
糸井 |
就職をするだけですよね、
みんなが思ってるのは。
なんとなくおさまりのつく言い方って、
例えば大学院とかね。 |
李 |
ですよね。
ぼくはそれはちょっと今決めたくないなって
思ったんです。
今決められるようなステキな職業が
何もない状態だったんで。 |
糸井 |
いい話だ(笑)。 |
李 |
まあ、ばっくれたんです(笑)。
もう逃げですよ。
逃げで映画に行ったようなものです。 |
糸井 |
映画にって言ったときには、
自信とか何とかってことはもう全然なくて? |
李 |
ないですね。まったくないですけど、
大学のときにシネカノンの社長の
李鳳宇(り・ぼんう)さんに
紹介してもらって
撮影現場にバイトに行ったんです。
そのときに、
「ああ、こっちの世界でいいや」と思って。 |
糸井 |
そのバイトが本当に人生を変えたんだね、 |
李 |
そうですね。
初めて撮影現場という、
何をやってるかわからないところに行って、
「ああ、こういうことやってんだ」
っていうのを見て、
「こっちでいいや」と思えたんで、
そこが分岐ですよね。 |
糸井 |
そのときに真剣な心みたいのが
あったんですか。
「こっちでいいや」のときは。 |
李 |
あんまないですね(笑)。 |
糸井 |
ないんですか。
いつマジになったんですかね(笑)。 |
李 |
マジになる‥‥どうですかね、
いや、でも、毎回映画作るときには
マジなんですけど‥‥ |
糸井 |
何がそうさせるんだろう。 |
李 |
それまで本当にマジに
「こっちで」と思ったかというと、
なんか、いや‥‥そんなに、ですね。 |
糸井 |
何なんでしょうね、その‥‥。僕はね、
僕は知らないんですけど、
李監督は絶対にマジな人だなと
思ってんですよ(笑)。
だって、そうじゃなかったら、
人は言うこと聞かないもん、
あんな面倒臭いこと。
「俺はふざけてるんだけど、
おまえ真剣にやれよ」
って話はできないでしょう。 |
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李 |
もちろん、もちろんそうです。
だから、映画作るときは全マジですよ。 |
糸井 |
そこは何が違うんだろうなと思って(笑)。
映画の神様がいるんですかね。 |
李 |
いや‥‥いや、多分もうここしか、
逃げ場ないじゃないですか。
もう、だってこれでしか
多分生きていけないと思うんですよね。
映画作っていくことでしか‥‥
生きる道がないって言うと大げさですけど。 |
糸井 |
面白みもわかっちゃってますよね、もう。
すごい面白いんでしょう、きっと。 |
李 |
‥‥まあ、けっこうつらいこと
ばっかりなんですけどねえ(笑)。 |
糸井 |
そう言いますよ、みんな(笑)。 |
李 |
でしょうね。だから、
「映画作って楽しくて」って言う人を
僕はあまり信じられないんです。 |
糸井 |
いないですね。
僕は聞いたことがないですね。 |
李 |
楽しくなんかないんですよ。 |
糸井 |
「あとで振り返ると面白かったね」
って言い方はみんなしますよね。
言いながら笑ってますよね(笑)。 |
李 |
そう、ですね、はい。 |
糸井 |
人が見て面白いものって、
みんなそういう形をしているんです。 |
李 |
そうですね。だから、みんなが
和気あいあい仲良くやって、
体力的にもゆるくて、
そんなんでいい映画作られてたまるかって
思うんです(笑)。 |
糸井 |
(笑) |
李 |
みんなもういやな感じになったりとか
病人出たりとか、それぐらいが
ふつうだったりするんじゃないかなと。 |
|
(続きます!) |