イベント「活きる場所のつくりかた」より
今井紀明さん、朴基浩さんのおはなし

ひとりひとりの若者が
自分の未来に希望を持てる社会のために、今できること
第2回
通信制高校を卒業するふたりにひとりが
進路が決まらないまま卒業している。
今井
私たちNPO法人D×Pが何をやっているのか、
という話をします。
簡単にいってしまうと、
「通信制高校でのキャリア教育支援事業」
ということなんですが、
わかりづらいので、説明します。
昔のイメージでは、通信制高校って、
勤労学生が通っていたところなんですよね。
でも、それが、完全に変わっています。
週に数回、あるいは年に数回などの通学で、
高校の卒業資格がとれるのが通信制高校です。
現在、通信制の高校に
在籍している生徒は、約18万人。
全日制に通う高校生が減少している中で、
増加傾向にあります。
学校は、半数以上が私立学校で、
その数も、この10年でどんどん増えています。

そして、生徒のうちの約6割が高校中退者。
さらに約4割が中学時代の
不登校経験者だと言われています。

それから、ここが重要なポイントなのですが
通信制高校を卒業する高校生の約ふたりにひとりが、
進路が決まらないまま卒業しているんです。
文科省のデータによると、
定時制高校よりも通信制高校の卒業生の方が、
より多く、無業者やニートになっている、
という現実があります。
そんなわけで、ぼくたちは、まず
「通信制高校に通う高校生」に対して
アプローチしていこうと決めました。
私たちが、この問題を解決するために、
何を目的に支援をしているか、というと

①社会関係資本の獲得(人とのつながり)
②成功体験の獲得(自己肯定感)


社会関係資本、とありますが、
これは「人とのつながり」です。
どれだけ多様なコミュニティに属し、
多様な知人、友人がいるか、ということが、
若者の選択肢の幅を決める要素になっています。
不登校の経験がある生徒、
それからいじめを経験した生徒、
家族との関係に問題をもっている生徒には、
コミュニケーションが苦手な子も多く、
この「人とのつながり」が少ない、
という現状があります。
次に成功体験の獲得です。
今、希望がないというか、自分に自信が持てない
自己肯定感の低い生徒が多いんです。
成功体験がないと、自信を持つことは難しい。
やはり、体験の有無や大小が
若者の進路や就職を決める際に影響しています。
そこで、社会に出る前に成功体験を積む、
これは大切なことだと考えています。

さて、私たちの具体的な活動の内容ですが、
まず、1段階目の支援に基盤プログラム
「クレッシェンド」があります。

2014年度は、通信制高校と定時制高校、
あわせて約500名が、
このプログラムを受けています。
これは、高校で単位認定してもらっている
プログラムなので、正規の総合学習として
生徒は授業を受けます。
この授業の特徴は、とにかく生徒たちを、
「できない」から
「やってみたい」というところまで
持っていくということにあります。

どういうことかというと、
今の通信制の生徒たちって、
いわゆるヤンキーはほとんどいないんです。
元気な子がとても少なくて、
静かなタイプの子が圧倒的に多いです。
ひきこもりや不登校を経験したり、
親や先生、友だちとの関係で
トラブルを抱えていたりして、
人と話すのが苦手な子も多い。
でも、単位認定されている授業なので、
来たくないと思っている生徒でも
はじめは参加してくれます。

プログラムは、1チームの生徒10人を、
「コンポーザー」と呼ばれるボランティアの方と
スタッフの8人で担当します。
コンポーザーとは、18歳~39歳の
大学生、社会人のボランティアスタッフです。
説明会、面談、そして研修を経て、
実際にプログラムに参加していただきます。
「否定しない」
「様々なバックグラウンドから学ぶ」
「歳上・歳下から学ぶ」という
私たちが大事にしている三つの姿勢を理解して
実践していただける方にお願いしています。

3ヵ月間、3~4回のプログラムで、
授業数でいうと12コマぐらいです。
期間中、チーム構成は変えず、
話し合ったり、時には協力してゲームをやったり、
お互いを「否定しない」というルールのもと、
同じメンバーで進めていきます。

まず、1回目は、コンポーザーが、
自分自身の失敗体験談を語リます。
生徒は、3~4人で車座になって話を聞きます。
コンポーザーが、
「自分は昔、こんなふうに不登校になって、
 高校中退したけど、
 今、こんなふうに生きている」とか、
そんな話をしてくれます。
2回目は、コンポーザーの仕事や学校の話を聞いて、
自分の進路についても考えたりします。
3回目、4回目は、
生徒が興味をもっていることや、
やってみたいと思っていることを
お互いに話し合います。
少人数の同じメンバーで回を重ね、
信頼関係ができていくんですね。
はじめは、ほとんど話せなかった生徒が、
話せるようになっていくんです。
コンポーザーの方々には、
ご自身が不登校やひきこもり状態を
経験した方もいらっしゃいます。

コンポーザーのみなさんは、
生徒と関わっていくなかで、
子どもたちが自分と向き合って、
変化して行く姿、成長する姿を見られるのは
おもしろい、と話してくださいます。

このプログラムが終わると、
だいたい8割ぐらいの生徒たちが、
何かしら「やってみたいと思った」
と答えてくれています。
人とのつながりができて、
様々なバックグラウンドの大人と出会うことで、
自分も何かやってみたい、という気持ちに
なってもらえるんだと思います。

このプログラムによって、
「何かやってみたい」と思えた生徒が、
今度は「できた」を実現してもらうための
チャレンジプログラムが
「フォルテッシモ」です。
私たちの、第2段階の支援になります。
学校の枠をこえたサークル活動、
たとえば登山部、写真部なんかがあります。
写真部では、アート展を開催したり、
写真集を作成したりして、
インターネットで販売しました。

それから、地方の企業と組んで、
企業インターン制度も実施しています。
これは海士町での牧場研修。
2週間ほど親元から離れて、
実際に仕事を体験します。
湯布院でも広がっています。

コンピューター、
ゲーム関連に興味がある生徒には、
PCの研修講座を開催しています。
このように、生徒たちのニーズにあわせた、
チャレンジプログラムをとおして、
「できた」の体験を増やし、
進学や就職につなげられたら、と思っています。

紹介させていただいた2段階のプログラムで、
進路決定率を8割ぐらいまで高めていっています。

最後に、D×Pのこれからの方向性ですが、
私たちのゴールは、
「ひとりひとりの若者が
 自分の未来に希望を持てる社会をつくる」
ということです。
どんな状態の若者であったとしても、
自分の将来を描ける社会というのが、
希望を持てる社会だと思います。

高校中退や不登校を経験して
挫折してしまった子たちがたくさんいます。
自分でアルバイトができたり、
先生が救ってくれる子だったらいいかもしれませんが、
自分の中に閉じこもってしまう子に関しては、
なかなか動きだせないですよね。

だけど、先生方と協力して、
うちみたいなNPOが入って、
仕組みを作っていくことで、
彼らはやっぱり変わっていくんです。

実際に、通信制や定時制の子たちと関わっていると、
優秀な子が多いなぁ、と感じます。
非常に優秀な子が、
ただ1回の失敗体験で、
挫折して、復活できなかった、というケースが、
やっぱり多すぎると思うんです。

そこで、ぼくと朴の体験が重なってしまう。

たとえば、ぼく自身も対人恐怖症で、
4年間ひきこもりました。

これは、非常にもったいないことだと思うんです。
20歳未満の段階で、希望がない状態を経験して、
復活をサポートする仕組みがなかったから、
消えていってしまう、ひきこもってしまう、
というのは、もったいないことだと思うんです。
だから、ぼくたちは、
「ひとりひとりの若者が
 自分の未来に希望を持てる社会をつくる。」
これをやっぱりビジョンとしてやっていきます。
とてもありがたいことに、
いろんな企業さんが協力してくれて、
2014年度は、
大阪、京都、滋賀の約10校で活動しています。
今年度はたぶん1.5倍ぐらいの数の高校で、
私たちの授業と支援を届けることができます。
本当に皆さんのおかげです。
今後も、みなさんと一緒に、
活動していきたいと思っています。
今日は、本当にありがとうございました。
会場
(拍手)
(第3回のトークにつづきます)

2015-07-03-FRI

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今井紀明さん、朴基浩さんのおはなし
ひとりひとりの若者が
自分の未来に希望を持てる
社会のために、今できること

第1回
一回落ちると二度と戻れない。
「なんだ、この予断を許さない社会は」

2015-07-02
第2回
通信制高校を卒業するふたりにひとりが、
進路が決まらないまま卒業している。
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あまりにも人と違いすぎて、
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