その19 今の俺を助けてくれるもの。
糸井 分(ぶ)ですよね。
自分の背丈ですよね。
背丈が見えなくなってるっていうことですよね。
小林 あ、同時にあれじゃないですか?
なんかリスクがなくて──わかった。
僕ら劇団入るとかっていうのも、
何か、捨てるものがあるし、
何か断ち切るとか。
糸井 そうだね。
小林 そういうものを背負って、やってるうちに、
訳のわからないことがおぼろげに、形になって、
やっと見えてくる時期って、
1年後とかに、あるじゃないですか。
飯島 はい。ありますね。
小林 で、僕が頑張るのはこっちの方向かな?
と思えるようなことを、自分で見つけていく。
形でね。でも、その人たちって、
学生の身分で何もリスクもないし。
それで名刺交換して何か教わるって、
既に教わるっていう態度じゃないですよね。
飯島 そうですよね。
糸井 (笑)たださ、そういう中から、
あのぅ、なんていうの?
悪くないホリエモンとかだって
混じってるわけじゃないですか。
小林 悪くないホリエモン?
なんかホリエモンもずっと見てると、
そんな悪いやつだったのかなって
思いにもなるんですけど。
糸井 つまり、僕たちは何かできるはずだ!
って信じてる馬鹿さみたいのが、
走っていくには必要で、
それってあんまり大人だと
やっぱりできないんですよね。
小林 ああ、はい。
糸井 それは自分の側に欲しいものですよ。
小林 今の糸井さんにですか?
糸井 うん。
小林 それは無理でしょう、もう。
糸井 もう無理なんですよ。
小林 要らないでしょう?
糸井 いや、欲しい。
小林 突き進む?
糸井 うん。欲しいねぇ。
小林 これ以上まだ何が欲しいの?
そういうの、年寄りの冷や水っていうんだよ。
そのね、年とってから傷つくと、
傷がうずきますよ、それは。
糸井 そうかね。
ここ打っちゃった、みたいな(笑)?
小林 みたいな。若いときみたいにはさ。
糸井 だけどさ、会社の子たちが、
年寄りに育てられた子どもみたいに
なってくるんですよ、たぶん。
俺はそれを懸念してるんですよ。
小林 年寄りに育てられた子?
糸井 つまり、Aがある、Bがある、
Cがあるっていったときに、
AでもBでもやりゃいいじゃないか、
っていうのが若い子。
小林 それは糸井さんの知ったこっちゃないでしょう?
糸井 いや、そんなことない。
小林 でも、それはそこまで責任持てないでしょう?
糸井 いや、持つべきだと思うよ。
小林 本当ですか?
糸井 けしかけるぐらいにならないと、
どんどん爺むさくなるよ、若い人が。
小林 山本夏彦さんって、
『室内』っていう雑誌を作ってた方がいらして。
社員のスタッフから見れば。
当然おじいさんですよね、
でも、それはその人たちの問題で、
山本さんの問題じゃないような気がしますけどね。
糸井 いや、やっぱり運命共同体だからね。
小林 うーん・・・・。
糸井 俺がそれ見てたら、
その変なことをさせなかったかもしれないな、
っていうことがおもしろい時っていうのは、
やっぱり一番嬉しいんですよ。わかる?
小林 うん・・・・、うん。
糸井 俺がいたら、止めたろうなっていうようなことで、
おもしろいじゃないかっていうものが出てくるのが
一番嬉しいんですよ。
小林 うん、うん、うん。
糸井 で、そういうことがどんどん出てきて、
どんどん俺が取り残されていったほうが
おもしろいんですよ。
小林 うん、うん。
糸井 そのムードを作るためには、
孫を育てるみたいに、
「ここはこうやって囲いすればいいんだ」
みたいなことを、俺がついやっちゃうのを
やめなきゃならないんですよ。
小林 あ、そう。だから、
褒めるだけにすればいいじゃないですか。
「お、いいね」(拍手)。
褒め倒して。
「俺はわかんないから、もうやっていいよ」って、
もうそれしかないじゃないですか。
放し飼いにするしか。言ってみりゃ。
糸井 どうなんだろうね?
小林 かっこいい言い方すれば、
「最後俺がケツ拭いてやるから」
っていうような言い方しか
もうなくなるよね?
糸井 ていうケースもあるよね。
で、やっぱり今ってさ、
AをすればBが角が立つみたいなことって
ものすごくみんな敏感になってるから、
やっぱりどんどんちょうどよく
上手になってますよね。で、それに対して、
「それだとちょっと食いっぱぐれるんだよね」
っていうのは、
俺は言わなきゃいけないんですよ、たぶん。
小林 ふぅん。
糸井 で、それはちょっと
自分の中に乱暴な要素が入らないと、
もろともですよね。
小林 うーん・・・・。
糸井 だから、薫ちゃんがやってる、
自分が役者としてどうのこうの
っていうのよりももうちょっと
面倒くさいものだとは思うんだけど。
小林 うーん、うーん。
糸井 その、男の子成分で乱暴するみたいなことって、
年取ると、「もうそれ散々みんなやってきて
失敗してるんだよ」って言いたくなるような
ことばっかりなんだよ、きっと。
小林 うーん。
糸井 だけど、だからできるみたいなことっていうのは、
ちょっとさかのぼって自分がやったこと見てても
やっぱり、あ、何も知らないからできたんだ、
っていうのはいっぱいあるからね。
だから、そこは自分が年取って
孫みたいに人たちとやっていくときは、
相当、変なジジイになんないと。
小林 いや、それってさ、そうなんだけど、
本当に知らなかったのかな?
知らない振りしてるんじゃないかな?
糸井 知らなかったことは多い。
小林 でも、一事が万事っていうところもあって。
それは全部知らないのは当然なんで。
だけど、ものの道理から言うと、
これがこうなってきた、
およそこういう仕上がりが見えるな
っていうようなことも、
またそれは予見できるじゃないですか。
糸井 あのぅ、あえて言えば、わかんなくっても、
そっち行って大丈夫だよ、
なんとかなるよっていうのはわかるよ。
小林 うん。
糸井 だけど、つまり、
懐中電灯も持ってないのに洞窟入ったんですか、
みたいなことは散々やってますよね。
小林 うーん。
糸井 で、今だと、懐中電灯要るよねっていうのが
思いついちゃいますよね。
で、そこは、懐中電灯のない時代の自分っていうのが、
今の俺を助けてくれてるわけだから。
小林 なるほど。うん、うん。
糸井 結構大きいですよね。
小林 いいじゃないですか。
もうそんな大きくならなくても。
糸井 (笑)。
飯島 (笑)。
小林 もう。それは懐中電灯の話すれば、
劇団なんか、僕らそれこそ
トラックの荷台に隠れて移動してたじゃないですか。
糸井 はぁ〜。
飯島 ええ〜?
小林 巡業。今みたいに小劇場の人が
新幹線やバスで移動することはなかったから。
僕たちは荷台。
テントとか、食材とか、食器とか、セットも全部、
照明とか入れたこんだなかに隙間を作って、
俺たち下っ端の劇団員は、そこに入って
九州まで行くんですよ。
飯島 ええ? 九州? 大変ですよね。
小林 事故起こして横転したら、死人の1人や2人出て、
それだけでもう公演どころか、
劇団飛びますよ、今だったら。
糸井 あの時代に既に変なのよ。
小林 変なんですよ。変を売り物にしてるから。
その後の世代のやつらに
「移動、どうしてる?」って言ったら、
「え? 新幹線ですけど」って言われたときに。
糸井 がっくりだよね(笑)。
小林 なんかね、夢の話みたいな世界になって。
糸井 新幹線って夢みたい(笑)。
小林 南のほうで公演やって、
5月くらいに戻ってくると、
幌の中、蒸し風呂みたいになるんですよ。
糸井 パレスチナとかも行ってるもんね?
小林 はい。
糸井 (笑)。
飯島 ええ〜?
糸井 笑うしかない。そういうのを、今だったら、
「そんなことしなくても新幹線あるんじゃない?」
っていうことは言えるんですよ。ね。
だけど、「幌っていうの、どうだろう?」
っていう人がいないと、
やっぱりおもしろくないんだよ。
小林 おもしろいのかなぁ。
糸井 おもしろいよ、やっぱり。
あのときだって。
だから状況劇場だったんだもん。
小林 うーん・・・・。
糸井 そこはね、みんながね、
ちょっとずつ上手になって、
下手なところをわざと作るぐらいにしないと。
小林 そうですね。でもあのころから、
唐さんわざとっぽかったからね。
糸井 当時、わざとですよ。
その貧しさがひどいもん(笑)。
紙を焼いて食べるとかっていうのをさ、
お友達が考えたりするようなさ。
一同 (笑)。
飯島 ええ〜?
糸井 あれ、わざとなんだよ。
「紙をね、焼いて、こう食えば、植物なんだから」
みたいなさ。
飯島 お給料はあったんですか?
糸井 ない。
小林 ないない、そりゃ。
飯島 あ、ないんですか。
小林 いや、後に出てくるんですけど。
私は若干貰いましたけど、いわゆる無給です。
糸井 それは大変なことです。
‥‥あ、俺、次の仕事があるわ。
じゃあ、これで。
小林 どうも、どうも、
お話いっぱいしましたんで。
糸井 ごめん、ごめん。
小林 ありがとうございました。
糸井 ありがとうね。
酒場のオヤジって楽しいなぁ(笑)。
(おわります。ご愛読、ありがとうございました!)


2010-07-21-WED


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN