糸井 | いま映画の宣伝で 取材とか始まってると思うんですけど、 聞かれるごとにひとは なにに興味があるんだなっていうことが わかってくると思うんです。 取材で来るひとたち、 荻上さんのなにに興味をもたれているようですか? |
荻上 | うーーーん? うーんと‥‥ なんでしょう。なんだろう。 おもしろい質問。 なんかこう、 「『かもめ』『めがね』が一回終わって、 新しいスタートをまた切ったんですね」 って言われたのは すごくうれしかったです。 それから「もう日本じゃ撮らないんですか」 っていうことをよく聞かれました。 そんなことは全然思ってないんですけど、 今回は外国で母国語じゃないところで撮って それでもじぶんがいままで 『かもめ』とか『めがね』で やっとわかってきたような じぶんのカラーみたいなものが 一本とおせるかどうかっていうのが チャレンジだと思っていて。 で、できあがったものを観ると 反省点はいっぱいあるんですけど、 これはできたんじゃないかとすごい思っていて、 そういう充実感はたくさんあって。 今度は全然ほんとうに アフリカとか行って ことばもわかんないようなところで 映画撮ったらどうなるんだろうって。 |
糸井 | えらいねえ! それは観たいですねえ。 あの、ちょっとその、 前と変わったね、って言うひとの 気持ちがわかるのは、 色味が増えたような気がするのね。 |
荻上 | ああ、はいはいはいはい。 |
糸井 | モノクロで撮っていたものが カラーになったみたいな。 あざやかな。 じぶんの色がどこにあったんだか わかんないけど、 赤い色みたいなのがすっと見えた気がして。 あ、色いっぱい使えるようになった、っていう うれしさがあるのかな、とは思いましたね。 |
荻上 | 『かもめ』は、 やっぱりフィンランドの空のスカッとした色と かもめ食堂のブルーの壁と、っていうのが 全体の色味になって、 『めがね』は淡い空と、淡い海のブルーが ああいう色になって。 今回はそんなにすごい意識して 撮っていたわけじゃないんですけど 家の木目のあったかい感じが出てきて 前2作は太陽の光がある感じだったのが、 今回は家でこう、中でこう、 どっちかっていうと暗い感じ、 ロックな感じになったのかなって思います。 |
糸井 | 暗い感じになるのに、色を感じるていうのは なにかがちがうんでしょうね。 ぼくは観てて、中間色じゃないっていうか、 陰影があるっていうか、 それぞれのひとがいままでのひとたちよりも もうちょっとじぶんの考えていることを言いますよね。 |
荻上 | そうかもしれないです。はい。 |
糸井 | 「どっちでもいいんだけどさ」 とか言うものの、(意見を)言いますよね。 |
荻上 | それは、家族だからだと思います、今回は。 |
糸井 | そっかそっか、いままではちがうんだな。 で、「ばーちゃん」は考えっていうのを ほとんど言わない。 あらゆるものにたいして やわらかーい答えしか返ってこない。 そのおばあちゃんにたいして、 きょうだいたちは言わないと始まんない。 あれは、今までの流れのなかには、ないですね。 荻上さんのなかでもしかしたら そういうような変化が? わたしはこれをしたいんだ、とか そういう変化が出てきたのかも? |
荻上 | そうですね、そうかもしれない。 あると思います。 |
糸井 | そうですか。なんかあったの。 やっぱりやっていくうちにそうなっていく? |
荻上 | もう今回はやる前から オレの! オレ! オレがー! みたいなのがありました。 |
糸井 | ふーーん。 |
荻上 | これをやらないとオレになれない! というか(笑)。 |
糸井 | よろしいですねえ。 いま、だまって 『かもめ食堂』のムードでやってたら 社会、もっときつくなってるから、 ひょっとしたら 流されちゃうかもしれないですね。 あの企画もっていって、 みんなにプレゼンしたら、 なんで撮るの? とか あらためて言われちゃったら。 |
荻上 | そうかもしれないですね。 |
糸井 | 今度のは、どっかのところで、 刺さるものっていうか、 針を持ってるっていうか。 正直言ってぼく、 最後、泣きましたからね。 ごくふつうに、ちゃーんと泣いて 「よかったー」って(笑)。 |
荻上 | 泣くような映画をつくったつもりは‥‥。 |
── | (笑) |
糸井 | そういうつもりはない(笑)? しょうがないんですよ! それは、あの子のせいですよ。 |
荻上 | モーリーくん。 |
糸井 | うん、あの子の家族みたいになってるんですよ、 ぼくらが。 そうだよね、 泣くような映画につくったつもりはないよね(笑)。 だけどふつう、泣きましたからねっていうときは、 泣いた話についてちょっとくらいは語るんだけど、 だまーって泣いて、 泣かなかったような顔をして 試写室を出た(笑)。 |
荻上 | (笑) |
糸井 | 荻上さんは、映画のなかで、 だれが好きとか、 つい、だれを中心に考えちゃうとか、 ありましたか? |
荻上 | 話の流れとしてはオタクのレイっていう めがねかけた男の子が中心人物ではあるのですが、 やっぱりそのいちばん最初に思い立つのは スカートはいている男の子っていうので、 彼(モーリー)がけっこう。 |
糸井 | ぼくもそうです。 で、まるで取り返すかのように あのめがねのオタクの子のエピソードが うしろの方でとんととんと重なって、 バランス取ってもらってよかったなあ、って。 つい、ぼくもつい重心偏らせちゃって、 スカートの子にばっかりにいっちゃうんで。 あの子の役割って 長男ってこうなんだよね、みたいなところに 終わっちゃうとかわいそうだなって思ってたから、 ‥‥すーごくよかったなあ。 みんなに愛情が向いたっていうか。 妹の学校のシーンって、 あれは似た体験があったんですか? 演劇学校みたいなシーンがあったじゃないですか。 |
荻上 | はい、詩を読んで、みたいな。 |
糸井 | ものすごくおかしかった! それぞれ順番に キャラクターもった詩を読んで、 先生が講評してっていうので、 あの描き分けって、 人形遊びとしては最高の 腕の見せどころじゃないですか。 |
荻上 | あはははは! |
糸井 | それぞれに、どっかまで裸になって、 どっかは隠していて。 それを表現したり受け止めたりが もう、こんなん(手をからませる)なっていて。 あれはさっきの映画学校っていうところで あった体験ですか。 それともまったくの創作ですか? |
荻上 | いまそれを言われて初めて 気づきましたが、 映画学校でやってました、たしかに。 8ミリとか見せ合って 先生が評価してって。 ああ、すごい! 自分でも知らなかった。 そこからきてたのかもしれないですね。 |
糸井 | 体験なしで、あれつくれたらすごいよね。 覗き見してたとしか思えない。 そうでしたか。 無意識だったんだ、じゃあ。 |
荻上 | そうですね、すっかり忘れてました、 過去のこと。 そっか、すごーい! |
糸井 | ステレオタイプな子がいて それが評価されたりして、 それにたいして、 ステレオタイプの裏返しの子がいて、 それは評価されなかったり。 それを両方見ている たいして水準の高くない先生がいて、 っていうところで 主人公はなにっていうことでもなく、 ちっちゃいかけらを見つけるっていう役ですよね。 あの4つの関係って、 ぼく、ゲームをつくっていたことがあるんで、 シビれましたねえ。 ゲームって結局セリフだけで そのひとを表していくんで、 ああいうことがおもしろいんですよ。 |
荻上 | すっごい、思い出しちゃいました。 |
糸井 | ほんとうですか。 |
荻上 | きっと無意識に あのかわいらしくて チヤホヤされてる子がだれ、って あてはめてやったんだなって思って(笑)。 |
糸井 | シナリオの段階ではもうああいうふうに つくってたんですもんね。 |
荻上 | そうです、はい。 |
糸井 | アドリブじゃないですもんね。 |
荻上 | はい。 |
糸井 | あれ、たぶん、学生とかが演技したら 素直にあの役にハマれる子とか いるかもしれないなと思うと ちょっと愉快で。 あのへんのいじわるさが 隠し味としてね、たまんないんです。 |
荻上 | いじわるさが(笑)。 |
糸井 | やっぱりいじわるだと思うんですよね。 ステレオタイプのアンチの子が オタクのお兄さんのことをバカにしてて、 ああいう役割で決着がついたってことは やっぱり、ああ、いじわるが完結したなって。 しゃべってると思い出しますね。 (つづきます) |