飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その5 たとえことばがわからなくっても。
糸井 どこのところがジタバタした場所ですか。
荻上 撮っててですか。
糸井 お話つくるにあたってでも。
エンドは決まってたんですか。
荻上 エンドが、決まってたんです。
糸井 やっぱりそうか!
荻上 エンドが決まってて、
あそこがやりたくて
あそこに行き着くように、こう。
糸井 たぶんそうだと思ったんで。
逆算ですよね。
すると、あたまもけっこう
早く決まりますよね。
荻上 あたまも決まりました。
おしりが決まって、
あたまも決まったらコンピュータに向かって
書き始めてしまって。
行きどまって、また考えて、みたいな感じを
くり返すんですけど。
糸井 お客として、そのとおりに観ましたね(笑)。
すっごい素直に観たな〜。
ケツがいちばんで、
あたま2番目に決まって、
あとはお人形遊びとして、
あっち動かしたら
こっちにぶつかったり、
全部おもしろかったなあ。
場所はどう決まったんですか。
荻上 場所はですね、
最初は、アメリカ東海岸の
どこかで撮りたいと思っていて。
わたしは映画学校が西海岸だったんですが、
あのカラッとした空気の感じよりは
絶対しめった空気のほうがいいと思って、
どこか東海岸で、って探しだしたら、
カナダのトロントが候補にあがったんです。
けっこう気候がよくて、
ボストン的な古い家とかがあって、
緑もあってっていうところで、
けっこうアメリカの映画でも
撮影地になることが多くて。
そういうのがあり、
最終的にあそこになりました。
すごく撮りやすかったです。
糸井 「こうしたいなー」って思ってからは、
監督の仕事としては、
プロデューサー的な苦労はないんですか。
荻上 わたしはだいじょうぶですね。
プロデューサーさえ、やるって
言ってくだされば。
糸井 いいチームですねえ。
それは全然へっちゃらなんですか。
映画
スタッフ
へっちゃら‥‥じゃあ、
ないんですけど。
糸井 監督がこうしたいんだ、ってことは
だいたい聞いてあげられるような
範囲内なんですか。
映画
スタッフ
やっぱり監督の作品なんで、
プロデューサーは全面的に受け入れて
いかに実現するかっていうことが
仕事になります。
荻上 私はそういうところでは
あんまり心配していなくて。
糸井 ケースとしては恵まれているというか
めずらしいというか。
荻上 恵まれていると思います、たぶん。
糸井 これはあきらめてね、みたいなことを
いっこ入れるたびに
なにか、変わるじゃないですか。
そういうことは、
あんまりなかったっていうことですよね。
映画
スタッフ
そうですね、はい。
糸井 すばらしいことですね。
キャストも現地のスタッフも
そうですもんね。
連れて行くより、
やっぱり現地のスタッフのほうが
いいんですか。
荻上 『かもめ食堂』のとき、フィンランドで
現地のカメラマンとかスタッフでやって
すごくよかったんですね。
あのゆったりさって、
彼らがつくってくれたと思っていて。
わたしは日本でやってきて
どんどんせっかちに、
次、次、次! ってあせりながら
映画撮るのに慣れていたんですが、
彼らは絶対に走らないし、
すごく、ドンとかまえていて。
最初はもう、
どうしてもうこんな時間がないのに
のんびりしてるんだろう、って
あせってたんですけど、
もう3日めくらいから
あせってもしょうがないので、
彼らに合わせようと思いましたから、
そういう雰囲気になれた気もしますし。
あとカメラマンの目とかが
日本人が見る目とは違う感じで、
空気感みたいなものも
ちゃんと画のなかにとらえてくれて、
すごい美しい映像になったと思って。
そんな経験があったので、
やっぱりあちらのひとの
あちらの目で
映像をつくってもらいたいと思って。
糸井 画の品質感っていうのは
カメラマンと話し合ってつくるわけですよね。
荻上 はい。
糸井 で、これでいいんだ、っていうのは
ためし撮りで決めていくんですか。
荻上 いや、カメラマンの候補がいっぱいいて、
そのいろんなひとの映像を観て、
このひととやりたいって
最初に決めた段階で、
わたしが、もう全面信頼しているので。
糸井 「ひと」なんだ。
荻上 はい。
打ち合わせはもちろん
こまかくしますけど、
こんな色あいで、こんなふうに、って伝えたら
あとはもう彼らの力量でやってくれ、って、
おまかせしたりします。
糸井 はあ。
やっぱりひとで決めちゃったら
そのひとと微調整すればいいだけですもんね。
仕事の仕方としては
これから先は
どんどんそうなっていくんだろうなあ。
アメリカで映画の学校に
いらっしゃっていたっていうことでいうと、
むこうの言い分とかも理解しやすいでしょ。
荻上 そうですね。
糸井 「ちがうよー!」って水掛け論になったり
しないでしょ。
荻上 しないですね、ええ。
糸井 よかったですね。
芝居は外国語でやってるわけですが、
いいかわるいかっていうジャッジは
どういうふうにするんですか。
荻上 ううんと、でも‥‥。
糸井 わかる?
荻上 はい。なので、たぶん、
ことばがほんとにわかんなくても
だいじょうぶなんじゃないかって
思ったんです。
次、アフリカだか
メキシコだかわかんないですけど(笑)。
糸井 そこ、ものすごい大事なところですよね。
お客もじつはわかんないですよね。
ことばの使い方とか。
だけど、いい芝居しているかどうかは、
わかるんですよね。
いまの話は
すごく重要なことのような気がするなあ。
アフリカでもだいじょうぶですよね、きっとね。
荻上 はい、だいじょうぶだと思います。
糸井 で、その逆の例ってわかるんですけど、
ハリウッド映画に日本人が出るじゃないですか。
そのときに、
素人同然の役者とかを使ったりもして
ヘタなやつがヘタな演技してて、
オッケー出てるじゃないですか、
ハリウッドの映画は。
あれはなんなんだろうと。
── (笑)
糸井 からかいがてらに言われるのは
『ブレードランナー』の
うどん屋のオヤジですけど、
「ヒトツデジュウブンデスヨー」。
だいたいあんなもんですよね。
ということは、
ハリウッドの映画への考え方っていうのは
いまぼくらがしゃべってるのとは
ちがうことをしてるんじゃないかな。
荻上 そうですね。
糸井 三船敏郎が出てるのとかだって、
ヘンなんですよね。
でもオッケー出しちゃってるんですよ。
おかしいですよね。
飯島 おまたせしました、餃子です!
糸井 きちゃったー!
荻上 おおーー!
 
(つづきます)

2010-08-27-FRI

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