糸井 | 荻上さんが、最初、 写真がちょっといいなって思ったのは おもしろいな。 たぶん、ちっちゃいときって、 じぶんが撮った写真を いいとかわるいとかって判断をしないで 被写体を見てるような気がするんですよね。 なんとかちゃんが笑ってるとか、 富士山がきれいだとか。 |
荻上 | ああ。 |
糸井 | で、ちょっと誤解だとしても、 できあがった写真を 「いいと思った」ってところが、 ちっちゃいときの荻上さんはそれを すでに写真として見ていたわけでしょ。 |
荻上 | それはそうかもしれないです。 |
糸井 | それは、変わったこどもかなっていう。 |
荻上 | 写真と出会う前までは ずうっとお人形遊びを ひとりでやってるようなひとで。 中学2年生くらいのときに ひとりでずっと遊んでいたら ガチャッと部屋に兄が入ってきて見て いけないものを見たっていう感じで出て行って、 親に「あれはおかしいから 病院に連れて行ったほうがいい」って 言ってるのを聞いて、 あ、もうこれでやめないといけないんだと思って やめてしまったんですよ、人形遊びを。 |
糸井 | (笑)。 |
荻上 | それさえなければ いまも続けていたのかなって。 ちょっと残念でしょうがないんですけど。 |
糸井 | いまやってるじゃないですか! |
荻上 | あ? ‥‥そうですね。 おっきいお人形‥‥! |
糸井 | もうちょっと言うこと聞いてくれるお人形。 |
荻上 | たしかに! |
糸井 | せりふ決めて、 手で動かしてないだけで。 ひとり遊びが好きな子だったんだ。 |
荻上 | はい。いまもそうです。 |
糸井 | そうですか。 それが大きくなったのが いまの映画なんだ(笑)。 |
荻上 | はい。 あの、でも、さすがに もたいさんのことをお人形だと思ったことは 一度もないです。 |
糸井 | いままでの映画もそうですけど、 出て来る登場人物に 内側を見つめているようなひとたちが とっても多くて。 おたがいに、出して表現して やりとりをするというよりは、 内に向かっている矢印同士が 出会ったら交流が始まったみたいな。 この監督はいっつもそうだなと思って、 それがとてもおもしろくて。 トイレっていう場面そのものが それの神殿みたいなところで。 |
荻上 | たしかに、ひとりでしか入らない。 |
糸井 | 矢印が内側に向かうっていうひとが いる場所っていうのが タイトルになっていて、 なおかつ特に説明もされないままに すごい重要な役割をしていて。 あれー、なんでこんなこと、 すごいなあ、思いついちゃったんだなあって、 すごく感心したんです。 すぐにでてきたアイデアなんですか、 トイレは。 |
荻上 | もともとは男の子がスカートを はきだすっていうアイデアが ずっと頭の中にあって、 でもそれだけじゃどうしようかなって 何年も眠っていたときに、 フィンランドから日本に来たスタッフが トイレに入るたびに写真を撮っていて。 すごい感動したって言うんですよ。 「日本のトイレはなんでこんなにすごいんだ!」 って。 で、あ、外国のひとにとって 日本のトイレって すごいものなんだっていうところから アイデアになったんです。 でもあんまりトイレにしてしまうと 生々しくなってしまうのを気をつけつつ、 「いい感じの場所」であって、それは。 |
糸井 | 映画としては、空間として、 天岩戸じゃないけど、 入ってドアを閉めて出て来る 時間と空間が、 仮にトイレと名づけたものっていうか。 とうとう説明されないんですよね。 で、みんなが、なんだったんだろうな、 って思うものですよね。 登場人物たちも なんだかわかんないんですよね。 |
荻上 | そうですね、ええ。 |
糸井 | 「ばーちゃん」(もたいまさこさん)は どうして‥‥。 |
荻上 | なんでなんだろう、って。はい。 |
糸井 | 説明する必要はないんだけども、 脚本にはすでにあのぐらいの わからなさっていうのはあったんですか。 |
荻上 | そうですもう、そのまんま。 |
糸井 | ほっとこうと。 |
荻上 | はい。 ほっといてやろうと。 |
糸井 | ほっとけるのすごいねえ。 |
荻上 | いやあ。 |
糸井 | そのへんもだから、 写真やりたかったんですよね、 っていうので、わかる気がするんです。 写真だったら、ほっといてますから、 そう思うと不思議はないのかなって 思ったんですけどね。 はあーー。 テーマはなんでもいいんですよね。 |
荻上 | そうですね。 |
糸井 | スカートはくっていうことで こう、広がるさざ波というか。 なかにも広がるし、外にも広がるし。 エアギターもそうだし、 全部こう、自然な人間に あたらしい材料をぽんと投げてみると、 そこで彼のひとり遊びや 彼女のひとり遊びが始まって。 監督はなにもしないかに見えて 結局それを全部描きたかったわけだから。 ひとり遊びの集合を ひとり遊びするわたし、みたいな。 |
荻上 | そうですね、たしかにいままで 『かもめ食堂』も『めがね』もそうですけど、 友だちがあんまりいなかったひとたちが、 でもいなくてだいじょうぶだったりする話というか。 内に向かってるかもしれないですね。 わたしも実際あんまり友だちがいなくて。 |
糸井 | たぶん、それが合う友だちとは会えるというか、 そこに住んでたひとたちは 陽気に見せてるひとも含めて、 みんなひとりの時間を持っていて それが重なりあって。 ああいうことって そういう形式でつくりたかった、 つくり始めたわけじゃないんでしょうけど。 |
荻上 | でもやっぱり、 『かもめ食堂』とかは ひとりで立っているような女のひとたちを 描きたくて。 |
糸井 | おっきな荷物みたいなものの扱い、 今度の映画でいえば、 家を処分するとかしないとか、 言い出しっぺにあたる女のひとが でっかいものを どっかんどっかん壊していくわけですよ。 『めがね』のときもそうでしたよね。 来生えつこさんの歌詞で 薬師丸ひろ子が歌った 「♪さよならは別れの言葉じゃなくて〜」(*)。 *来生えつこ作詞 来生たかお作曲 『セーラー服と機関銃』 |
荻上 | ありましたね! そういう歌詞。 |
糸井 | 「♪希望という名の重い荷物を、 君は軽々と、きっと♪」 |
糸井&荻上 | 「♪持ち上げて」! |
糸井 | 「♪笑顔見せるだろう」みたいな。 おんなじじゃないですか! |
荻上 | あははは。 すごーい、うれしいです、それは。 |
糸井 | このひとはこういう時代の そういうことなんだなって。 かっこいいなあと思うんですよ。 |
荻上 | ふふふふ。 |
飯島 | こちらもどうぞ。 |
糸井 | これは、なんですか? |
飯島 | 骨付きの鶏肉を茹でてダシとったんです。 その鶏肉をきゅうりと和えたものです。 スープはあとで餃子と一緒に出ます。 |
糸井 | ありがとう、 和えてありがとう。 会えてありがとう。 |
飯島 | こちらはゆでインゲンのしょうが和えです。 たまに実家に行くと出るんです。 そういうふつうのものも たまにはいいなとか思って。 |
糸井 | (食べて)これって、 だししょうゆ以外の味って つけてないんですか。 |
飯島 | ちょっとだけだしとみりんを入れました。 |
糸井 | やっぱりねえ。 |
荻上 | おいしい〜。 |
糸井 | ただしょうゆじゃない気がした。 |
飯島 | インゲンはそのままだと キシキシするんで タテ半分に切ってみました。 |
糸井 | おお、アジアンもいいね! ぼくの好きなパクチーも。 |
荻上 | おいしいです。 (つづきます) |