第7回 ただ、呼ばれる人。

今、採用基準についてお話いただいた
「エネルギーレベルの高さ」と、
「思考のやり取りができる」というのは
マッキンゼーならでは、ですか?

糸井

どこでも基本は一緒なんじゃないかと
思うんですが、
まったく違う仕事もありますよね。

ひとりでずーっと突き詰めていく
職人的な仕事とか。

伊賀

そうですね。

糸井

ただ、チームで成し遂げていくような
仕事に関して言うと、
「エネルギーレベルの高さ」と
「思考のやり取りができる」ということは
すごく大事なことだと思います。

伊賀

うん、うん。

糸井

まあ、そんなに特殊な人を求めてるわけでは
ないんですけれど。

伊賀

そのあたりがまた、おもしろいですね。

うちの乗組員が
よその媒体で受けたインタビューを読んでいたら
「わが社は
 必ずしも優秀である必要はないんです」と。

糸井

おお、なるほど(笑)。

伊賀

たしかに、ふだん僕はそんなこと言ってるんです。

糸井

何が優秀かというもの、難しいですし。

伊賀

「わたしは優秀ですよ!」という言う人って
「うるさいだけ」なことが多かったり‥‥。

糸井

会場:(笑)

糸井

つまり「優秀である」ということより
「力を合わせてやったら上手くいっちゃった」
というのが、うちのやり方なんで
そう言ってるんですけど‥‥
ご本人たちが
「優秀じゃなくてもいいんです」って‥‥。

糸井

そこ確認されても、と(笑)。

伊賀

でも「優秀って何?」って考えると、
たとえば
学校の英語のテストでいい点数を取ってたんです、
という人より、
学生時代は、あんまり勉強してこなかったけど
仕事で海外に赴任して
1年経ったら英語ができるようになりました、
という人が活躍するのが、
実際の仕事の現場じゃないですか。

そう考えると、二十歳そこそこで
「僕って、だいたいできちゃうんですよね」
みたいな人に来られても‥‥。

糸井

「僕って、だいたいできちゃうんですよね」
みたいな人って、基本、ダメですしね。

伊賀

会場:(笑)

糸井

あかるく言い放ちますね(笑)。

糸井

これからは「全教科80点」みたいな人って
通用しなくなると思うんです。

反対に、1科目でもいいし、
もう「科目」じゃなくてもいいんですが
何かひとつ
「すごい!」という分野を持っている人のことを
「スパイク型」と言うんですね。

で、そういう人のほうが
「この人といっしょはたらきたい」って
思われる気がするんです。

伊賀

‥‥僕、あらゆる能力は、
もう「外部化」していると思っているんですよ。

ようするに
アプリケーションとしての他人がいる、という。

糸井

なるほど、斬新な考えかたですね。

伊賀

分野ごと分野ごとに
「俺の友だちでさ、こういうやつがいるけど」
という人、心当たりあるでしょう?

糸井

なるほど‥‥いや、外部化って
素晴らしい概念だなあと思ったんですけど、
同僚や友だちが困ってるとき
「じゃあ、あいつに頼んでみようか」って
言ってもらえる人って
「全教科80点の人」じゃないんです。

「あることについて200点の人」なんです。

伊賀

うん、うん。

糸井

その「200点の部分」で
「それだったらあいつがいるじゃん」って
呼んでもらえるわけです。

伊賀

もっと言うと
「何だか知らないけど、いたほうがいい」
というのも、ありだと思うんです。

必ずしも「200点」じゃなくたって。

糸井

ああ‥‥そうですね。

伊賀

「ただ呼ばれるやつ」」って、憧れで。

糸井

わかります。

伊賀

みんなでどっか行こうぜーってときに
「あいつどう?」
「あ、呼ぼう呼ぼう」って言われる人。

本人は、別に何にもできなくっても
「いるといいよね」みたいな。

糸井

会場:(笑)

糸井

ロールプレイングゲームで
「戦士」とか「僧侶」とか「魔法使い」みたいに
職業名をつけるとすれば
「人格者」‥‥みたいな(笑)。

糸井

でも、糸井さん言う「ただ、呼ばれる人」って、
それだけの意味じゃないですよね。

伊賀

実は、いちばん大きいと思います。

糸井

そうですよね。

伊賀

そいつがいることで、
何だろう、「文脈が楽しくなる」んです。

つまり、
なくてもいいかも知れない言葉によって
小説って、できているわけですし。

糸井

なるほど、なるほど。

伊賀

「彼は彼女に会った」って書いてあっても、
おもしろくも何ともない。

でも、そのときに
どういうふうに文章を飾ったり、引いたり‥‥
「文体」や「スタイル」に
影響を与えるのが、その人の役割なんです。

糸井

そういう人がいるだけで
上手くいくってこと、ありますものね。

伊賀

<つづきます>
2013-09-06-FRI