糸井 | みんながいい、いい、っていうと、 必ずひっくり返ること言いたがる人が 出てくると思うんだけど。 たとえば飯島さんは フードスタイリストだから 見栄えがいいんだとか、 映画の作品によく映るように つくってるって 思いこんでる人もいる。 |
ばなな | そんなこと考えたこともなかった。 |
糸井 | じつは真逆で、 絶対、食べておいしいってところがないと。 味って、映っちゃうんだよね。 |
ばなな | 映っちゃいますね。 たまに味がないの、わかりますよね。 |
糸井 | わかる、わかる。 |
飯島 | 色さえよければ、 醤油入れなくていいかといえば、 そうでもないんです。 |
糸井 | うん。 |
飯島 | やっぱり、肉じゃがは醤油で ちょっと煮崩れてたりするほうが 見慣れてるおいしさだったりします。 きれいに角もビシッと 立ってるようなものよりも、 ちょっと角が欠けてるほうが、 おいしそうに見えますよね。 |
糸井 | 飯島さんが来られるっていうから、 昨日オレ、改めて、 『LIFE』を読んだんです。 親子丼を簡単につくる話で、 よく煮えたのと、生っぽいの、 卵のふたつの味を味わいたいから 2回に分けて入れます、っていうの。 あのリアル! |
ばなな | うーん! あと「あんまり混ぜないで」 っていうの、ものすごいリアルでした。 |
糸井 | 普段はそれは、一気に入れて、 火加減で調節するじゃない。 |
ばなな | いつ火を止めるとか、 そういうふうにしますね。 |
糸井 | それを、2回に分ければいいっていうのは、 絶対に失敗しないよね。 |
飯島 | 失敗しないです。 1回目のほうは、完全に火が 通っちゃってもいいじゃないですか。 |
糸井 | うん。 そうそう、そうそう。 |
飯島 | 完全に火が通った上に乗せると、 すぐ、ほんとに熱い上に乗せると──。 |
ばなな | ちょうどよく熱が伝わる。 すごいなぁ。 すごすぎるなぁ。 |
糸井 | まほちゃん、自分でつくることあるでしょ。 |
ばなな | つくりますよ。 なんだかんだで20年間つくってますよ。 |
糸井 | そのときに、自分は どこが得意で、どこが苦手とかって もう、わかってる? |
ばなな | 料理はだいたい苦手。 |
糸井 | 苦手なんですか。 |
ばなな | はははは。 |
糸井 | なんでなんですかね、 こんなに食うのにね。 |
ばなな | 料理は苦手だけど、 まずいものは絶対食べない。 |
糸井 | 食べる自分っていうのは、 ものすごい生意気なわけじゃない。 |
ばなな | うん。 だから、まずかったら食べない。 自分でつくっても食べない。 |
糸井 | ああー。 なるほどね。 |
飯島 | (あつあつのグラタン皿を運びながら) ちょっと、熱いんですけど、 『ほぼ日レシピブック』に載せた、 焼きグラタンコロッケです。 |
ばなな | ああー! すごーい。 |
飯島 | ちょっと熱いので、 器を触らないようにしてくださいね。 |
糸井 | スプーンでがっと行くんですかね。 |
飯島 | はい! |
糸井 | 今って、食べる側として、 どんどん舌が肥えていくじゃないですか。 |
ばなな | うん。 |
糸井 | それと、つくる自分っていうのの間で、 ヘンなものになるよね。 |
ばなな | 青山みたいなところで、流行ったものが 5年後に上野に下りてくる感じ、 あの感じが料理界でもありますよね。 |
糸井 | なるほどね。 |
ばなな | いま、魚の刺身を大皿に載せて カルパッチョみたいにして食べるのを 全国の主婦がやってます。 |
糸井 | なるほど。 |
ばなな | 食べよう。 |
糸井 | コロッケだね。 いもグラタン? |
飯島 | はい、じゃがいもに、 炒めたれんこんと、 鶏肉のちょっと甘辛く味付けしたのを 入れました。 |
ばなな | わぁ、不思議。 |
糸井 | これ、例えば、わけぎかけても、 ソースかけても、 またちがうほうに走れるね。 |
飯島 | マッシュポテトって、 おいしいじゃないですか。 そのおいしさを生かしたくて、 じゃがいもを茹でたあとに、 バターと牛乳で潰して、 そこに、鶏とれんこんを炒め、 醤油とちょっとのみりんで 甘辛くしたのを入れて、 オーブンで焼いただけです。 |
ばなな | ちょっと和風なんですね。 そして、うーん! バターの味! |
飯島 | よかった。 |
ばなな | おいしい。 |
飯島 | パン粉にちょっと油をまぶすと こんがりするんで、 |
ばなな | そんな秘密まで。 |
飯島 | はい。 |
ほぼ日 | (御相伴にあずかって) これ、おいしい! |
糸井 | はははは。 |
ばなな | おいしいね。 わーん。 |
飯島 | よかったです。 コロッケって形つくったり揚げたりするの、 たいへんじゃないですか。 これだったら、簡単にできるし。 |
ばなな | そして、コロッケを食べてる気分がしますね。 |
飯島 | はい。 |
ばなな | れんこん大切。 |
糸井 | れんこんは意外。 |
飯島 | れんこんは酢水につけると カリッと仕上がるんですけど、 そのまま水にさらすだけだと、 ちょっとほくっとなるんです。 これは、ちょっとサクッと 仕上げたかったんで、 酢水につけました。 |
ばなな | 負けた。 っていうか、勝負に参加してないって。 食べてるだけって(笑)。 ご主人は「しあわせだな」って言います? |
飯島 | そうですね。 よく言ってます。 やめてほしいんですけど。 ちょっと恥ずかしい。 |
ばなな | ‥‥夢のようだ。 |
飯島 | ありがとうございます(笑)。 |
糸井 | そりゃそうだろうね。 ひどい話だよ、 こんな人が家にいるんだもんね。 |
ばなな | うーん。 うらやましい。 |
飯島 | いちいち食べて 「これは売れる」って言うから、 「じゃあ千円ちょうだい」とか言って(笑)。 |
ばなな | でも、やっぱり、映像でも、 おいしいか、まずいか、 ほんとにわかりますからね。 |
糸井 | わかる。 |
飯島 | ほんとですか。 なんかすごい。 |
ばなな | あと現場の雰囲気も見えますよね。 |
糸井 | なんだろう。 おいしいごはんに つかまえられたときのうれしさ。 やっぱり、ナンパされるって うれしいんだよね(笑)。 |
ばなな | あと見たことないもの見るって すごいうれしいことなので。 |
飯島 | でも、味は意外に普通、 みたいなところが いいのかな。 |
ばなな | いえ、普通ではないですよ、やっぱり。 |
糸井 | 普通って言葉に隠された、恐ろしさ。 |
ばなな | グラタンコロッケ、 おかわりしまーす。 |
飯島 | どうぞ! |
(見栄えと、味が、 飯島さんの料理はイコールなんですよ。 「おいしい」が「おいしそう」と同格。 これってすごいことだったんですね。 つづきます!) |
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN |