縦3メートル、横4メートルもの大画面を、
先端1ミリ以下のペン先で埋める。
それも「3年3ヶ月」という時間をかけて。
東日本大震災をモチーフにした、
「超絶技巧」による、巨大な細密画。
‥‥と書くと、すごみや威圧感ばかりを
感じてしまいそうですが、
その実、画面には明るさが満ちています。
一大建築物みたいな「誕生」を描いた
池田学さんに話をうかがいました。
現在は金沢21世紀美術館で、秋には東京で。
ぜひ遠くから、近くから、見てほしいです。
担当は「ほぼ日」奥野です。
Profile池田学さんについて。
第
1
回
3m ✕ 4m の大画面を、
1ミリ以下のペン先で埋める。
- ──
- 池田さんの画集『The Pen』には、
この巨大な作品を描きはじめる直前の、
真っ白い画面を、
じっと見つめている姿が載ってますね。
- 池田
- はい。
- ──
- あれは、「さて、どうしよう?」と。
- 池田
- ここに、どんな絵を描こうかなあって、
考えていたんです。
- ──
- 描きはじめるまでに、
どれくらい、かかったんですか?
- 池田
- 3年かけて絵を描くぞって決めたのが、
スタートの1年以上前です。
- 2012年に、アメリカの
ウィスコンシン州マディソンに行って、
チェゼン美術館の
アーティスト・イン・レジデンス
(滞在制作)プログラムの話を聞いて。
- ──
- ええ。
- 池田
- で、その1年以上あとの2013年6月に、
マディソンの町に引っ越しました。
- 実際、大きなパネルを目の前にして、
「どうしよっかな?」と考えていたのは、
数週間‥‥1ヶ月ないくらい、です。
- ──
- その間、画面は、ずっと真っ白?
- 池田
- やっぱり、壁にかけて眺めてみないと、
わからないんですよ。
- あたまのなかで描いているイメージと、
目の前のパネルとじゃ、
スケールに、かなり隔たりがあるので。
- ──
- なにせ「縦3メートル、横4メートル」
という巨大さですものね。
- 池田
- ただ、真っ白な画面をじーっと眺めて、
えんえん考えていたわけじゃなくて、
当時、まだ何も‥‥
住む場所さえ決まってなかったので、
アパートを探したり、
いろんな用事を足しながら、ですけど。
- ──
- 引っ越しのダンボールを開けたりとか。
- 池田
- そう、その合間にスタジオへ行って、
真っ白い画面の前で、
しばらく「どうしようかな」と考えて、
また、アパートに戻って‥‥。
- ──
- 数週間後、最初は、どこから?
- 池田
- 左下の角から。
- ──
- 具体的には、何を描いたんですか?
- 池田
- ガレキです。そこから、
しばらくガレキばっかり描いてました。
- ──
- 画集のうしろのほうに、
3年間の絵の変遷が載っていましたが、
左隅を描いている段階では、
最終的な全体のイメージというのは?
- 池田
- 何にもないです。
- ──
- じゃ、ご自身でも
「どうなるんだろう」って思いながら、
少しずつ、描いていた?
- 池田
- そうですね。
- 3年間、レゴをひとつひとつ積んで、
ときどきバランスを見て、
また積んで‥‥みたいな感覚です。
- ──
- 池田さんは、こんな巨大な作品を、
先端1ミリ以下という、
針みたいなペン先で描かれていますから、
まさしく、
「レゴブロックで、お城を造っちゃった」
みたいな感じですよね。
- 池田
- 3年間ディテールを積み上げていったら、
「大きな全体」が出来上がったというか。
- ──
- 素人ながら、
全体のバランスをどう取ったのかなって、
思いました。
- 生物学者の福岡伸一さんも
「細かなものを積み上げていく作業は
全体のバランスを取るのが難しいけど、
池田さんの絵には、
そこの部分でまったく破綻がない」
という解説をしてらっしゃいましたよね。
- 池田
- ぼくの絵は、1日に、だいたい、
拳一個ぶんくらいしか進まないんです。
- ──
- 1日に「10センチ四方」と聞きました。
- 池田
- ただ、描いているときは、
その「10センチ四方」の狭い範囲だけを
見ているわけじゃなく、
もっと広いスペースを視野に入れながら
描いているんです。
- それに「3年」という時間をかけて、
自分の中で行きつ戻りつしながら描くので、
全体のバランスを取ることは、
自分としては、そう難しくはなかったです。
- ──
- なるほど。
一気に描き上げるわけじゃないから。
- 池田
- あと、この絵は美術館での「公開制作」で
描いたものですが、
スタジオが広かったことも、助かりました。
- 週に一度は、途中段階の作品を壁にかけて、
しばらく遠くから眺めて、
また、もとに戻して細部を描いて‥‥
という繰り返しで、描き進めていけたので。
- ──
- ミクロとマクロ、
細部と全体を往還できた、と。
- 自分のことを考えてみますと、
完成が3年も先なんていう仕事はないので、
単純に、3年後のことを見据えて
日々の作業を進めるのって、
どういう感じなのかなあと思ったりします。
- 池田
- まあ、ぼくの作品の場合、
1年や2年はかかるのが「ふつう」なので。
- ──
- あ、そうなんですか。
- 池田
- たとえば、縦1.9メートル横3.4メートルの
「予兆」という作品の場合は、
だいたい2年くらい、かかってるんですね。
- 何年という単位の仕事に慣れているので、
今回の「3年」というのも、
これまでいちばん長い期間ではあるけど、
経験上、1カ月でこれくらい、
半年後にはこれくらい進んでるだろうな、
という予測は立つんです。
予兆
2008
190×340cm
株式会社サステイナブル・インベスター蔵
撮影:久家靖秀
©IKEDA Manabu
Courtesy Mizuma Art Gallery
- ──
- じゃ、果てしなく長い道のりだとは‥‥。
- 池田
- 思わないです。
いつかは終わるとわかってやってるので。
- ──
- 描きはじめた時点では、
「最終的には、こういう作品にしたい」
という具体的イメージはないって、
さきほど、おっしゃってましたが‥‥。
- 池田
- ないですね。テーマがあるくらいで。
- ──
- それっていうのは、
明確な言葉になっているようなもの?
- 池田
- この「誕生」について言えば、
東日本大震災が制作のきっかけとなりましたが、
それは「震災からの復興」とか、
「日本を元気づけたい」とか、
そういうことでは、ありませんでした。
- ──
- では、どんな‥‥。
- 池田
- 描きたいという動機につながってるのは、
もっと漠然とした何かなのですが、
あえて言葉にするならば、
「震災との共生」
「震災とどのように共存していくか」
ということだったと思います。
誕生
2013-2016
紙にペン、インク、透明水彩
300×400cm
photography by Eric Tadsen for Chazen Museum of Art
©️IKEDA Manabu
Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore
池田学さんの展覧会、
金沢21世紀美術館で開催してます。
画集『The Pen』も発売中。
3年3ヶ月もの時間をかけて、
縦3メートル、横4メートルの大画面を、
先端1ミリ以下のペンで埋めた大作
「誕生」をはじめ、
池田さんの画業20年の全貌がひろがる展覧会
『池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー』が
金沢21世紀美術館で開催中です。
会期は7月9日(日)まで。
青幻舎から刊行されている同名の画集も、
たいへんすばらしいのですが、
機会があったらぜひ、
実際に見ていただきたいなと思いました。
下から見上げたときの壮大さ、
間近で凝視したときの緻密さ。
やっぱり実物の迫力は、すごかったです。
秋には東京にも巡回するみたいですよ。
(日本橋高島屋で9月27日~10月9日)
池田学さん展覧会情報!
(2017年8月2日 追記)
東京・市ヶ谷のミズマアートギャラリーで
大作『誕生』を中心にした展覧会を開催中
(2017年9月9日まで)。
また、佐賀・金沢で開催した巡回展
『池田学展 The Pen -凝縮の宇宙-』も
東京・日本橋高島屋で開催されます
(2017年9月27日~10月9日)。
池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー
- 会 場:
- 金沢21世紀美術館 展示室1~6
- 会 期:
- 2017年7月9日(日)まで ※終了しました
- 時 間:
- 10時~18時(金・土曜は20時まで)
- 電 話:
- 076-220-2800
※入場料金など詳しくは
展覧会の公式サイトでご確認ください。
池田学『The Pen』(青幻舎刊)
Amazonでのお求めは、こちら。