飯島食堂へようこそ。  『シネマ食堂』出版記念 AERA×ほぼ日共同企画 藤原帰一さんと、映画のごはん。

第2回 アメリカ映画にとって食事とは何か。
糸井 今回、ぼくは「ちらし寿司」を選んだけれど、
ホットドッグも選びたかったんです。
でもそれも、発想はお米に近いね。
藤原 アメリカ映画にホットドッグ、多いんですよ。
だって警官が町中で買うの、
ホットドッグばかりじゃないですか。
糸井 今見るとまずそうなのに、
若い時は美味しそうに見えたの。
ちゃんとあっためたホットドッグとかって、
あんまりないんですよね。映画の中で。
ただ挟んであるだけで。
飯島 この本では、ちょっと焼いたキャベツを、
挟んだんです。フライパンを熱して
ジュッジュッて感じで、
ちょっと焦げ目がつくようなキャベツに、
塩こしょうをして。
糸井 焼きそばのキャベツに近い感じですね。
飯島 そうですね。それを挟んで。
パンはちょっと蒸し器で蒸して。
糸井 ふわっとさせて。
飯島 ふわっとさせて。
糸井 アメリカっていうものを象徴するごはん、
ポパイのウィンピーは‥‥ハンバーガーですね。
飯島 ハンバーガー、ホットドッグ、フライドチキン。
糸井 フライドチキンが出てくるのはあとですね。
藤原 フライドチキンはアフリカ系と南部なんですよ。
糸井 そうか。
藤原 日本に入って来たのはだいたい米軍が中心で、
まだアフリカ系の兵士が少ない時代でしょう。
だからホットドッグから先に入ってくるんですよ。
糸井 ケンタッキーが東京にできたぞという時に、
ぼくが勤めた会社で上司に当たるカメラマンが
「行こうよ」って言って行ったのを覚えてる。
飯島 そしてそのころはもしかしたら
デニーズができたてじゃなかったですか?
糸井 まだあとだね、デニーズ。
藤原 「Denny'sへようこそ」ってね。
糸井 デニーズとケンタッキーのスタートには、
たぶんちょっと差があるんです。
(デニーズの1号店は1974年、
 ケンタッキーフライドチキンは1970年)
藤原 その数年の差はぼくにとっては大きくて。
中3と高3くらい、違いますから。
デニーズは女の子を誘いに行くのに
車持ってるやつのため。
私には縁がなかったんです。
糸井 だから全部ごちそうだったんですよ。
Gパンを履くことがごちそうだったように、
デニーズに行くこともごちそうだったんです。
藤原 そうですね、そうそう。
ピザとホットドッグ、
ぼくはあげようがなかったのは、
子供のころ、アメリカで暮らしたときの、
本当のピザってこれだとか、
本当のホットドッグはこれだという
固定観念があるんです。
糸井 それはどこですか。
藤原 ニューヨークです。
具はなし、ただチーズがすごいピザ。
糸井 そういうのも、たぶん昔の自分が見たら
憧れだったんだろうな。
飯島 そうですよね。
藤原 アップルパイとかね。
ただあんまり見てる人が
そういうふうに自分の固定観念を持ってると、
映画としては邪魔になりますからね。
飯島 そうですね。
糸井 どうしても話が主食に主食にいっちゃいますね。
もう1個今思いだしたのも主食なんだけど、
主食をおもちゃにしてる映画があったんですよ。
タイトルがわからないけど──、
ジェーン・バーキンがパンを丸めて
机の上でおはじきみたいにしている
場面があったんです。
藤原 それ、見た見た。
悔しい、思い出せない。
糸井 あれはすごいインパクトがあって。
藤原 すごく安いアクションだった。おもしろかった。
糸井 俺はきっとこの変な場面を
一生忘れないだろうなって、
その時思いました。
その変さが魅力に見えたっていうのが、
ぼくにとってすごい新鮮で。
藤原 かっこよかったですよ。
それはね、私がつぶしてもだめなんですよね。
糸井 そうですね(笑)。
藤原 ジェーン・バーキンは食べ物なんか相手にしないで、
そういうわがままをするっていう、
それが金はかかるし身の破滅になるけれども
素敵な女という。
全然覚えてないけど、
主食の扱いがやっぱり
映画のキャラクターづくりに
一役買っていたんですね。
飯島 そう。確かに多いですね。
餃子なんかもある意味主食ですよね。
── だから、アジア映画が
すごく多くなっちゃうんです。
食べ物のシーンを探すと。
糸井 アジア映画には、
生活を描いているシーンが多いんですかね。
藤原 アメリカ映画にはないでしょう。
イタリア映画には少し出てきますけど。
飯島 そうですね。パスタとか多いですよね。
糸井 アメリカ映画って、
食い物を他の場面のついでに食べたりするでしょう。
俺はそれどころじゃないって感じで。
あれが日本ではちょっとないですね。
藤原 高級レストランにでっぷり太った弁護士が
酒宴を呼んだりするっていうと、
こいつは腐敗しきった悪いやつだぞ、
ここで飯食ってるんだよというその雰囲気だけで、
食べ物そのものにはカメラにもろくに入ってない。
糸井 料理より、料理を運ぶ人のほうがよく映ってますよね。
藤原 そうそう! それはありますね。
はっきり言っちゃうと、
どういう料理屋さんに呼ぶかということのほうが、
料理がおいしいかおいしくないかよりも
大事だったりする時があるのは事実ですね。
糸井 その「はっきり」はわかりやすいですね。
藤原 それと、あんまり食べ物にこだわるのは
恥ずかしいこと。
「お母さんが作ったからちゃんと全部食べなさいよ」
みたいな、そういうスタイル。
糸井 ローハイドっていうテレビドラマが
あったじゃないですか。
あれの中で「また豆か!」っていうセリフが
しょっちゅうあって(笑)。
「不平を言うんじゃない」
「豆だ豆だって文句を言うんじゃねえ!」って、
たしかに本当に豆なんですよ。
でも「俺はいいけどな」って思ったんです。
つまり見てる俺は「また豆か」でも
いいじゃねえか、って。
藤原 あれね、(胃袋に)入らないですよ。
糸井 入らないですか。うずら豆らしいですね。
藤原 うずら豆のほかに
いろいろなビーンズがあるんですね。
作ってね、(雑に盛りつけるしぐさで)バーン、
作ってバーン。これがご飯ね。
3日やってご覧なさい。もう‥‥ええ。
糸井 その豆、どこで食べたんですか?
藤原 大学の寮です。
寮の食堂でも、早い時間には
結構いいものが出てるんですよ。
でも授業が終わってからだと
もうそりゃすごいものがあって。
だいたいカチンカチンになった鶏肉で、
量は多いんだけど切れないの。
あれを食べるために、チキンを割いてね、
ピーナツバターが必ずあるから、
ピーナツバターに醤油混ぜて、
ごまだれみたいにして、
割いたチキンと合わせてました。
そのレシピは、ほかの学生から、
生き延びる方法として感謝されました。
飯島 すばらしいです。
藤原 だって食べれないんだもの‥‥。
で、そこに、豆があるの。
豆はみんなも食べたくはないんだよ。
残っちゃうわけ。
糸井 たしかに「また豆か」ってなりますね。
藤原 日本料理でそれがあるとしたら何だろうな。
日本人は結構食い物は
ぜいたくしてちゃんとしてますよね。
糸井 ちゃんとしてますよね。
江戸時代の町人というのは、
みんなほとんどが冷やご飯に水をかけて、
たくわんで食ってたという話。
じゃあどこがちゃんとして、
どこがちゃんとしてないかって。
つまり、アメリカ人にとっての
立ち食いのハンバーガーと
同じようなものっていうのが、
たくわんだったのかなと考えると、
あれ、大根をおかずにするって
ものすごい発想ですよ。
あんな水っぽいものをね。

(つづきます)

2009-10-30-FRI

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写真 山崎エリナ  協力 AERA編集部(朝日新聞社)

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