一代さんのバスガイドのお話を聞いてから、
およそ2ヶ月後。
わたくし「ほぼ日」の菅野(すがの)は、
「気仙沼のほぼ日」
のサユミといっしょに
気仙沼の「盛屋水産」(一代さんのおうち)に
遊びに行きました。
牡蠣の養殖作業をすこしずつ再開したと
うかがったからです。
ほぼ日
一代さん、今日はよろしくお願いします。
長靴、黄色なんですね。
一代
この黄色い長靴は、震災のあと、
寄贈してもらったものです。
たいせつに履かせていただいてます。
そしてこれが私のユニフォーム。
ピンクのカッパです。
カッパ着て、長靴履かないと、
やっぱり落ち着かないんだよねぇ。
震災のあと、いろんな人たちが、
見学に来てくれました。
昨日もフィリピンから団体さんがいらっしゃいました。
私は英語がわかんないから、身ぶり手ぶりで
牡蠣の説明をしたんだよ。
せめて単語ぐらい覚えておけばよかったな。
かもめは英語でなんて言えばよかったんだろうね?
鳥は2種類いるの。
足の黄色い、私の長靴みたいなのが、うみねこ。
ピンクの足が、かもめです。
ぜんぶが「かもめ」じゃないんだよ、って説明した。
みんな、オーって感心してたよ。
そんなふうに、東京からもいろんな人が来てくれたし
糸井さんはじめ、俳優さんやタレントさん、
たくさんの方々が応援に来てくれました。
地震が起こる前は、私たちは朝から海に出て
ろくにテレビも映画も観てなかったから、
どの人が有名なのか、わからなかった。
どなたが来てくださっても、ほんとうに
ありがたかったです。
ほぼ日
‥‥‥‥‥一代さん、
もしかしてあの方は。
一代
そうそう、あの方が、
「カッパ姿に惚れた」
で有名な‥‥。
ほぼ日
有名な、旦那さま。
一代
カッパを脱ぐと、ただのだめおやじ(笑)。
でも、カッパ着て、いかだの上を
ひょいひょいひょいって歩いてると
カッコよく見えるんだな、これが。
ほぼ日
しょっぱなから旦那さまに
お会いできて、うれしいです。
今日は、ご夫婦で
私たちを牡蠣の養殖場所に
連れていってくださるんでしょうか?
一代
うん。牡蠣、育ってるよ。
やっと、ここまでになったんだ、ということを
見てほしくてね。
ほぼ日
うれしいです。
一代
さ、船が出るから、転ばないようにしてね。
少し沖のほうに行くと、気仙沼の海には
イルカがいるんだよ。
震災前は、毎年小学生をお招きして
船で海に出て、体験学習してもらってました。
そのときの、子どもたちの驚く顔がうれしくて。
うちの旦那って、あんなふうに無口で
わりと「ひとっことも話をしない」んです。
だから私が、こういうふうに
なっちゃったんだけどね(笑)。
その体験学習のときも、ろくにわからないのに
私が小学生に向かってヘラヘラヘラヘラ
「この帆立は2年子です」
という感じでお話ししていると、
旦那が「つが」と言ったりしてね。
私(一代)
「この帆立は2年子です」
旦那
「つが。3年だ」
私
「違う。3年です」
そういうやりとりをしながら
沖に子どもたちを連れていくの。
気づけば、船の周りがみごとなイルカの群れ。
イルカは、群れになってボンボン跳ねて
「こっちだよ、こっちだよ」と、
水先案内人をしてくれるんだよ。
その、小学生を案内した船は──、
旦那が震災の日に
沖に逃してくれて、いまも健在です。
ほぼ日
一代さんは、被災したとき、
どこに逃げたんですか?
一代
私は避難所に逃げました。
気仙沼の港は津波から3日間、
火の海だったんだよ。
そのあとの3日間は、黒い煙が出続けた。
ほんとに海が燃えた。真っ赤でね。
重油が流れて、
海に浮かんでいるいかだにしみ込んで、燃えた。
それが潮の流れで火の球のように
どんどんどんどん流れてきた。
津波も怖かったけど、その火の海が怖かった。
その風景を見て、
私たちも終わりだな、と思いました。
津波で海が終わり、
やっと助かっても、次は火災で終わり。
カッパの旦那、つまりうちのとうちゃんは、
波にのまれる前に、
船を沖に出すことができました。
船は助かったけど、港が火の海になったせいで、
とうちゃんは帰ってきたくても、
家に帰ってこられませんでした。
ほぼ日
そうか‥‥津波は予想できても、
火は考えもしなかったから。
一代
そう。なんにも持たずに出たの。
食べものはない、飲みものはない。
船の上でひとり、さぞ大変だったろうと思って、
あとになって「なにがつらかった?」と訊いてみたの。
そうしたら、なんて言ったと思う?
ほぼ日
?
一代
食べものより、飲みものより、
タバコが吸えなかったのがつらかったって。
「え、そっちかよ」ガク、だよ(笑)。
うちの旦那はヘビースモーカーで、
幻覚症状がすごかったらしく、
遠方に住んでいる3人の娘たちがかわるがわる
船の上にやってきたらしいです。
家に戻ったときも、玄関先で呆然として
「マリが来てた」なんて言ってました。
そのあとの避難暮らしで、食料も不足していた時期に
すごいです、旦那はなんと
タバコを調達していました。
人間っていざとなるとすごいもんだよ。
絶対に欲しいとなると、
どっからか持ってくるんだねぇ。
ほぼ日
すごい。
一代
さて、ここが、牡蠣の住み家。
海にぽつぽつ浮いてるのが「浮き球」なんだよ。
浮き球から、延縄式のロープがつながってて、
牡蠣が結ばれてます。
海藻とムール貝が
いっぱいくっついちゃってるあの中に、
牡蠣があります。
地道に繋いだ、この牡蠣が、
みなさんの食卓にのぼるのが、ほんとにうれしい。
ではひとつ、むいてみますね。
この、牡蠣むきナイフをぐっと刺して‥‥
ぐりぐりぐり‥‥ぐりぐり‥‥
ぱか。
こういう感じです。
いかがでしょうか。
ほぼ日
おお!
一代
えへへ。
ほぼ日
おっきい!
身がぶるんぶるんです。
一代
牡蠣に筋が入って、脈打ってるの、わかる?
筋がはいってるのが
最高の、すばらしい牡蠣の証拠。
ひとつ食べてみましょうね。
ほぼ日
いただいて、よろしいんでしょうか。
一代
いっちゃってください。
ほぼ日
ん‥‥‥。
一代
どう?
ほぼ日
んまい!!
一代
でしょ。
ほぼ日
ぷりぷりで、ほどよいしょっぱさで、
海まるごとの味がする!
一代
びっくりしたでしょ?
ほぼ日
ああ、おいしい‥‥。
これは、ちょっと忘れられない味です。
一代
でしょ?(ドヤ顔)
とうちゃんも、やるの?
とうちゃん
‥‥‥‥‥。
一代
オレのほうが大きいやつをむく、と
思っているようです。
とうちゃん
‥‥‥‥‥(ぱか)。
とうちゃん
‥‥‥‥‥(ほれ)。
一代
とうちゃんも、牡蠣をくれました!
ほぼ日
とうちゃんの牡蠣、いただきます。
う、うまい‥‥!
一代
次は帆立の場所にも行こう!
(つづきます)
2013-08-16-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN