イチローさん語録
・総集編。

バットもグラブも持っていない状態で、
言葉だけで、イチロー選手が、人の心を打ち抜いた!
いつも「足らなさ」に目が行ってしまう、厳しい視線。
あの視線が、イチローさんを、育ててきたんだろうなぁ。

今春の「ほぼ日」で大好評だった連載は、今の時期にこそ
読み直してほしい言葉ばかりなので、総集編を作りました。
既に発売中のイチローさんへのインタビュー本、
『キャッチボール ICHIRO meets you』(ぴあ)には、
このときの会話のすべてが掲載されていますから、
もっと読みたい人は、そちらをおたのしみくださいね。

第1回 ほんとうの進化を遂げるには?

第2回 どれだけ頑張っても、先はない。

第3回 これだけ苦しいのは、自分だけか?

糸井 目の感覚がものすごい、と言われていますよね。
イチロー 視力はよくないんですけど、
動体視力になると、いいんですよ。
前にテストしたら、
じーっとしているよりも、
動いたときのほうが、
ものをとらえられるという結果が
出たんです。

だから、動いてないといけないんですね。
バッティングでも、
ぼくは最初に動くでしょう?
あれは、そういうことなんです。

ぼくは、「静から動」の動きでは、
力が発揮しづらいんですね。
「動から動」がちょうどいい。

やっぱり、タイプがあると思うんです。
止まってから動いたほうが
いい人もいますし。
だから、こういうことは、
自分で能力を見つけないと
いけないんですよ。
ぼくがそれを見つけたのは、
プロになってからですけど。
ただ、小さい頃から、走っているクルマの
ナンバープレートを見て
それをたし算したりするのが、
ものすごく好きだったから、
そういうのは今思うと、
つながっているのかもしれないです。
糸井 イチローさんへ寄せられた質問は、
ほんとにいろいろあるんですけど、
中でも、なんとか
イチローさんと自分の共通点を見つけたい、
と思っているような問いが、
いっぱいあるんですね。

さっきの
「サボりたい日はありますか?」
みたいなものなんですけど。

ただ、そういうのって、
きっと、イチローさんだって、
同じに決まっていると思うんです。
サボりたい日がない人なんて
いないでしょう。

だったら、すべてのそういう質問を、
「イチローさんは、
 どこから人と違っちゃったのか?」
という質問でまとめちゃったら、
済むと思ったんですが……。
イチロー なるほど。

さっきのサボりたい日というので言うと、
もちろんぼくも、
グラウンドに行きたくない日は
たくさんあるんですよ。
そのときには、ちょっと、
職業意識が出てきます。

「仕事だから、しょうがないから」
そう思うんですね。

自分に言い聞かせるんですよ。

それに、
こんなに苦しいのは自分だけか、
と思うことも、たくさんあるんですよ。
「こんなにしんどいのは、オレだけか?
 他のヤツらを見ていても、
 しんどそうにはとても見えない」

だけど、彼らも同じように
疲れているんですよね。
それを見せるか見せないかの話で。
だからみなさん、ぼくのことは、
疲れていないと思ってるでしょう?
糸井 そうでしょうね。
みんな、お相撲さんは寒くないと
思ってますから。
イチロー (笑)なるほどね。
ぼくはこういう細い体だから、
割に「疲れているかも」と
思ってくれる人が多いかもしれませんが、
野球のプレーなんかでは、
簡単にやっているように
見られがちなんですよね。

でも、実はそんなことは、ぜんぜんない。
あのヒットを一本打つのに、
どれだけの時間を費やしているか。

あのヒットの一本が、
どれだけうれしいか……。
もちろん、そのそぶりは、見せないですよ。

でも、ヒット一本って、
飛びあがるぐらいにうれしいんですよ、
実は。
二〇〇三年の二〇〇本安打の
ときなんて、涙が出ましたから。

糸井 あぁ……
打てるときもある、
打てないときもある、
という程度の感情ではないんだ。
イチロー とんでもないです。
その一本を打つために、
いろんな投資をするわけですから。
自分の中で。

ヒットを打つことは、
打てば打つほど、むずかしくなるんです。


アメリカに行って、
最初の年に二四二本のヒットを打った。
MVPも取ってしまった。
そしたら、次にマークされる厳しさ
というのは、尋常じゃないんですよね。

これがたとえば、
二割八分で、ヒット一〇六本だったら、
マークもされないですよ。
そのままにしておけばいい、
って話ですから。

だけど、二四二本もヒット打ったときには、
みんな、やっぱりムキになってくる。
糸井 ナメられてたまるか、
って気持ちは、当然あるでしょうね。
イチロー 最初の年には、こんなちっちゃな、
日本から来たヤツに、打たれてたまるか、
というのはあったんですよ。

実際、彼らに最初会ったときは、
ちょっと小馬鹿にされているような感じがあった。

日米野球なんかでは、
やたらと褒めるじゃないですか。
でも、褒めた内容の通りのこと、
アイツら、ぜんぜん、
思ってないですからね……。

「アイツをオレのチームの一番でほしい」

ぜんっぜん、思ってなかった(笑)。
とんでもないヤツらですからね。

あれはそういう教育を受けているんですよ。
人はとりあえず褒めておけ、みたいな。
メディアへのマニュアルを
持っているんです。
だから、あんなのは、信用しちゃダメで。

だけど、
聞いている側にとって、ちょっと
聞き苦しいことをヤツらが言い出したら、
それは本音ですよ。

糸井 (笑)なるほど。
イチロー そしてさらにそれを超えれば、
ほんとの評価になる。
そこで称賛されれば、ホンモノですよ。
  (イチローさんの言葉の総集編は、
 ここで、いったん、おわりになります。
 読んでくださり、ありがとうございました!)


ヒット一本が、どれだけうれしいか。
(2004.3.22〜4.22)

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2004-11-11-THU

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