「池上彰」という新しい職業。 「池上彰」という新しい職業。
キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
第1回 「池上さん」ができるまで
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糸井
池上さんがいらっしゃるという噂を聞いて、
「ほぼ日」の社員もたくさん聴きに来ています。
みんな、池上さんから学びたいことが
たくさんあるんだと思いますが、
ぼくもお訊きしてみたいことがありまして。
池上
はい、なんでしょうか。
糸井
池上さんみたいな役割が、
今までになかったものだと思っているんです。
つまり、「池上彰」という職業ですよね。
池上
職業ですか(笑)。
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糸井
どのあたりから「池上さん」という
役割ができたのか、とても興味があるんです。
ぼくが離れたところから見ていると、
『週刊こどもニュース』が大きかったのかな
と思うんですが、どうでしょうか。
池上さんが「今の自分を作っちゃったな」
と思うことを教えていただけませんか。
池上
今になってみれば、
3つの転機があったんだろうな、と思うんです。
ひとつめの転機としては、
NHKで記者をしていた私が、
突然「首都圏ニュースのキャスターをやれ」
と言われたことでしょうかね。
もともと私はNHKの社会部の記者として、
警視庁捜査一課、捜査三課を受け持っていて、
殺人・強盗・放火・誘拐の専門記者でした。
糸井
あっ、そうなんですか?
池上
実はね、殺し専門記者だったんです。
「お前の目は、刑事(デカ)の目だ」って、
同僚に怖がられていましたよ(笑)。
糸井
はあー、そうでしたか。
池上
事件があれば現場に行く。
毎晩、おまわりさんのところへ夜回りに行く。
とにかく特ダネを書かなければいけません。
視聴者がわかっているかなんて関係ない、
ライバルの新聞記者を出し抜きたい。
その一心で仕事をしてきたんです。
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糸井
別の見方をすれば、
「嫌なヤツ」でもありますよね。
池上
嫌なヤツですよ、もちろん(笑)。
事件記者はみんな、嫌なヤツですから。
警視庁を担当している記者って、
明らかに人格的に破綻していたり、
一般の会社では
やっていけなかったりする人が集まって
特ダネを抜き合っているわけですよ。
特に東京にいる記者というのは、
地方で特ダネをとって東京に来た猛者ですから。
もうね、絶対に知り合いになりたくない(笑)。
糸井
そうか、東京にいる特ダネ記者は、
甲子園に勝ち上がってきたようなものですね。
池上さんも、そこに染まっていたんですか。
池上
染まっていました。
糸井
はあー、そうでしたか。
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池上
そんな殺し専門の記者だった私に、
突然「首都圏のニュースをやれ」ですよ?
糸井
急に穏やかなものになりましたね。
池上
首都圏のニュースですから関東地方の1都6県、
宇都宮とか、前橋とか、千葉とかにいる
比較的若い記者が書いたニュース原稿を
キャスターとして読むわけですね。
私はニュースを読む立場になって初めて、
他の記者が書いた原稿を読んだんです。
それまでは自分でリポートをし、
自分で原稿を書いていたわけですから。
記者の原稿を初めて読んだらね、
もう‥‥、衝撃でした。



こんなにわかりにくくて、
つまんないのか、
NHKの原稿は(笑)!
糸井
わかりにくかったんだ。
池上
私みたいな素人が原稿を読んでみて、
アナウンサーは偉大だなと思ったんです。
若い記者が書く拙い原稿も、
アナウンサーならプロとして、
見事にわかりやすく読んじゃう。
私はずっと記者をしていたわけですから、
アナウンス技術を磨いたことがなかったんです。
ためしにスタジオで練習してみたら、
文章が長すぎて息が続かない。
なんだこりゃって話になりました(笑)。
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糸井
アナウンサーは、
読み方の技術でカバーしていたんですね。
池上
そう、読み方なんですよ。
拙い原稿を書いた記者は、
アナウンサーが読んでいるのを聞いて
「あっ、俺の原稿なかなかのものじゃないか」
と勘違いしてしまうんですよ(笑)。
糸井
一回、肉体を通すことで
濾過されていたわけですね。
池上
そういうことだったんです。
さて、突然ニュースを読むことになった私は、
アナウンサーと違って息が続きません。
そこで居直ったんですよ。
アナウンサーみたいな真似ができないなら、
読めるように原稿を書き直せばいいんだ、と。
糸井
ああ、なるほど。
池上
当時の私は「デスク」というポジションにいたので、
原稿を書き直せる権限が与えられていたんです。
アナウンサーだったら渡された原稿を
その通りに読まなければなりませんが、
私の場合は書き直すことができました。
息が続かないから、長い原稿は短く切るんです。
私の息が続くレベルで短く切っていくとね、
わかりやすくなるんですよ(笑)。
糸井
まずは、長さが問題だったんだ。
池上
そうです!
そしてさらに、
長い原稿だと途中に接続詞なんかが入りますよね。
本来論理的につながらないはずの文章でも、
なんとなく論理的につながっているかのような
原稿になってしまうんです。
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糸井
うん、うん。
池上
文章をぶった切っていくと、
「あれっ、論理的につながらないじゃないか」
ということにも気づくわけです。
糸井
ああ、バレちゃうんだ。
池上
論理的につながっていないなら、
わかるように書き直そう、
ということをやっていくんです。
ここで劇的に「わかりやすさ」とは何かを
考えるようになりました。
糸井
記者の原稿を書き直すということは、
それまで記者をしていた自分に対する、
自己否定でもあるわけですよね。
池上
そうですね。
記者をしていた頃には
気づいていませんでした。
これが、ひとつめの転機になりました。
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(つづきます)
2018-11-28-WED