マッキンゼーという会社って
ピッチャーばっかり育てているような印象が
あるんですよ、外から見てると。
ああ、たしかに。
で、よそのチームに
そのピッチャーを、どんどん貸し出してる。
伊賀さんって、もしかしたら
そういう「ピッチャーだらけ」のところで
「呼ばれる人」の役をやろうと‥‥。
そうかもしれません。
私、人によって
ぜんぜん違う人だと思われてるんです。
怖い人だって言われたり、
おもしろい人だって言われたり、
ボーッとしている人だって言われたり、
カメレオンみたいに。
ああ、それは「アート」ですね。
アート。
たとえば
「私は尖ってますよ、ピークはこのあたり」
みたいに
それだけでしかない人って、
アーティスティックじゃないと思うんです。
なるほど。
自由さ、と言ってもいいと思いますけど。
たしかにアートというのは
自由の発露というか、発現ですものね。
何の役に立つかはわからないけど‥‥。
「はたらく」に対する「アート」って
糸井さんの中では、どういったものですか？
ものすごく大事にしたいもの、ですよね。
はたらくということが
「商取引」の文脈で語られすぎてると
思っているので。
うん、うん。
時給がいくらだとか、年俸いくらとか、
ぜんぶお金に換えられてるけど、
でも、みんなが好きなのは
「ありがとうって言われたときに
疲れがふっ飛びました！」
みたいな話なんです。
今回の「はたらきたい展。」も
「はたらく」や「仕事」の中のストーリーに
フォーカスしている感じですね。
そうですね。
やはり、価値が一元化してるなあと感じます。
地位とか、名誉とか、お金とか。
だって、なんか感動する小説を読んで
泣いている人がさ、
いざ就職活動の面接にのぞんだら
「御社の給料体系、どうなってるんですか！」
みたいな感じに‥‥。
会場：（笑）
そうですね。
テレビのドキュメンタリーかなんかでも
感動するつくりになっていて、
別に給料がどうとか
有休が取得できますよとか言ってない。
言わないよねぇ、そこは。
‥‥で、そうやって表現されたストーリーに
みんな「おお！」ってなってるのに
自分の就活となると、
「有休、ちゃんと取れるんでしょうか」
みたいな質問ばかりになるというのは‥‥。
そのことが重要じゃないんだって
言ってるわけじゃなくてね。
だから、その一方で
「やり甲斐さえ感じられれば
給料なんか、別に安くたっていいです」
と言っちゃうのも、またウソですし。
うん、うん。
たぶん、どっちが正しいということでも
ないんだと思うんですよ。
そのへんを混ぜっかえしたいから
今回の「はたらきたい展。」やったわけで。
この対談にしたって、ほとんどが‥‥。
雑談？
うん、「贅肉」じゃないですか。
なるほど（笑）。
で、「贅肉」がなかったら
人体っておもしろくないんですよね。
ミロのヴィーナスから
贅肉を取っちゃったらって考えたら。
‥‥つまんない。
お金に関して
「いっぱい欲しいです」とか、
「もらえるんであれば、いくらでも欲しいです」
みたいに言う人がいるかもしれないけど
「そもそも、
人って、いくらあれば満足するんだろう？」
という部分を考えないと。
本当にそうですね。
同じようなことは、会社のなかにもあって
「こうすれば、成功します！」みたいな書類、
たくさんつくるじゃないですか。
あのいい加減さに当たるものが、
はたらくこと全体の中に、蔓延してると思う。
そう。
たとえば「採用」にしたって、
「きちんと見極めて正しい人を採用している」
なんて、みんなが言えるわけがない。
「あ、間違えちゃったかも」みたいな採用を
どこの会社でもやってるし、
入るほうだって、
ものすごく入りたかったんだけど
入ってみたら、ちょっと違ったなんてことは
しょっちゅうあるわけです。
それってさ、自分も含めて、
人って、ロクでもないものばっかりというか。
はい、私も含めて（笑）。
かっこよく言えば、
どこまでいっても「不完全」なのが人間で、
人と妥協したり、
ときには突っ走ったりしながら
「いやあ、おもしろかったなあ」と言って
死んでいくのが‥‥。
人生であると、なるほど。
でも、すごく大きいまとめですね（笑）。
でもそれ、自分の憧れなんですよ。
最後に
「俺の人生、おもしろかったなあ」って
言って死にたいというか。
私も、そんな人生を送りたいですね。
損得を計算しまくって生きて
「ああ、成功した人生だった」とか言って死ぬとか、
あり得ないですよね。
みんな、すごくお金持ちになったらさ、
「しまった！」と思って
寄付なんかしはじめるわけだから（笑）。
はたらくことを通じて
「ああ、おもしろかった」という何かが
手に入ったらうれしいですよね。
人生の中でいちばん長い時間を費やすのが
「はたらく」ですから。
<つづきます>
2013-09-09-MON
