キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
- 糸井
- 池上さんは本を書くことで、
自分自身を探検していることにも
なっているのかもしれませんね。
- 池上
- ああ、探検になっているでしょうねえ。
私は高校時代、世界史が大嫌いだったんです。
世界史を全然勉強していなかったことを
今になって後悔しているんですよ。
今なら第二次世界大戦後の現代史のことは
誰にも負けないぐらい知っていますけど、
それ以前のことは全然知らないなって気づきました。
たとえば、オスマン帝国のことを調べてみると、
今が見えてくるようなものが
たくさんあっておもしろいんですよ。
- 糸井
- ああ、ぼくもわからないことばかりです。
でも、後で世界史を知ったおかげで、
大人になってからでも
新鮮さを感じることができたんですよね。
それは、勉強しなかったおかげでもあるのかも。
- 池上
- そうなんですよ。
たとえば、最近はこんなことで驚きました。
中国が突然「南シナ海は自分の海だ」
と主張するようになりましたでしょう?
南シナ海は中国からずいぶん離れているのに
なんでだろうと思って調べてみたら、
中国側の主張としては、こういう理屈があるんです。
大航海時代より90年も前に、
明の時代に鄭和(ていわ)という人が開拓をし、
中東までの航路を切り開いた。
だから、明の時代に南シナ海を中国の海にした、
という主張をしているんですよ。
- 糸井
- はあー。
- 池上
- ある種、目からウロコですよね。
乱暴なことを言うもんだなと思っていましたが、
中国にもそういう理屈があったんですよね。
私は大航海時代といえば、
コロンブスとかマゼランを連想しましたけど、
彼らより90年も前に
鄭和が大船団を組んで南シナ海を開発し、
インド洋から中東まで行っているんです。
ソマリアまで行き、キリンを連れて帰ったそうです。
今の中国の一帯一路の航路は、
鄭和が切り開いた航路そのものなんですよ。
- 糸井
- 今の中国の支配者は、
アレクサンダー大王みたいに
なりたいんでしょうか。
- 池上
- いや、中国の習近平としては、
明の帝国を復活させたいと
思っているんじゃないでしょうか。
明のあとは清でしたよね?
清は異民族で、漢民族じゃないんです。
漢民族の大帝国といえば、明の時代ですから。
- 糸井
- 中国は明になりたいんだ。
- 池上
- 漢民族としては、
清の時代に異民族支配を受け、
アヘン戦争や日清戦争で
どんどん領土を取られてしまった。
明の時代にはあれだけの大帝国だったんだから、
復興させたいという野心があるわけですよ。
しかも、オランダの経済学者の分析によると、
明の時代のGDP世界1位は中国だったんですよ。
- 糸井
- 当時は中国が世界一だったんですね。
- 池上
- そう、歴史がそのままだったら
GDP世界一は中国になるはずだった。
清のあと、中華人民共和国になって
毛沢東が大失敗をした結果、
ひどいことになっただけなんです。
- 糸井
- GDP世界一に関しては、
もうすぐその日がやってくる
という展望なんですね。
- 池上
- 中国が本来の姿に戻ろうとしている、
というふうに見ると
見方が違ってきますよね?
- 糸井
- いやあ、弱ったなあ。
考え直さないといけませんね。
- 池上
- アメリカのトランプ大統領が中国に訪れたとき、
習近平は故宮(紫禁城)でいろんなもてなしをした、
というニュースがあったのを覚えていますか?
あのときに日本の新聞は
「トランプを皇帝並みに接待した」と書きましたが、
私に言わせると違うんですよ。
習近平が「皇帝として」紫禁城でお客を接待したんです。
それまで中国共産党の歴代のトップは
紫禁城には立ち入らなかったけれど、
習近平は入っていったんです。
なにせ、自分が皇帝になろうとする人ですから。
- 糸井
- ああ、その目で見ると、
世界地図がまたおもしろく見えてきますね。
この地球儀(ほぼ日のアースボール)もいいでしょ?
- 池上
- いいです、これ。すごくいいですね。
そうだ、この地球儀をよく見てください。
北方四島のあたりに
赤い線が引いてありますよね。
でも、北海道の北にも線が引いてあって、
サハリンの真ん中にも線がある。
- 糸井
- なぜでしょうか。
- 池上
- 日本はサンフランシスコ講和条約で
サハリンと千島列島を放棄しました。
しかし、ロシアとは
平和条約を結んでいないので、
国境線を確定していないんです。
- 糸井
- 平和条約はまだこれからなんだ。
- 池上
- 日本の普通の地図を見ると、
サハリンは下半分が白く塗ってあるんです。
日本の色でもなく、ロシアの色でもありません。
では、なぜ白いのでしょうか。
これはつまり、平和条約を早く結ぼうよ、
という日本なりのアピールなんです。
- 糸井
- 日本からの提案なんですね。
- 池上
- 地図を見るだけで
わかることがあるんです。
- 糸井
- いやあ、おもしろかったです。
掘り下げればまだ、
いくらでも出てきそうですけども、
こんなところで、2時間にわたる特番を
終わってもよろしいでしょうか。
- 池上
- はい。
- 糸井
- 今日は本当にありがとうございました。
- 池上
- どうもありがとうございました。
(おわります)
2018-12-10-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN