その17 状況劇場を辞めたとき。
小林 (状況劇場にいたのは)
今から思えばそんな大した時間じゃないんだけど、
──劇団に1年、2年いて、
そのまんま(将来が)見つからない、
東京に、そういう人多いじゃないですか。
糸井 うん。
小林 そうすると、本当に石投げたら
演劇志望なんているわけだから。
そうすると、自分でなにか見つけるなんて
そんな力ないから、
誰かに何かを教わってるんですよ。
で、教わる姿勢がちゃんとこっちにはあって。
そういう対象がないと、そんなうまい具合に、
なんていうんだろう、
導かれたりとかしないですよね?
糸井 あ、少なくともさ、先輩方とか、
唐さんに対してさ、その小林少年はさ、
尊敬してたわけでしょう?
小林 そうですよね。
糸井 それなんだ。俺、今日、
ちょうどその話を昼間してたんだけど。
小林 ええ。誰にですか?
糸井 社員に。
小林 「俺のことを尊敬してねぇだろう」
って言ったの(笑)?
小さい男だな、これ。
一同 (笑)。
糸井 勝手に脚色してるようだけど!
一同 (笑)。
糸井 上から下もあるんだよ、尊敬って。
小林 うん。
糸井 馬に対してもあるじゃない?
「それさえあれば大丈夫だ」って言ったの。
小林 いや、それが難しいんじゃないですか?
糸井 劇団辞めなかった理由って、
それを持ててたし、
持ち続けてた子が残ってて。
で、そこが途切れた子は、
やっぱり辛いから離れていくんだと思うね。
小林 あのぅ、何かを学ぶとか、
学ぶっていう意識はなくてもいいんだけど、
結局そんなの20歳やそこらのときに
何を学ぶかっていうこと自体が
わかってないでしょ?
糸井 わかんない、わかんない、わかんない。
小林 そのことを学ばなきゃいけないんで。
糸井 うん、うん、うん、うん。
小林 そうすると、学校の勉強みたいに、
このステップがあってっていうんじゃなくて、
本当にこう、あるとき、あれ? っていう。
こういうことかな?
っていうふうなわかり方をしないと、
飯島 ああ、わかります。私も、
先生に6年半ぐらいついてたんで。
糸井 あ、そうか。お弟子さんをやったからね。
小林 その前に辞めちゃったりすると、
本当は学ぶべきことを学ばなきゃいけないのに、
もうずっと学ぶとば口っていうんですか、
それがもうわからないまんま、
迷子になっちゃいますよね。
糸井 うん、うん。
飯島 そうですね。
糸井 逆にいえばさ、6年いようが7年いようがさ、
そこにいられるけれども、
出られないっていう状況もあるじゃないですか。
小林 そうそうそうそうそう。
糸井 だから、何度かその都度
選択肢がっていうか、
道が分かれていくんだと思うんですよね。
小林 だから、僕、自分で勝手に思うんだけど、
ちょっと残ったやつがいるんですよ。
「もう辞めちゃえばいいじゃないか」
って僕は言うんですね。
ところが踏ん切り悪いやつで、
「いい、それでも」とか言うんだ。
「でも」って、
「結局、おまえ、この状態変わんねぇんだからよ、
 辞めちゃえよ。辞めるしかねぇだろう」って、
僕ら辞めた側で、クマちゃん(篠原勝之)と2人で
よくそいつを責めてたんですよ。
で、結局、なんだかんだ、
そいつは3年間ぐらい残って、
その間愚痴を言うんですよ。もう愚痴っていうか。
飯島 ああ、わかります、わかります。
小林 「いや、またこんなことがあった」
相も変わらないことを、僕らも経験してたし、
その経験の話をまたするんだけど、
そうすると、僕らはもう辞めた手前だから、
「だから、もう結論は出てる。辞めちゃえよ」
とかって言って。
「でもぉ、でもぉ」って言ってたんですよ。
糸井 (笑)。
小林 その「でもぉ、でもぉ」の3年が、
単なる3年じゃないなと思いますね。
糸井 そこで自分を決めちゃうぐらいの、
型にはめちゃうみたいな3年になるの?
小林 結局人って、
踏み出さなきゃいけないときって
あると思うんですけど、
そのタイミングがずれちゃった場合、
あるいは、学ばなきゃいけないさえも
わからないまんま辞めちゃうと、
もう引っかかりもくそもなくなっちゃうんですよね。
時期とかタイミングがずれると、
辞める場合でもかなり難しいことに
なっちゃうのかなぁっていうふうには思いますね。
糸井 あのぅ、薫ちゃんたちが辞めたっていうのもさ、
唐さんの、その組織をやっていく限界でも
あったとも言えるじゃないですか、今になれば。
小林 そうですね。
糸井 つまり、唐さんにはそのサイズしか
できなかったっていうことがあるわけだから。
ジョージ・ルーカスだったら違うわけで。
小林 そう。だから、唐さん的サイズが、
時代とともに結構周りが変わってきたために、
唐さんの器はたとえば同じにしても、
同じようにならなくなっていったんですよ。
で、僕らはそんなこと考えて
辞めたわけじゃないんですけども、
それがそのタイミングで辞めるときには
パンと辞めないと、
もうちょっとこう景色がちゃんと見れないというか。
そうすると、それで3年間ぐぅっとなってくると、
なんていうんですかね?
自分の感覚みたいなものを
大事にして辞めていくのと、
もう決定的に知らされて、
周りが全部気づいたことをやっと気づいた状態で
辞めちゃうと、なんかそこに、
こいつのなんか内面的に働く何かがこう‥‥。
糸井 飛び石がないよ、もう。
小林 なくなっちゃうんですよね。
だから、フッと辞めていくっていうのも、
またすごく大事なんだなと思いますね。
糸井 あのぅ、希望があって辞めたわけじゃなくて、
やっぱり丈に合わなくなって、
いられないなと思って辞めてるわけだから、
薫ちゃんたちは。
小林 うん。そうだな、もうできないなと思ったら、
もう事情も働いちゃったんですけど。
それぞれいろんな理由なんかあると思うんだけど、
僕は、それまで辞めた人は、
根津(甚八)さんにしてもその理由があって。
決断としてはもしかしたら早かった人もいれば、
いろんなタイミングってあるんだなと思うんですけど、
自分を軸にして言うと、
だいたい遅いやつはことごとくなんかちょっと、
タイミングをずらした人だなと思うんですよ。
そうすると、周りが気がついてるのに
自分だけが気づいてなかったっていう、
ちょっと取り返しのつかないことに
なっちゃうような気がするんですよね。
飯島 もったいない感じの人いますよね。
糸井 3年いたんだ?
小林 3年いましたねぇ。
糸井 ずっと、だから、仲良くやってた仲間だけど、
そこで方向性はもう違うんだよね?
小林 そうなんですよ。
同じ辞めたっていう同士なんだけども、
近い関係の後輩の演劇とか
手伝ったりしてるんですね。
でも、僕、
「それってもっと断ち切ったほうが
 いいんじゃないの?
 そうしないと、もっと自分の中で
 新しいものとか展開とかならないから、
 思い切って断ち切ってやったほうがいい」
とは言ってたんだけども、
見ると、同じように辞めていったやつらが
結成したお芝居の手伝いとかしてるんですよ。
飯島 はぁー。
糸井 それは、あれが同じだよ。
全共闘を種に集まる人と同じだよ。
小林 うーん。
糸井 みんなずぅっとその話してるよ。
小林 うーん。
糸井 いつまでたってもその匂いの
するところに集まるよ。
それはきついよ、やっぱり。あ
釣り雑誌のやつに聞いたら、
釣り雑誌の人たちって酒飲んで酔うと、
どっちが釣りが好きかで
いつも殴りあいに近い喧嘩になるって。
小林 うそ。うそ、本当?
糸井 つまり、そいつが言った話なんだけどさ。
でも、わかるんだよ、俺それ。
「俺のほうが好きだ!」
っていうのが上なんだよ。
小林 なんか俺なんか
どうでもいい話だなと思うんだけど(笑)。
糸井 (笑)。
小林 へぇー。
糸井 だから、そういう居心地もいいし、
外に出られないときには
そうなるんだろうなっていう気がするよね。
小林 うーん・・・・。僕はね、それがね、あまり、
素敵なことと思わなかった。
一所懸命やってても実入りがない、
お金がそんなに入らない仕事であるけども、
なんか素敵な仕事だなって思えないと。
澱んでるような。
なんか切れてない、
金魚のウンコみたいについたまんまだし。
全然自分の中でこう、
踏ん切りが利いてないなと思ったんで、
とてもそういうのがだめだったんですね。
(つづきます)


2010-07-19-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN