その18 済んじゃった道。
糸井 薫ちゃん、状況劇場を
出たとき何歳だったの?
小林 28なんですけど、
9になる直前だったんじゃないですか。
糸井 はぁー。
飯島 私も近いです。28です。
21歳ぐらいからで。
小林 ああ、そう。
糸井 つまり、30の前だ。
小林 30の前ですね。
糸井 あぁー。あぁー。そのころは、ある年なんだな。
自分としてもな、きっとなぁ。
成熟としてもそうなんだろうね。
小林 うーん・・・・。
糸井 30成人説ってあるじゃない?
「20歳成人だけど、
 実際には今ってものすごく社会が
 高度になっちゃって複雑化してるから、
 成人って30だよ」って、
俺はよく人に言うんだけど。
小林 うん。
糸井 30前のことはもうだいたい未成年だからって
いう考え方をすることはできると思うのね。
小林 僕もなんとなく思ったのは、
20代は取り返しがつく。
なんかもう1回、別のことやるにしても、
チャレンジするにも、
漠然とただ劇団を変わるのでも。
劇団をずっとやってて、
役者やってるのが偉いっていうわけじゃないし、
芝居が特別偉いわけじゃないから、
そんなもの別に変わるものがあったったって、
おもしろがれるんだったら、
なんでもありだし、っていうふうに思ってたし。
飯島 わかります。私も独立する前は、
先生についてたから、
いろんなCMの現場とか、
大きいCMとか行って、
すごく楽しかったんですけど、
自分が1人になっても
そんなのきっと来ないと思ったんで、
屋台のコーヒー屋さんをやろうと思って。
糸井 はぁー!
飯島 代官山の屋台のコーヒー屋さんに
いろいろ話聞きに行ったり。
糸井 ほぅ、ほぅ、ほぅ。
飯島 で、屋台のコーヒー屋やって、
もしCMの仕事が来たらやろうかなとか、
そんな感じで思って。
糸井 実際にはその屋台はやらなかったの?
やらないで済んじゃったの?
飯島 はい。
小林 済んじゃったりするっていうことが
大きいんですよ。
済んじゃったら、済んじゃった道に
なるわけじゃないですか。
糸井 済んじゃった道ね。
飯島 でも、何年かしてレストラン学校に通って、
そこの仲間同士で
屋台をやりたかったっていう人が集まって、
10人ぐらいでお金出して
屋台の車買ったんですよ。
小林 うん。
飯島 で、今もあるんですけど、
時々、イベントでみんなで屋台やるんです。
小林 屋台の車って。
飯島 軽の。
糸井 ホットドッグ屋みたいなやつね?
飯島 そうです、そうです。
みんなで10万円ずつぐらい
出し合って買ったんですよ。
イラン人の人から(笑)。
糸井 薫ちゃんの馬みたいだ(笑)。
小林 (笑)それは生み出せますよ。
糸井 飯島さん、6年、先生についていたんだぁ。
先生がいた時代って、
俺はほとんど知らないから、
ちょっと想像がつかないんだよねぇ。
小林 でも、振り返って、
たとえば20代前半とかっていうのは、
ああ、結局この人が師匠だったのかな、
あるいは先生だったのかっていうのは
あるんですか? そういうのはない?
糸井 先生だらけとも言えるし。
小林 だらけですよね。
ああ、そうですね。
糸井 だから、俺はわりに無条件で
「いいなぁ」って思っちゃうから、
先生だらけでしたね。
小林 うん。そうそうそう。
僕も劇団辞めた後に、それに近い、
先生だらけだなという気持ちになりましたね。
糸井 フリーで生きていくのは
それかもしれないなぁ。
飯島 そうかもしれないですね。
糸井 飯島さんはね、
平気で他の料理人にね、
メモ持って話聞くんだよ。
小林 へぇー。
飯島 (笑)そうなんです。
糸井 料理人対料理人じゃないの。
飯島 私はレストランの料理人っていう経験がないので、
そういうことを聞くのが大好きなんです。
糸井 あれ、メモしてた側の勝ちですよね。
最終的に。
小林 料理人っていうのは、
そういうときに素直に
ちゃんと教えてくれますか?
あるいは、決定的に言わないものって
あるんですか?
飯島 言わない人もいますね。
でもこの間お聞きしたシェフは
なんでも教えてくれました。
もう自分のノートとかも全部見せてくれて。
小林 いい人ですねえ。
糸井 人に何か聞いてもらうって、
やっぱり嬉しいことでさ。
「年寄りがそういうものなんだよ」
っていうのは吉本(隆明)さんが
言ってたんだけど、
俺もそれ、自分もそうだし。
聞く耳さえあれば生きていけるよね。
飯島 この人はあんまり聞かれると
いやだろうなっていう人には、
見て、あ、こうするんだ、とか、
そういう感じで勉強して。
小林 なるほど。いや、でも、
ふたりはレベル高いですよ。
飯島 そうですか?
小林 なぜこんな話するかっていったら、
僕、この間、買い物から出てきたら、
「小林さん」って呼び止めた人がいて。
22、3ぐらいの青年で。
「小林薫さんですよね。
 いつもドラマとか観てます。
 お話1つ聞いていいですか?」と言うんですよ。
「自分は、つい最近、
 北海道から出てきたばかりで、
 新聞配達しながらタレント養成所に
 通ってるんです。
 あのぅ、教えてもらえないですか。
 役者にとって、1つあるとすれば、
 なんでしょう?」
みたいなことを言うんですよ。
一同 (笑)。
糸井 それは、それは違うなぁ。
飯島 何か漠然としすぎてますね。
糸井 何が、どこが違うんだろうなぁ。
小林 でも聞こうとしてるんですよ。
糸井 いや、その通りだけどさ(笑)。
小林 「俺、ちょっと急ぐから」って
言おうと思ったんですけど、
なんか妙に、まぁ、すれてなくて、
真面目だけど、ちょっと勘違いしてるなと思って。
でもまぁ、あのぅ、どう間違って
立派な人になるかわかんないから(笑)。
一同 (爆笑)
糸井 そうですね。うん。俺もそう思うよ、きっと。
小林 「同時代の人の芝居でもいいし、
 映画でもいいし、
 いっぱい見ることじゃないか?
 同じ世代の友達のことを」
糸井 いいアドバイスですねぇ。
小林 「なんかもうわかんないけど、
 その人たちはどんなものを
 おもしろがったりするのかっていうことって、
 大事なことだと思う」と。
「はっ? ‥‥それは?」みたいな。
糸井 まだ行く(笑)?
小林 うん。要するに、で、僕はそのときに、
「俯瞰でものを、自分を、
 見るっていうことも大事だから、
 一所懸命自分がなるっていうことも
 大事かもしれないけど、
 そこから見えてることって狭かったりするから、
 それを、たとえば──」
飯島 真面目に答えてますね(笑)。
糸井 ちゃんと言ってるよ。
小林 「上の辺りから眺めるようなことも大事じゃねえか」
って言ったら、
「‥‥俯瞰でものを?」って、
言われたたびに返してくるの。
飯島 でも、おもしろいですね。
小林 本当に。なんか災難が待ってたみたいになって。
で、俺、次に行くところがあったんですよ。
「僕、ちょっと行かなきゃいけないんで」
って言ったら、
「じゃあ、じゃあ、じゃあ、もう1つ」。
糸井 ああー。
小林 「あのぅ、これからも電話してよろしいでしょうか。
 携帯の、携帯のあの」
飯島 えっ?
小林 番号交換をしようとするんですよ。
「いや、僕、本当に忙しいから」
そういうふうに15分間ぐらい喋りましたよ。
糸井 15分も?
飯島 すごーい。
小林 やっぱり「教わる姿勢を教わっとく」
って大事なことですよね?
糸井 うーん・・・・。薫ちゃん、
そういうの聞かれやすい顔してたのかねぇ?
小林 いや、なんか僕ね、たまたま、あのぅ・・・・。
糸井 油断があったんじゃないか(笑)。
心の隙ができてたんだ。
小林 そうなんですよ。
僕なんか今までそんなふうに
声かけられたことないんですよ。
糸井 大学とかに行くとね、そういう方々がいますよね?
生意気な大学だと、
「名刺交換しませんか」って言われるよ。
それもすごいなぁと。
「糸井さん、名刺お持ちですか?」とか言って、
こう出される。
「僕はなんとかなんですけど」って。
小林 それも勘違いしてますよね。
糸井 すごいよねぇ。うーん・・・・。
小林 たぶんそういう人は何も学べないって気がしますよね。
糸井 うーん。いや。断言はしませんけども、
学べてなるものか!
って思いますよね(笑)。
一同 (笑)。
小林 なんなんだろうなぁ。
糸井 なんだろう?
(つづきます)


2010-07-20-TUE


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN