糸井 ドキュメンタリーで
役者を追っかけるみたいなことが
あるじゃないですか。
小林 あぁ〜。
糸井 そうすると、ドキュメンタリー用の
役者の仕事っていうのが出てきちゃうわけで。
小林 でしょうね。
糸井 で、それを見てると、
素人はやっぱり感激しちゃったりするわけですよ。
小林薫さんが今度の役に合わせてね、
毎日腕立て伏せを3,000回してます、
「いや、舞台、当たり前ですから」とか言うと、
やっぱり! って思っちゃうけど、
どうでもいいじゃない、そんなことは。
本当は違いますよね。
でも、そのドキュメンタリー用の
人格みたいなのが今度もう1個の
仕事になっちゃうと、よくねぇなぁと思う。
小林 プロモーションになってたりするから。
糸井 なっちゃう、なっちゃう。
小林 ねぇ。どうなんですかね。だから。
糸井 言える役者の人には、
俺は「そういうのはいやだよね?」って言うと、
わかりますよね。
で、それで人気が出ちゃった人なんかでも、
本当は知ってますよね。たぶん、結構。
小林 うん、うん、うん。
糸井 だから、うーん・・・・、なんだろうなぁ。
本当のことを言おうよ、
みたいな気がちょっとするね。
小林 そのへんのところと、
そのさっきの鵺みたいな、
掴みどころのならないセンスと、
ちょっとこう交錯するところがあって。
糸井 うーん。
小林 「正直に言おうよ」って言って、
じゃあ、演じられるかっていうと。
糸井 そうだよね。その通りだ、その通り。
小林 それがつかないんですよね。
糸井 その通りだ、その通りだ。
この間、前川清さんに会ったら、
「本当に歌は僕は好きじゃない」
みたいなことを平気で言うんだけど、
歌えてるじゃないですか。
寝ちゃう人を前に
歌ってるらしいんだよ、やっぱり。
地方なんか行くと。
団体客が来て、場所取りのときだけ
一所懸命なんだけど、
歌い始めたら寝てた、みたいな。
小林 体力、公演前に使っちゃうんだね、
その人たちは(笑)。
糸井 起こすのが仕事になっちゃったり
するらしいんだよね。
小林 ああー。
糸井 だから、おもしろいこと言ったほうが
いいんじゃないか、みたいな。
でもそうなると、
歌ってて「うまいね」とか、
「いいね」とかっていうのは、
もうどっか行っちゃうわけで。
そこで鍛えられるものもあるけど、
同時に、いやだろうなっていう面もあるよね。
両方ですよね。
小林 女優さんで、むかし歌い手だった人の話で、
キャバレー回りとかやった人たちがいるでしょ。
やっぱり行きたくないんだけれど、
行かざるを得ないんですよ、仕事の中で。
その人も歌手時代、
もう本当にいやだったって言うんですよ。
歌いたくなかったって。
その地方のちょっとしたキャバレーで歌ってると、
「1番と2番の間で、どこそこに
 地元の親分が来てるから」。
糸井 ああ、はいはい。
小林 「そちらに向かって礼をしてください」
とか言われるらしいんですよ。
そういうのが、もうとってもいやだったと。
俺たちは、その世界と全然違うんで、
ああ、そういう人たちは
ヒットなり飛ばすとかっていうために、
そういうようなものをもう含んで飲んで
やってきたんだななと思って。
終わってから、「待ってますから、
顔出してください」と言われても
女の人は「私は行かない」って言えるんですよ。
でも男って、断りきれない。
糸井 なるほどねぇ。
小林 男って、「いや、僕は」って言うと、
角の立つ具合が女性と全然違うでしょう?
糸井 うん。
小林 その人の場合は、
迎えに来た子分が
帰らなかったんだって(笑)。
糸井 うーん。だから、その我慢が作ったものって、
歌を上手にすることでもなんでもないんだけど、
少なくとも人の経験してない何かには、
──風には、当たってますよねぇ。
小林 そうですね。何かと引き換えにっていうか。
それが昔の大衆歌謡というか、
あの成り立ちをしてた部分なんじゃないですかね?
それを全部きれいにして、
じゃあ、ニューミュージックの人たちは
そんなのまったくないんですよっていってやったら、
歌もきれいだし、声もいいし、曲もいいんだけど、
そういう味わいとしての歌になるかといったら、
またちょっと趣き変わるでしょう?
糸井 人には、こういうことを考える可能性が
あるっていうことをわかってるっていう
大きさになるよね。
小林 それで失ってるものもあるんですよ。
その人、それもわかってるんです。
そして、何を獲得したかわからないけれども、
歌声とかっていうのも変わってくるし、
悲しさの意味がまた変わってくるし。
糸井 アメリカでいえばさ、
ある時代にそういうものが
ものすごく濃くありますよね。
たとえば、フランク・シナトラは、
『ゴッド・ファーザー』の中に出てきますよ、
みたいなことですよね。
じゃあ、マドンナはどうなのかっていったら、
同じものも持ってるけど、
シナトラじゃない枠組みじゃないですか。
同じようなことはしてるんだけど、
変化はしてますよね。
小林 それはそうですよ。
だって、それは画家でも
宮廷画家は世界が全然違うし、
あの絵を描けるかっていったら、描けないし。
「昔じゃないからね」っていうことに
なっちゃうから。
糸井 ものすごくグラデーションで
変わってるんだろうね。
小林 そうそうそう。変わってますよね。
ゲンペイ(赤瀬川原平)さんなんかも
そういうの書いてたけど、
印象派の絵ってちょっと絵心があれば
描けそうじゃないですか。
筆力だけでいえば、
描けるんじゃないかなと思うんですよ。
だけど、描けないじゃないですか。
再現できないじゃないですか。
糸井 叫びのように、あんなものはできたんだよね。
小林 ねぇ。その勢いみたいなものは
いくら筆力があっても、
今の人は再現できない。
同じことで、美空ひばりさんとか、
森繁さんみたいな人って、
もう絶対再現できないですよね。
糸井 黒柳徹子さんが、
みんなの語らない森繁さんを語ってるんですよ。
ちょっとしか喋ってないんだけど、
やっぱりそこは、息を飲むんだよ。
黒柳さんが見てる森繁さんって、
やっぱりものすごい愛情に溢れててさ。
で、黒柳さんの前での森繁さんがいて。
調子のいいことやってるんだけど、
あ、好きなんだな、両方っていう感じが、
読者に伝わるんだよね。
小林 うーん。
糸井 それはおもしろかったなぁ。
飯島 どうぞ、カレーです。
糸井 うん。いただきます!
小林 いただきます。
飯島 どうぞ。
糸井 ものすごくおもしろいなぁ。
小林 (カレーを食べて)
あら、あら、あら!
糸井 おお、いいじゃない?!
小林 これは、その秘密のスパイスは
入れてないんでしょ?
飯島 あ、ちょっと入れました。
小林 あ、入れた?
飯島 大さじ2杯くらい。
小林 この主にピリッとくるところがそうですか?
糸井 ピリは違います。
小林 ピリは違う?
糸井 香りですよね。
飯島 コリアンダーですよね。
糸井 うん。
飯島 入ってますよね、いっぱい。
糸井 コリアンダーも入ってます。うん!
小林 飯島さん、これ、基本的には、
普通の市販のルーをベースに使ってるの?
飯島 そうですね。はい。
小林 「こくまろ」ですか?
飯島 「ジャワカレー」と、
「ディナーカレー」です。
糸井 うまい。
飯島 ちょっとメーカーを変えて。
小林 で、要するに、
1個で作らないっていうことですか。
はぁ、はぁ、はぁ。
糸井 うまい! うまい、うまい。
飯島 よかったです。
『LIFE』でつくった
「パパカレー」に、
スパイスをいろいろ足してみました。
それからすごく辛い生姜があったので、
最後にすり下ろして入れたりしました。
糸井 ああー。
飯島 そして、辛いかなと思ったので
ホワイトアスパラと昆布の吸い物を。
糸井 これね、『LIFE』のよりスパイシー。
おいしいです。
飯島 本当ですか?
糸井 うん!

(つづきます)


2010-07-05-MON


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