一代
同じ海の中でも、牡蠣、帆立、わかめ、
それぞれの養殖に適した場所があります。
川の植物性プランクトンが豊富な場所は牡蠣、
そこから少し沖に出た場所は帆立、
奥のもっとしずかな場所は、わかめがいい。
ほぼ日
一代さんのおうちは、
わかめも養殖してるんですか?
一代
わかめもやってます。
生のわかめをお湯にザーって通すと、
マジックみたいにきれいに
まっさおになるんだよ。
それをポン酢につけて、ズルズルズルって食べる。
おいしいよ。
ほぼ日
食べてみたい‥‥。
一代
さて、帆立も
無口で有名なとうちゃんが
海から引きあげます。
穴を開けてテグスを通して
海にしずめたときはあんなにちいさかった
あの帆立たちが、よくぞここまで育ちました!
じゃ、おっきいとこ1枚、いっとこうか。
ほぼ日
うわあ‥‥めっちゃくちゃ、
おっきいですね。
一代
さあ、むきますよ。
ぐい、ぐいぐい。
♪ジャージャジャジャジャーン♪
ほぼ日
おいしそうです! つばが。
一代
これねぇ、卵もおいしいんだよ。
卵のとこが赤いのがメス、白いのがオスなの。
この新鮮さだと、生で、
海苔で巻いて寿司で食べられるよ。
卵は、ウニみたいな味がします。
耳のところも、コリコリと美味しいです。
いまはもったいないけど、捨てちゃうね。
(海にビュッと耳や卵を投げる)
ほぼ日
うわあ!
うみねこが一瞬で!
一代
はい、どうぞ、食べて。
コリコリしておいしいんだよ。
ほぼ日
あまーい!
一代
そう、あまいのよ。
このあまさはね、この海ならではのもの。
海の力って、すごいよね。
唐桑の海は、川が流れ込んでいるから、
海水と真水の割合がちょうどよくて、
牡蠣や帆立がおいしく育つんだよ。
ほぼ日
あまくて‥‥そして、
固さがあるやわらかさ、というか‥‥。
一代
帆立独特の、歯ごたえね?
これが、獲れたてのおいしさだよ。
ほぼ日
おいしい。いままで食べた帆立のなかで
いちばんおいしいです。
一代
獲れたてなんて、食べることないもんね。
これが帆立というものなの(ドヤ顔)。
帆立は焼いても、また別の味わいで
とってもおいしいよ。
そうだ、いいこと教えてあげよう。
帆立のヒモのところに
黒いポツポツが並んでるの、わかる?
ほぼ日
ああ、これですね。
一代
これ、帆立の目なの。ぜんぶが目なの。
ほぼ日
‥‥‥‥‥? ひぃえー!
一代
この目で、帆立は
海の中でババババって、前進するの。
バックはできないんだよ、前進あるのみ。
ほぼ日
そうだったんだ‥‥。
一代さんみたいですね。
たくさんの目で前進あるのみ。
一代
そうね。私も同じ。
バックはできない(笑)。
でもね、いまでこそ、こんなふうに少しずつ
帆立や牡蠣が獲れるようになったけど、
ここ唐桑半島の人たちも、
半分くらいが、養殖を辞めることになってしまった。
なぜならね、東日本大震災の前の年に、
チリ地震があったんです。
そのとき、すでに私たち「盛屋水産」も
半分ぐらいの設備を小さな津波で壊されていました。
チリ地震では、もちろん家を流されはしなかった。
海水も10センチしか上がらなかったんだけど、
海の中はごちゃごちゃで
錨も帆立も牡蠣も絡まってしまった。
手のつけられない状態だったんで、
海から全部かきあげて、処分してしまったの。
泣くに泣けない状況だった。
それこそ呆然として、
これ以上のどん底はないだろうと思って、
何千万借金しても、また元に戻して
がんばろうと思った。
そこからひとつずつ養殖いかだを設置していって
丸1年かかって、
最後のいかだを設置しました。
「これで最後のいかだを設置した、よしがんばろう」
という日が3月10日。
翌日が東日本大震災でした。
「はっちゃ?」と思ってね(笑)。
今度はいかだどころか、家まで持っていかれちゃった。
でも、自分の命は残った。
ああああ「これ以上のどん底」がありましたね、
と、ちょっと身動きできなかったけど、
命がなくなったらそれこそなにもできない、
命があるから大丈夫かな、と思ってる。
そういう状況だったもんだから、
「海の仕事はもうだめだ」って
看板をおろした人もいます。
でも、そこからがんばる人もいる。
だって、もし海の仕事を辞めたらさ、
こうやって、牡蠣や帆立を見てもらって、
ドヤ顔できなくなるからね(笑)。
昔のような規模には復活できないかもしれない。
だけど、みなさんと一緒だったら
私はできるかなと思っています。
みんなに「助けて」「助けて」って言いながら、
やれるかなと思う。だから、そうやって
少しずつやってみようと思っているんだよ。
じゃあ、この帆立を、
こんどは焼いて食べちゃおう。
家においでよ。
ほぼ日
まだ、食べるんですか。
一代
どんどん食べるよ。
さっき牡蠣にくっついてた
ムール貝も蒸して食べさせてあげる。
ほぼ日
ひぁあー。うれしい!!
(つづきます)
2013-08-19-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN