飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その2 勘違いしたのがきっかけで。
荻上 もともとはすごく写真が好きで
写真をやっていたんですけど、
じぶんよりうまいひとがいっぱいいるって思ったら
なんかヤになってしまって。
糸井 なるほどなるほど。
荻上 で、映画にいったんですけど、
監督になるつもりは全然ないまま
アメリカの映画学校に入りました。
そこがすごいスパルタ教育で
全部勉強させられたんですね。
わたし、理数系だったもので、
高校生くらいからもう
文章書くなんてしたことなかったのに、
脚本を書く授業とかがあって
無理矢理書かされて、
もう泣きながら、
書けない書けないって言いながら、
でもやらなきゃいけなくて、やっていたら
だんだん脚本書くのがおもしろくなってきて。
糸井 おもしろくなってきたの!
荻上 ええ。
それで書いたら撮ってみたい!
って思うようになって
それで始めたら今度やめられなくなってしまって。
これは宣伝のあるひとが言っていたんですけど、
映画はすごい麻薬みたいなものだと。
一回やってしまうと、
そこから抜け出せない何か、
麻薬のような力があるような気がします。
糸井 じゃあ、かなり距離はあったわけですね、最初は。
映画にたいして。
荻上 そうですね、もう全然興味もなかったですし、
観てもいなかったですし。
糸井 え、観てもいなかったの?
荻上 はい。あんまり。
糸井 映画学校に行く前に好きだった映画って
なんですか?
荻上 一番最初に中学生のときに
男の子とデートで観に行ったのは
『グーニーズ』です。すごく好きで。
糸井 『グーニーズ』、いいですね!
荻上 初めてひとりで観に行った映画は
『スタンド・バイ・ミー』です。
糸井 少年たちの映画が続きますね。
荻上 そうですね。
糸井 『バーバー吉野』も少年たちの映画でしたね。
べつに無理につなげることはないんだけども。
荻上 や、でもたぶんそれはあったと思います。
糸井 いま言われてみれば、
いつでもこう、こども心っていうか、
おとなにはわからないような
世界みたいなものが
空白として表現される、
そういうものがお好きですね。
荻上 そうかもしれないです、はい。
糸井 映画学校に行くと、
だれでもが映画を
撮りたくなっていくんですか。
荻上 みんな映画を撮りたかったと思うんですけど、
いま撮ってるのは数人しかいなかったりします。
糸井 そうですか。
ということはやっぱり何かの理由で
辞めていってる。
で、撮りたくはなかったはずのひとが
こうして残ってるんだ。
荻上 はい(笑)。
糸井 もっとさかのぼると、
写真を撮りたかったのは‥‥。
荻上 なんか‥‥、うーん、
家族でどっか行って、
ぴこぴこ撮ってたら
それが意外とよかったりして
「才能あるんじゃない?」
みたいに勘違いしたのが最初です。
糸井 それはちっちゃいときですか。
荻上 そうです、中学生の後半ぐらいとか、
そんなもんです。
糸井 才能あるんじゃない? って思えた。
荻上 思えた‥‥ていうか
勘違いしたのがきっかけで。
飯島 荻上さんは、写真を勉強しようと思って、
写真そのものの学校に
行っちゃったんですよね。
糸井 写真そのものの学校?
さっき理科系とおっしゃったけど、
そういうこと?
荻上 アラーキーさん(荒木経惟さん)の
後輩なんですけど、
写真を勉強したくて大学に入ったら、
勉強したことは、
フィルムのエマルジョンがどうのとか、
レンズの屈折率がああだこうだとか
よくわかんないことを‥‥(*)

*荻上直子さんは千葉大学工学部
 画像工学科の出身です。

糸井 それでよかったですか、行って。
荻上 ええと、いまふりかえれば。
糸井 いまの映画にある質感、
音楽で言えばサウンドをつくりたい、
みたいなことで言えば、
ものすごく、生きますよね。
それ、すごくおもしろいですよね。
照明さんがおなか痛くなっても
手伝えますね。
荻上 はい、そうですね。
糸井 きっとね。
荻上 きっと。
飯島 ゆでインゲンのしょうがおろしと
鮭じゃが、です。
糸井 食べながら話しましょうか。
監督、お取りください。
荻上 はい。
あ、これ『トイレット』に出てきた!
飯島 はい。鮭じゃがはカナダでの撮影で、
もたいまさこさん演じるおばあちゃんが
煮物をしてたらいいかなと思って考えました。
もうひとつ出てくる料理である
餃子がお肉なので、
こちらはお肉じゃなくて、
鮭を使った鮭じゃがにしてみました。
カナダの鮭がすごくおいしいので。
糸井 ほぉ!
肉じゃがの肉が鮭になるわけだな。
飯島 そうです。
糸井 入ってるのは、
じゃがいもと鮭とにんじん?
荻上 たまねぎ。
糸井 たまねぎも入ってるんですね。
たまねぎも探しとこう。
あったあった、失礼。
へえーー!
いただきます!
(食べる。ほおばる。)
はふ、ほふ‥‥いいんじゃなーい?
荻上 いただきまーす。
糸井 いいんじゃなーい?!
いつものことだけど、いいんじゃなーい!
その、いま、お宅にいらっしゃってる彼は
飯島さんの料理をオレにも食わせろって
言ってないですか。
荻上 あの、言われると思ってたので
だまって来ました(笑)。
糸井 ほんとう(笑)。
荻上 おいしい〜。
糸井 なんかしてるんだろうなぁ‥‥。
なんかしてるんだろうな。
荻上 『LIFE』に
目分量じゃなくて
ちゃんと測ってって書いてあったので
ちゃんとわたしも、
そうしてるんですけど、
もちろんおいしくできるんですが、
やっぱり奈美さんがつくったほうが
うまいのはなんなんでしょうか、これは。
どうしてなんだろうっていつも思う。
自分でもおいしくできるんですけど、
やっぱり奈美さんのほうがおいしいんです。
糸井 なんなんでしょう。
荻上 手からなにか出てるんじゃないかと。
成分が。
糸井 それにちかいことを思いますよね。
なんでしょうねえ。
荻上 なんなんでしょう。
糸井 あの、ここでいただく料理は
もってくる笑顔やら手やら
食器やらそういうものが全部、
飯島さんのものだからっていうのも、
ひとつ、あるとは思うんですよね。
荻上 はい。

(つづきます)

2010-08-24-TUE

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