飯島食堂へようこそ。  『シネマ食堂』出版記念 AERA×ほぼ日共同企画 藤原帰一さんと、映画のごはん。

第3回 取り分けるという親しさの表現。
藤原 今日の料理への質問なんですが、
お茶漬けにおだしを使いますか?
飯島 はい、使います。
藤原 おだしをお茶漬けに使うというのは、
いつごろからなんでしょう。
飯島 歴史についてはわからないんですが、
最近結構お料理屋さんなどで
おだしを使うお茶漬けが出ますよね。
私が知る範囲では5〜6年前からの所が
多いですね。
藤原 お茶漬けというからには
やっぱりお茶のものだったんですか。
飯島 お茶です。私はなぜこのレシピにしたかというと、
鰹だしって、イノシン酸という旨味成分が入っていて、
お茶っていうのは昆布と同じ
グルタミン酸という成分、旨味が入ってるんです。
だからだしをかけてるようなものになるんですけど、
香ばしく煎ったお茶に薄めのおだしを入れて、
そんなに魚臭くならないようにして、
ちょっと塩としょうゆで味をつけて、
ご飯にかける、という方法を採りました。
お茶だけだとやっぱりあっさりしすぎてしまって。
かといってだしだけだと
「お茶漬け」って言わないんじゃないかなと。
糸井 だしをお茶漬けに使うのってね、
何か粗末だったはずのものの「豪華化」というか。
例えばおにぎりでも、
「おにぎり屋さん」ができた時に
家の中で話題になってたんですね。
おにぎりをお金取って食べさせる店があるぞって。
藤原 やっぱりちょっと変だなあと思ったでしょ。
わかりますよね。
糸井 それと同じようなことが、
お茶漬けという最後の質素なものに、
起きているんでしょうね。
鯛茶とかごまだれがあるでしょう、
あのあたりの時に誰かが
数奇者として始めたんじゃないですかね。
藤原 ああ、わざとね。
風流に茶漬けを気取ってみたと。
糸井 今まさにそれが行われているのが、
卵かけご飯だと思います。
今、ものすごい流行してますよね。
藤原 あれ専用のしょうゆがあるでしょう。
飯島 (キッチンから運んできて)
糸井さん、藤原先生、
お話の途中ですけど、
こちら、どうぞ。
「めがね」の、お重です。
糸井 (感慨深げに)
この重箱だったんですか!
同じお重ですよね?
飯島 はい。
糸井 うそーっ。
これだったんですか!
藤原 来た来た来た!
そして飯島さん、
いい笑顔ですね。
飯島さんを撮りたい感じ。
飯島 こちらは、材料を用意しないでつくった、
男性が作ったっぽい、
彩りをそんなに気にしてないみたいな
ちらし寿司なんです。
ちょっと大ざっぱ。
ジャン(と、ふたを開ける)。
一同 わぁー!
(拍手)
糸井 こうなんだ。いい色だよ。
これをね、(映画のなかでは)
「一緒に食べませんか」
って言われるんですよね。
飯島 そうです。
糸井 そんなウエルカムってないですよね。
今作って、あなたがまだ
(仲間としての)勘定に
入ってなかったはずなのに、
分け方を変えればあなたも入れますよという、
あの迎え方はね。
藤原 うまい。うん。
糸井 見事だった。
飯島 あとこのちらし寿司は、
ちらし寿司って豪華なのが普通なんですけど、
急にもたいさんが来たのを迎えるわけなので
最初からエビとかイクラがあったら
おかしいかなと思って、
わざわざ買い物に行かなくても作れる
ちらし寿司。あり合わせのちらし寿司。
糸井 人数も何人になっても大丈夫だし、
そのバランスを考えて
根菜の煮物もあるし。
飯島 これも鶏を入れたいところなんですけど、
唐揚げがあるので厚揚げにして。
糸井 ああ、分けたんだ。
飯島 三段あったんです。
糸井 これを前に、
「一緒に食べませんか」って言われたらね‥‥。
藤原 絶妙。
糸井 まいるよね。
藤原 これ、大皿盛りのものを取り分ける食卓と、
一人一人分けてあるっていうのがあるでしょう。
映画としてどっちなんでしょうね。
飯島 大皿を取り分けるほうが、なんかやっぱり
親しみやすい感じはしますよね。
「南極料理人」でも
最初は緊張して料理人の人が分けて、
個々に並べてたのが、だんだん親しんできたら
みんなで大皿を回すみたいな。
そういう表現があったりするぐらいなので。
糸井 南極料理人が新しかったのは、
「美味しいとは限らないですよ」というメニューを
主役にしてるんですね。
伊勢エビのフライだとか、
べちゃべちゃした唐揚げ。
あれは新しいなと思った。
飯島 どうぞ、食べてください。
糸井 わーい!
‥‥なんかこうしみじみしちゃう。
どこから行こうかな。
藤原 そうそう、どこから食べるかっていうのはね、
「タンポポ」の大テーマでしたね。
まず眺めなくちゃいけないのかな。
飯島 (笑)食べてください。
糸井 申し訳ない。
藤原 いただきます。‥‥おいしい。
飯島 ちょっと質素なちらし寿司。
糸井 このお寿司、またいいね。
光石さんはあの時に
料理を飯島さんから習ったりしたんですか。
飯島 その時は現場で、
こういうふうにしてくださいとか。
具体的に作るシーンはなかったんですけど、
さらさらと丁寧に上手そうになさっていました。
藤原 そうそう。やっぱり主食回帰ですね。
ご飯の場面って、性格を表す場面に使うでしょう。
映画じゃないんだけど、
筑紫哲也さんが福田赳夫元首相のことを
『旅の途中』という本に書いてるんですね。
福田赳夫の朝ご飯をテレビで撮った。
卵かけご飯を食べる。
ここまでは普通ですね。
卵にお醤油を入れてご飯にかける。
そうするとご飯が少しなくなってきたあたりで、
器に卵がちょっと残ってるじゃないですか。
残った卵がもったいないからって、
ご飯を卵のほうの器にまた盛ってそれを食べる。
これでね、本当に福田っていうのは
正真正銘倹約家なんだ、大蔵大臣なんだっていう。
糸井 それはぼくはちょっと異論があるんです。
自分もやるんですよ、それ。
つまりね、卵ご飯っていうのは
黄身が残るんですよ。
白身はほとんど動きやすいんで
先に食べちゃう。
だから最後に入れたご飯で食べる時は
黄身ご飯が食べられる。
飯島 なるほど。
藤原 そうか。福田赳夫は黄身が欲しかった。
最後に黄身ご飯で食べたかった。
もったいないってだけじゃないんだ。
糸井 そうだと思うんです。
藤原 いや、今日は来た甲斐があった!
糸井 いやいや、ずっとそれをやってるものだから。
飯島 黄身が残るんですね。
生卵でご飯を2杯食べようと思った時に、
よっぽどそうしないと白身だけいくでしょう。
かき混ぜながらかけると白身はこっち側に残って
黄身が逆にいくんですよ。
それを両方使い分けてやるんですが、
どうしても黄身は最後に残る。
筑紫さんは卵ご飯を食べてなかったんじゃないですか。
藤原 そこまでいくかもしれない。そうか。
糸井 政治家の話だと、
つい経済観念っていう切り口にしちゃうんでしょうね。
藤原 黄身が好きだったんだ、と。
素直に見りゃあいいじゃんと。
黄身と白身の違いがわからないのが政治。
(つづきます)

2009-11-02-MON

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写真 山崎エリナ  協力 AERA編集部(朝日新聞社)

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