糸井 | 飯島さんのレシピには、2種類あるんだね。 自分基準の料理と、 みんなが好きなのは、なぁに? って、研究した料理と。 |
飯島 | そうなんです。 |
ばなな | でもたどり着くところは、おなじ。 |
糸井 | たどり着くところは、「おいしい」。 |
ばなな | おなじおいしさの世界ですね。 |
飯島 | ほかにも、その中間というか、 「グラタンコロッケ」だったら、 自分がマッシュポテト好きだということと、 「みんなが好きなコロッケを 簡単につくれたら」という考えを、 合わせたものなんです。 |
糸井 | うーん! |
ばなな | その圧倒的な自信っていうのは、 いつ頃から、お持ちなんですか。 |
飯島 | 自信なんて、ぜんぜん、ないです。 ほんとに、もう、食べてもらうときも、 「ほんとに、大丈夫かな?」 みたいな感じなんです。 |
ばなな | そうなんだ! |
糸井 | 谷川俊太郎さんがこのあいだ 食べているとき黙ってたんで、 心配だったらしいよ。 |
ばなな | 谷川さんが黙ってたら 誰でも心配ですよ。 一番怖いことかも。 |
一同 | (笑) |
糸井 | おたくのお父さんもそうだよ。 黙ってないでください(笑)。 |
ばなな | 父は、ただ、黙ってるだけ。 身内は、慣れです。 |
糸井 | うーん。 |
ばなな | 飯島さん、自分で、 これはもしかしていけてるんじゃ、 って思ったのは、 何歳ぐらいのときですか。 |
飯島 | やっぱり小学生くらいですかね。 母に褒められたときです。 あとは、近所の人とか呼んで、 ママレンジでホットケーキを つくって配ったりして褒められたりとか。 |
ばなな | そんな初歩的な。 |
糸井 | ははは。 |
飯島 | そんなとこから。 |
糸井 | そんときには、おいしいもまずいもなくて、 「できた」っていうだけでうれしいね。 |
飯島 | そうです。 それで、褒められるんで、 喜んでつくってました。 専門学校に行ってからは 習ったごま団子や肉まんをつくっては 近所に配ったりしてました。 栄養士の学校で、 和洋中の授業があったんです。 |
糸井 | でも学校で教わる料理は、 そんなに「おいしい」わけではないよねえ。 でも、おいしかったんですかね。 |
飯島 | どうなんですかね。 その通りにつくってたんで、 その通りのものが できてたと思うんですけど。 |
ばなな | 学生時代から、 自分のはちょっとちがうな、 っていうのはあったんですか? |
飯島 | そういうのも、ぜんぜんなくて! 肉まんなんて、 自分でつくったことなかったんで、 できただけで「やったー!」って。 |
糸井 | そのあたりが、分け目だね。 |
ばなな | うん。 自分のほうが、と思うと、 ただ料理のうまい人になってしまう。 |
糸井 | そうか。 超・素直な時期っていうのが、 あるんだな。 美容師の学校行ってる人から、 そんなようなことを聞いたことあるんです。 いま、活躍している人って、 「言われた通りのことしかできなくて」 って人が、わりと多いんですよ。 「学生時代、いろいろできるやつが、 うらやましかったんです」みたいな。 |
ばなな | ああー! |
飯島 | そうですか。 |
糸井 | 「はじめからぼくはヘンでしたよ」 って人はあんまり知らない。 |
ばなな | はじめから個性を打ち出したって人は あんまりいない。 |
糸井 | おそるおそるだったんだね。 |
飯島 | そうなんですよね。 |
ばなな | 結局、みんなどういうふうに 料理をするかっていうと、 「基本的だけどつくり方が いまいちはっきりしない料理」に関しては、 おいしくつくろうって気持ちが、まず、ない。 |
糸井 | なるほどな。 |
ばなな | 一番基本的な本を買ってきて、 基本的なつくり方でつくるけれど、 やっぱり、理想としているおいしさじゃない。 あとは自分の「お母さんの味」を そのままつくるだけで。 |
飯島 | そうですよね。 一回つくって、 ちょっと自分なりにアレンジする。 |
糸井 | 「こんなもんだろう」 っていうところで、それ以上考えないわけだ。 |
ばなな | 『LIFE』に載っているものって。 そういうタイプのメニューなの。 |
飯島 | 『LIFE』をつくるとき、 編集方針で驚いたのが、 ひとつのレシピをこまかく、 ほんとうにこまかく説明したことです。 いまって、短いレシピが多い中で、 『LIFE』のちらしずしは6ページ。 |
ばなな | これ、たいへん。 |
飯島 | いままでの本ではありえなかったので、 こんなにレシピ載せていいのかな、って ちょっと思ってたんです。 でも、いま逆に、家庭のキッチンで、 お母さんがつくるところを 見てない人が増えている、 という実感もあって、 このチームでやりたかったのは そういうことなんだ、 これが求められてるんだって 思うようになりました。 |
ばなな | 手順の多さもそうだし、あと、やっぱり、 メニューが肝心だったと思う。 |
飯島 | そうですね。 |
糸井 | 「ほんとに食いたいもんってなに?」 って本音を出し合うっていうか。 取材をしながら、 次はどうしよう、 何が食べたいと思う? って、 しょっちゅうそういう話してたもんね。 |
飯島 | はい。 |
糸井 | みんな勝手なこと言うんだよ、やっぱり。 「わたしはなんとかだ!」とか。 一番すごいのは、同じ日に撮影するのに カレーとてんぷらとからあげじゃ、 おなかがきついから、変えない? なんて。 おまえ、完全に自分でたべることだけ 考えてるだろう! って(笑)。 |
ばなな | はははは。 |
飯島 | でも、たしかに、みたいな(笑)。 |
ばなな | でも、大切なことかも。 欲望が絡まり合って。 |
糸井 | 超がつく本音の人が混じってたんで、 ぼくもじつは、そういう気分があったんです。 食べるためだけにこのアトリエに来る、 っていう仕事、何回もしてるからね。 ひとつ自慢すると、 「あらゆるフライ」はオレがつけたんだ。 |
ばなな | ときめきですねぇ。 ミックスではなく。 |
糸井 | あらゆるフライ。 一個ずつ言っていくと、きりがないでしょう。 アジフライいいんじゃない、って言ったときに、 でも、ほたてもいいんじゃん、エビもさ、 みたいなのあるじゃない。 だから「あらゆるフライ」。 |
ばなな | はははは。 (レシピに手順が多いというのは、 狙ったというよりも、 そうしないと再現できないから、 という単純な理由なんですが、 いま思うとほんとにそうしてよかったです。 つづきます!) |
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