藤原 |
映画で食事のシーンが出る所っていうのは
だいたい男女、家族。
ちょっとゆったりした時間がないと
食べ物のシーンって撮らないんですよね。
息子を誘拐された、どうしようなんていう場面で
夕食が出てきても。 |
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糸井 |
誘拐されたシーンが長引いて、
ちょっと食べなきゃいけませんっていう時になって
何を出すか──なんていうのはおもしろいですね。 |
藤原 |
それはおもしろい。 |
糸井 |
だから今まではありっこない、
食事が入りっこないシーンに
食べ物を入れたらいいのかも。 |
藤原 |
「天国と地獄」で犯人からの電話を
みんなで待ってる仲代達也の刑事、
三船敏郎は食おうかどうかと迷ってる。
当然ご飯出ますよね。あんな時間に。
でもやっぱりあそこでご飯が出て来ない。 |
── |
外にマスコミがガーッといるから
買いにも行けないし、
店屋物も取れないとなったら何を食べるかって、
難しいですね。 |
糸井 |
もっと言えば、マスコミも食べますよね。
外にいて、だってあの連合赤軍の鉄球のあの時に、
カップヌードルが流行ったんでしたっけ。
あの時にあの人たちが食べてたということで、
バーッと流行ったんですから。 |
藤原 |
なるほどね。 |
糸井 |
それどころじゃないっていう理屈で、
どんどん話を進めていくためには
食べ物なんか食べてちゃ困るんですよね。
あるいはちょっとトイレに行ってくる、
なんてシーンは、あっちゃだめなんですよ。
でもそれを入れようと思ったら、
映画に奥行きが出ますよね。 |
藤原 |
イタリア映画では、
食べるものどころか、お金も全然ない所で
失業して食い詰めていて、
持ってる物は自転車だけというお父さんが、
食べるじゃないですか。
「自転車泥棒」で。
あの食事のシーンがなかったら
ずいぶん、うすいでしょう。
なけなしのお金で子どもに飯をやる。
そうしたらどうなるか。
隣りの金持ちはもっと贅沢なものを食べて、
子どもがそっちを見ちゃう。 |
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糸井 |
「自転車泥棒」、
食べるシーンはすごいですね。今思った。 |
藤原 |
あれはやっぱり思い出すでしょう。あの映画でね。 |
糸井 |
あれ、一番泣いた映画だな。
一生に1回、一番泣いたのは
あれかもしれないなあ。
また見たくなるんですよね。
なんだろう。テレビの長く続くドラマは、
食べ物のシーンを入れないと
もたないんじゃないかと思うんですけど。
「寺内貫太郎一家」には、
たえず納豆かき混ぜてるおばあちゃんがいたし。 |
藤原 |
はいはい。ネギとおかかをかける(笑)。 |
糸井 |
「ばあちゃん、きったねえな!」
っていう。それから「北の国から」では
やっぱり食い物のシーンってすごくて、
ラーメン屋で
「子どもがまだ食べてるでしょうが!」
と叫ぶ名シーンががあるわけですよ。
映画だと2時間3時間で済むのに、
テレビだと何十時間になるから、
生活の要素を入れずにはいられないんでしょうね。 |
── |
そう考えると、最近の日本映画って
ご飯のシーンが増えましたよね。
飯島さんの仕事がどんどん増えるのって、
それだけ食事のシーンが
重要視されてるということかなと。 |
糸井 |
そうですね。 |
藤原 |
日本映画は割にまったり系なんですよ。
長回しで、あんまりカットで割ったり、
時間飛ばさないから。 |
糸井 |
食べ物のシーンがよかったって、
映画を観た人が満足するっていうことが、
「かもめ食堂」より前はなかったんじゃないかな。 |
藤原 |
「かもめ食堂」はやっぱり革命的でしたね。 |
── |
先日お会いした女性が「かもめ食堂」が大好きで
ちょうど2週間前にヘルシンキに行ってきました、
って。3年たっても、ヘルシンキには
日本人がたくさん訪れているそうです。
その舞台になったレストランに行って、
シナモンロールを食べるんですって。
すごい映画の力だなって。 |
糸井 |
そこでシナモンロールは売ってるんだ、やっぱり。 |
── |
しょうが焼きもおにぎりもないんですが、
シナモンロールはあります。
フィンランド料理のバフェ形式のお店なんです。 |
飯島 |
そこで習ったんです、シナモンロール。 |
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藤原 |
「第三の男」の舞台になった
ウィーンの観覧車に行ったことがあるんですけど、
でも、ただの観覧車なんですよ。
それが、食べ物だったら
しみじみするかもしれないなあ。
「第三の男」にどんな食べ物が出てきたかなんて、
思い出せないです。 |
糸井 |
ですね。昔はやっぱり
追っかけ追っかけ、ストーリーを見せてたから、
食事のシーンがあったとしても
休み時間に見えちゃったんでしょうね。 |
藤原 |
そうなんですよね。 |
── |
最近のラブストーリーとかもそうですよ。
思い出せないんですよ。
アメリカ映画とかでロマンティックだの、
コメディっぽいのもあんまり思い出せないし、
すごい探したんだよね、いろいろね。 |
藤原 |
ダイアン・レインとリチャード・ギアの、
「最後の初恋」、あの映画は確か
食事を作るんですよね。
だけど何を作ったのか全然覚えてない。
あれはご飯大事なんですよ。
ご飯大事なんだけど、
ご飯をしているというシーンが大事で、
あれ、何を食べたのかなっていう感じ。 |
── |
ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの
「恋に落ちて」も、
クリスマスのシーンとかは
当然食事のシーンがあると思うんだけど、
思い出せないんです。 |
藤原 |
ろうそく灯すんですよね。
あれはアメリカ的な──、
つまりろうそくを灯して
「特別な2人の食事」ということが
わかればいいわけで、
当事者は、食事以外のこと考えてるからね。 |
糸井 |
さっきの、どのレストランで
ごちそうしたかというのと近いんですね。 |
藤原 |
そうなんです、つまんないなあ。
「アパートの鍵貸します」では、
パスタがあれは大事なんです。
あれはおいしいほう。
フレッド・マクマレイとシャーリー・マクレーンが
一緒に食事をする所はチャイニーズレストランで、
フォーチュンクッキーが出てきて、
「いつもと同じ中国料理」って
シャーリー・マクレーンが一言だけ。 |
── |
なにを食べたかは──。 |
藤原 |
出てこない。 |
糸井 |
すごい違いだ! |
── |
「ゴッドファーザー」はイタリア人だから
トマトパスタが美味しそうですよね。 |
糸井 |
ああ、「ゴッドファーザー」は
食い物の匂いがしますね。 |
藤原 |
「グッドフェローズ」も。
ギャングが殺し合いの相談をしてるのに、
「ニンニクはこうやって細く切らないとね、
あとが残っちまうんだよ」って、
マフィアってイタリア人だからしょうがねえな、
こんな時に食う物の話をしてっていう、
そういう表現になってましたね。 |
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糸井 |
あの人はどうですか。
ビデオ屋に勤めてたバイトしてた監督‥‥
タランティーノ。 |
藤原 |
レストランが出てくるけど、
あそこで食べ物とか何とかって以前に、
早速ね、なんか強盗2人、
間の抜けたのが出て来ちゃうわけで。 |
糸井 |
そうか。食べ物どころじゃないんだ。
あるいは食事を無口に
つまらなそうに食うことで、
その家庭の雰囲気を出すという場面は山ほどあるのに。 |
藤原 |
うん、あるある。 |
糸井 |
感情がもつれている食卓。 |
藤原 |
ありますね。
トリュフォーの映画で幸せな食事って
見たことないでしょう。
つらい情景の夫婦、
これぐらい距離があるとかばかりで。 |
── |
幸せな食卓の風景といえば
例えば「パペットの晩餐会」とか。
残念なことにDVDが廃盤なんですが。 |
飯島 |
小説で読んだんですよ。
でもウミガメのスープとか作れないです(笑)。 |
藤原 |
あれは作りづらいものが揃ってるわけだからね。
勤勉実直な暮らしをしている人たちが、
美味しいものを食べて
どんどん顔が変わっていくのね。
その幸せな顔見ていて幸せになるという。 |
糸井 |
昔むかしに、木村恒久さんという
有名なグラフィックデザイナーがいて。
この人はいわば職人肌の人で、
もう頭のいい観念を語る人なんです。
その人と亀倉雄作さんという先生と
ぼくと3人で飯を食うという機会があって。
話は全部おもしろいんですよ。
そして木村さんがブレードランナーの話を
淡々と語り始めた時に、亀倉さんが
「ちゃんと飯を食えよ」って言ったの。
これは2人を本当によく表しててね。 |
藤原 |
いい話ですね。 |
糸井 |
そして、両方オッケーですよね。 |
飯島 |
また、お話の途中ですが、
お茶漬けです。はい、どうぞ。 |
藤原 |
うわあ! |
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糸井 |
わあ!
(つづきます) |