飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その3 友だちいなくてもだいじょうぶ。
糸井 荻上さんが、最初、
写真がちょっといいなって思ったのは
おもしろいな。
たぶん、ちっちゃいときって、
じぶんが撮った写真を
いいとかわるいとかって判断をしないで
被写体を見てるような気がするんですよね。
なんとかちゃんが笑ってるとか、
富士山がきれいだとか。
荻上 ああ。
糸井 で、ちょっと誤解だとしても、
できあがった写真を
「いいと思った」ってところが、
ちっちゃいときの荻上さんはそれを
すでに写真として見ていたわけでしょ。
荻上 それはそうかもしれないです。
糸井 それは、変わったこどもかなっていう。
荻上 写真と出会う前までは
ずうっとお人形遊びを
ひとりでやってるようなひとで。
中学2年生くらいのときに
ひとりでずっと遊んでいたら
ガチャッと部屋に兄が入ってきて見て
いけないものを見たっていう感じで出て行って、
親に「あれはおかしいから
病院に連れて行ったほうがいい」って
言ってるのを聞いて、
あ、もうこれでやめないといけないんだと思って
やめてしまったんですよ、人形遊びを。
糸井 (笑)。
荻上 それさえなければ
いまも続けていたのかなって。
ちょっと残念でしょうがないんですけど。
糸井 いまやってるじゃないですか!
荻上 あ? ‥‥そうですね。
おっきいお人形‥‥!
糸井 もうちょっと言うこと聞いてくれるお人形。
荻上 たしかに!
糸井 せりふ決めて、
手で動かしてないだけで。
ひとり遊びが好きな子だったんだ。
荻上 はい。いまもそうです。
糸井 そうですか。
それが大きくなったのが
いまの映画なんだ(笑)。
荻上 はい。
あの、でも、さすがに
もたいさんのことをお人形だと思ったことは
一度もないです。
糸井 いままでの映画もそうですけど、
出て来る登場人物に
内側を見つめているようなひとたちが
とっても多くて。
おたがいに、出して表現して
やりとりをするというよりは、
内に向かっている矢印同士が
出会ったら交流が始まったみたいな。
この監督はいっつもそうだなと思って、
それがとてもおもしろくて。
トイレっていう場面そのものが
それの神殿みたいなところで。
荻上 たしかに、ひとりでしか入らない。
糸井 矢印が内側に向かうっていうひとが
いる場所っていうのが
タイトルになっていて、
なおかつ特に説明もされないままに
すごい重要な役割をしていて。
あれー、なんでこんなこと、
すごいなあ、思いついちゃったんだなあって、
すごく感心したんです。

すぐにでてきたアイデアなんですか、
トイレは。
荻上 もともとは男の子がスカートを
はきだすっていうアイデアが
ずっと頭の中にあって、
でもそれだけじゃどうしようかなって
何年も眠っていたときに、
フィンランドから日本に来たスタッフが
トイレに入るたびに写真を撮っていて。
すごい感動したって言うんですよ。
「日本のトイレはなんでこんなにすごいんだ!」
って。
で、あ、外国のひとにとって
日本のトイレって
すごいものなんだっていうところから
アイデアになったんです。
でもあんまりトイレにしてしまうと
生々しくなってしまうのを気をつけつつ、
「いい感じの場所」であって、それは。
糸井 映画としては、空間として、
天岩戸じゃないけど、
入ってドアを閉めて出て来る
時間と空間が、
仮にトイレと名づけたものっていうか。
とうとう説明されないんですよね。
で、みんなが、なんだったんだろうな、
って思うものですよね。
登場人物たちも
なんだかわかんないんですよね。
荻上 そうですね、ええ。
糸井 「ばーちゃん」(もたいまさこさん)は
どうして‥‥。
荻上 なんでなんだろう、って。はい。
糸井 説明する必要はないんだけども、
脚本にはすでにあのぐらいの
わからなさっていうのはあったんですか。
荻上 そうですもう、そのまんま。
糸井 ほっとこうと。
荻上 はい。
ほっといてやろうと。
糸井 ほっとけるのすごいねえ。
荻上 いやあ。
糸井 そのへんもだから、
写真やりたかったんですよね、
っていうので、わかる気がするんです。
写真だったら、ほっといてますから、
そう思うと不思議はないのかなって
思ったんですけどね。
はあーー。
テーマはなんでもいいんですよね。
荻上 そうですね。
糸井 スカートはくっていうことで
こう、広がるさざ波というか。
なかにも広がるし、外にも広がるし。
エアギターもそうだし、
全部こう、自然な人間に
あたらしい材料をぽんと投げてみると、
そこで彼のひとり遊びや
彼女のひとり遊びが始まって。
監督はなにもしないかに見えて
結局それを全部描きたかったわけだから。
ひとり遊びの集合を
ひとり遊びするわたし、みたいな。
荻上 そうですね、たしかにいままで
『かもめ食堂』も『めがね』もそうですけど、
友だちがあんまりいなかったひとたちが、
でもいなくてだいじょうぶだったりする話というか。
内に向かってるかもしれないですね。
わたしも実際あんまり友だちがいなくて。
糸井 たぶん、それが合う友だちとは会えるというか、
そこに住んでたひとたちは
陽気に見せてるひとも含めて、
みんなひとりの時間を持っていて
それが重なりあって。
ああいうことって
そういう形式でつくりたかった、
つくり始めたわけじゃないんでしょうけど。
荻上 でもやっぱり、
『かもめ食堂』とかは
ひとりで立っているような女のひとたちを
描きたくて。
糸井 おっきな荷物みたいなものの扱い、
今度の映画でいえば、
家を処分するとかしないとか、
言い出しっぺにあたる女のひとが
でっかいものを
どっかんどっかん壊していくわけですよ。
『めがね』のときもそうでしたよね。

来生えつこさんの歌詞で
薬師丸ひろ子が歌った
「♪さよならは別れの言葉じゃなくて〜」(*)

*来生えつこ作詞 来生たかお作曲
 『セーラー服と機関銃』
荻上 ありましたね!
そういう歌詞。
糸井 「♪希望という名の重い荷物を、
 君は軽々と、きっと♪」
糸井&荻上 「♪持ち上げて」!
糸井 「♪笑顔見せるだろう」みたいな。
おんなじじゃないですか!
荻上 あははは。
すごーい、うれしいです、それは。
糸井 このひとはこういう時代の
そういうことなんだなって。
かっこいいなあと思うんですよ。
荻上 ふふふふ。
飯島 こちらもどうぞ。
糸井 これは、なんですか?
飯島 骨付きの鶏肉を茹でてダシとったんです。
その鶏肉をきゅうりと和えたものです。
スープはあとで餃子と一緒に出ます。
糸井 ありがとう、
和えてありがとう。
会えてありがとう。
飯島 こちらはゆでインゲンのしょうが和えです。
たまに実家に行くと出るんです。
そういうふつうのものも
たまにはいいなとか思って。
糸井 (食べて)これって、
だししょうゆ以外の味って
つけてないんですか。
飯島 ちょっとだけだしとみりんを入れました。
糸井 やっぱりねえ。
荻上 おいしい〜。
糸井 ただしょうゆじゃない気がした。
飯島 インゲンはそのままだと
キシキシするんで
タテ半分に切ってみました。
糸井 おお、アジアンもいいね!
ぼくの好きなパクチーも。
荻上 おいしいです。

(つづきます)

2010-08-25-WED

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